幕間3 アリア・アンゼリカの苦難
アリア・アンゼリカはウンザリしていた。
何にかと言うと、料理、生活全般にだ。
目の前には、いかにも硬そうな無発酵のパンと、牛肉のステーキがある。
「アリア、どうした?具合でもわるいのか?」
父、アンゼリカ男爵が気遣ってくれる。
「アリアちゃん、神官様を呼びましょうか?」
母、ハンナ・アンゼリカ男爵夫人もオロオロしている。
優しい両親に囲まれて幸せ、と言いたいが。
しばらくは我慢できたけど、魚のポワレ、牛肉、鴨肉、チキンを焼いたもの。
さすがは貴族の料理人、工夫は凝らされているが、元の世界で、様々な調味料で味付けされた料理に慣れた私には辛いばかり。
香辛料も高価らしく、肉料理にも少ししか使われていない。
唯一美味しいと思えるのがクッキーだが…
クッキーも種類が豊富とは言えない。
焼いて塩振っただけの、お肉ばっかり何年も食べていたら、それはあきるわよ。
この頃は見るだけで食欲が失せてくる。
「心配かけてごめんなさい。実は、昼間にクッキーをたくさん食べてしまったの。」
「おお、そうだったか。」
「あらあら、それなら。シェフにオートミールでも用意してもらいましょうね。」
…。
オートミールも好きじゃないんだけど…
ドロドロのオートミールは、食感が好きになれない。
でも、あれこれ言ってもいい物が出てくるわけじゃないし…
「ありがとうございます。嬉しいです。」
とりあえずニッコリと笑う。
転生先は、ゲームタイトルしか気にしていなかったけど、まさかこんなところに落とし穴があるなんて…
初めから教えておいて欲しい…
でも、宮廷で暮らすようになったら、きっともっとマシな物が食べられるわよね。
宮廷料理までこんなレベルって事は無いはず。
アリアの苦難は、これだけではなかった。
「アリア様、背中が曲がっておりましてよ。」
マナー講師のジェンキンス子爵夫人の檄が飛ぶ。
うう…どうして私が、マナーなんか習わなくちゃいけないのよ…
長時間のお茶会の練習という事で、もう3時間も姿勢を正して微笑み続けてさせられている。
そして、ちょっとでも体勢が崩れるとこれだ。
どうせ王子と結婚して、他のイケメンにも囲まれながら過ごすのだし、彼らはアリアがマナーがちゃんとしているかどうか、なんて気にしなかったと思う。
むしろ本編では、貴族の令嬢らしからぬ純粋さが褒められていたような。
ついでに、貴族らしい振る舞いの令嬢たちから、揶揄われる平民出身のアリアをかばってくれたりとか…
だったらこんな大変な事しないで、ありのままの姿を愛してもらった方がいいのでは?
基本選択肢さえ守っていけば、ハッピーエンドなのだし、なんどもプレイして選択肢はキチンと覚えている。
そんな、答えがわかっている試験を受けるようなものなのに、どうしてこんなにチマチマ努力を重ねないといけないのか。
どちらかと言うと、こういう努力は苦手な部類だ。
今までだって、苦手分野では宿題や課題を代わりにやってくれる優しい友達を見つけたりしていた。
そういう効率がいいやり方の方が向いている。
第一、マナーを無理矢理矯正されても、心底寛いだり楽しめない。
むしろソファでゴロゴロしたり、お菓子をモグモグ食べる自然な姿の方が、男子にはウケそうだけど。
前世でよく読んだ転生物だと、そういう展開をよく目にした気がする。
それに、こちらに来る前に読んだ雑誌の記事にも、そんな事が書いてあったような…
そもそも、本編のシナリオでは、大概お茶会はコーデリアのせいでめちゃくちゃになっていたので、アリアの食べ方がどうこう、とかは描かれていなかったと思う。
だったら尚更、こんなに大変な思いをする意味を感じない。
お父様に言って、無くしてもらおうかしら。
「私が王妃になったらまず、宰相になるリュカにマナーを廃止させて…料理バンバン開発させて…ケーキやクレープ作らせて…娯楽も増やさせて…」
我慢した分、好き放題過ごさせてもらわないと。
そんな事を考えながら、今日も気乗りしないマナーレッスンを受けるのだった。




