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第35話 久しぶりの声

その日は、突然やってきた。


日課の本チェックをしていたところ…

《新しい機能が解放されました。》という表示が出た。

そこで何げなくポップをタッチすると…

《イクスブックを杏弥の本に接続し、通話が可能になりました》

「えっ?!」

試し続ける事8年間…

赤ちゃんの時からやっていたのが、ようやく…

震える手で杏弥を呼び出す、というボタンを押す。

電話マークが揺れている。

そして…


『もしもし!!もしもしさなえちゃん!!…聞こえてますかー!』

『杏弥!!』

『あ!早苗ちゃん!よかった。いきなり本が震え出したからびっくりしたよ。』

呼び出すと震えるのね。

携帯電話か。

ツッコミたくなる。

『それで、杏弥…元気なの?』

『もっちろんだよ!!そういう早苗ちゃんはどう?無理してない?』

杏弥はいつも、無理してない?って聞いてくれる。

ああ、杏弥だなぁ…と思うと、目の前が曇ってくる。

『え…ええ、大丈夫。大丈夫よ。』

あなたと話す事を考えるだけで、義母の嫌がらせなんて、代償には軽いって思えた。

こっちでも温かな家庭が得られなかった事も、今日を目標にしていたから、気にしないようにできた。

『早苗ちゃん…泣かないで、また僕たちさ、いつでもまた、仲良くおしゃべりできるようになったんだよ。』

『ええ…そう。そうね。』

これで終わりじゃない、またいつでもお話しできるのだ。


『ねぇ、杏弥。あなた今どうしてるの?楽しく暮らせてる?』

『うん!今回の両親はありがたい事に、すごく素敵な夫婦だよ。それに、人生2度目にして初めて外出したり…運動したり…やりたい事だらけで時間が足りないよ。』

走り回る杏弥か…

想像するだけで、幸せな気持ちになる。

『他には?ご兄弟とかはどうなの?』

『ああ、兄さんが3人に妹が2人いるよ。大家族さ。それで僕の家は伯爵家なんだけどね。子供から必ず近衛騎士団(ロイヤルナイツ)を輩出している武芸の名門なんだ。』

『そうなのね。』

『それなのに、僕の生まれ持った固有魔法が本だからね。両親はそりゃあびっくりしてさ。』

『えっ?!大丈夫なの?』

いじめられてないのかしら?

『あははは!それがね、早苗ちゃん。すっかり可哀想に思われて、猫可愛がりされたんだよね。男なのに、力無きは茨の道とかで…』

なるほど…

不出来でむしろ憐れまれたと。

『でもさ、早苗ちゃんも気がついてるでしょ?』

『ええ、もちろん。この本、ただの本じゃないわ。』

『そう、僕は最低限はって言われて、魔法を勉強するうちに魔導書をゲットしたんだ。』

『魔導書?』

『うん、賢者の書ってやつで、ありとあらゆる攻撃魔法がスイッチひとつで発動できる、チート本だよ。』

『すごいわね。』

『うん、だから家族も、今ではすっかり見直してくれてね。』

『そうだったの…』

イキイキと動き回る弟を見られないのは寂しいけど、楽しそうで何よりね。

『僕の見立てでは…この本たぶん、ヒエロゾイコンとかソロモンの鍵とか魔獣の封印書にもなるんじゃないかなって思っているんだ。』

何それ。

72柱の大悪魔とか従えちゃうの。

すごく強そう。


『それで…早苗ちゃんは?』

私は杏弥には、義両親からの嫌がらせの部分は伏せて、保養地にいて楽しく暮らしている事をざっくりと説明した。


『じゃあ、早苗ちゃんは料理の本が、アクティブになったんだね。』

『ええ。』

『やっぱり、生活が違って必要な物が違うと、本の中身も全然違うんだね。どっちもチートアイテムだけどさ。』

『そうね。でも、私は料理の本すっごく気に入ってるのよ。おかけで、またお馴染みのご飯が食べられるのだもの。』

『僕も、自分の本はかなり気に入っているけど、早苗ちゃんの本も羨ましいなぁ…そしたら、同じように荒稼ぎするんだけどなぁ…』

『まあ、先の事はわからないじゃない?片方しか使えないとは限らないわけだし。』


どのくらい喋っていただろうか…

外からセシルの遠慮がちなノックが聞こえる。

「お嬢様?もうすぐお昼ですが、ご体調が優れないようでしたら、神官を呼びましょうか?」

あ、珍しく引きこもってたから…

『あ、僕もそろそろ行かないと!早苗ちゃん、また電話するね。』

そういうと、通話が切れた。

「入っていいわ。」

「お嬢様…大丈夫ですか?」

「ごめんなさい、ちょっと寝過ごしていただけなの。」

「そうですか…」

セシルは、それ以上は聞かずに、洗顔や着替えの用意をしてくれる。

私はというと、久しぶりに聞いた弟の声と、報告の内容にしばらくの間幸せに浸るのだった。


杏弥は、自由に動き回り持ち前のポジティブで、人懐こい性格を発揮できているようで、安心する。

前世ではほとんど友達がいなかったから、今度はたくさんの家族に囲まれて、毎日賑やかに過ごしているのはとても嬉しい報告だ。

本も無事に活用しているようだし、これからが楽しみだ。

出てきました!

弟です。

感想、ブクマ、星5評価いただきありがとうございます!

執筆の動力です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロインの義兄弟でした、とかじゃ無くて何より 攻略対象の類でも無さそうだし
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