第32話 ビール販売開始
ある日、モリスさんから山ほど瓶とコルクが到着した。
添えてある手紙には、試飲会を開いたところ、大店子達が次々と関心を示して、ぜひ取り扱いしたいという店が続々と来ているとのこと。
そこで、大急ぎで瓶を作らせたので、早めにできた分からでいいので、納品して欲しいとの事。
輸送用の魔道具までつけてくれている。
一見ただの綺麗な鳥の絵に見えるが、箱に貼り付けると、持ち主のところへ箱を運んでくれるらしい。
この世界は、こういう魔道具が発達していていいわよね。
うちの愚兄みたいに、個々の特能自体は使い物にならないレベルだったりするのは、やっぱりこうやって、少ない魔力で発動できて、しかも勉強も練習もいらない魔道具が発達したからかな?
早速作りますか!
まずは、この大量の瓶とコルクを本に収納するところから…
これは今のところ、自分でやらないといけない。
本を裏返して、ページの面を箱に当てて収納ボタンを押す。
どんどん、しまってしまおう。
箱ごとしまってるけど、あとから出すときも箱のまま出てきてくれたりしないかな?
それだと、手間が省けて助かるんだけどなぁ。
まずはホワイトエールから作ろう。
材料は前回と同じだけど、今回は瓶とコルクが違う。
瓶にはすでにラベルが貼られているから、そのまま使わせてもらおう。
ボタンをぽちぽちと押して、前回と同じ配合にする。
よし!頑張れ小人達。
実行ボタンを押して、またホワイトエール作りを見守る。
今回は量が量だから、流石の私もちょっと魔力削られた感あるな。
でもまだまだいけそう。
次にラガービールも作ってしまおう。
材料をまた、ぽちぽちと選んで実行!!
酷使してごめんよ、小人達。
ビールが出来上がったので、早速倉庫をチェックしてみる。
「やっぱり箱と瓶は別か…」
そう上手くいかないか…と思いながら、瓶のアイコンを箱のアイコンに重ねてみた。
するとなんと、箱の下に個数を入力する欄が出現した。
「え?もしかして、ここに個数いれたら、その分が箱に入る…とか?」
試しに入れてみる。
「入った!」
アイコンの絵が瓶ビール入りの箱に変わった。
これを全部もう一度取り出して…
発送…といきたいけど、あんまり早いと変かな?
せめて夕方以降にすべき?
そう思った私は、その日の授業が全て終わったあと、モリスさんに発送したのだった。
…………………………………………………
一方のモリスさん…
「モリスの旦那、一体いつになったら、あの幻のエールは手に入るのですか!!」
「ぜひウチに!!ウチに1番に仕入れさせてくださいよ!」
「モリス会頭!!仕入れ本数の目安はどうなっているのですか?」
「他の店の倍出す!ぜひウチに独占販売権を…」
「何?!そんなことは許さん!!」
「強欲は身を滅ぼすぞ!」
など、連日大挙をなしておし寄せる店子達の対応に追われていた。
「いやはや、ハヴェルカ子爵令嬢からの返事が早く来ないものか…流石にあの量だ。1ヶ月は見るべきであろうな…」
その間ずっと、儲けの香りに顔色を変えて押し寄せる彼らを追い返し続けなければいけないのか…
馴染みの大店子だけに、試飲会を開いて、土産に持たせたのがこんな騒ぎを巻き起こすとは…
モリスは商人らしく、騒ぎをむしろ好ましいものと考えていた。
そんな時、倉庫番のニックが血相を変えてやってきた。
「会頭ー!!会頭!モリス会頭、大変です。」
「なんだ、騒がしい。」
「エ、エ、エ、エールが!!」
「エールがどうした?」
「ハヴェルカ子爵令嬢のエールが!!」
「それがどうした?」
残しておいた分が盗まれたか?
「全て到着しております!!」
「何?!!!」
貴族も相手にする商人のモリスは、滅多に動揺しない。
だが、あの量を1日しないで仕上げられたとなると…夢でないかと疑いたくなる。
倉庫を見に行ったモリスは、さらに唖然としていた。
エールどころか、ビールまでできている。
「これは…中身は本当にエールか?」
彼女は水で薄めたり、適当な偽物を掴ませるような人物には見えなかったが…
「はい…失礼ながら、魔道具で調べさせていただきましたが、全てまじりっけなしの酒です。」
「なんと…」
「どうしましょう?」
「何を怯えておる。やるべきことは決まっておる。まず、ハヴェルカ子爵令嬢に代金を送金。それから、追加の瓶とコルク、ラベルの発注を頼む。ワシは押し寄せる奴らにこれを売る。それだけじゃ。」
「は、はい!!承知いたしました!」
「うむ…そうじゃな。ハヴェルカ子爵令嬢には、早く対応いただいた礼に、上質な砂糖をプレゼントしてみよう。あとは最近入荷した唐辛子の種もおまけしようぞ。」
上機嫌で店子達の元に向かう。
「あ!モリスの旦那!!」
叫び出す皆を手で制する。
「…実はな、つい先ほどエールを入荷した。希望の商店は個数をニックに伝えてくれ。今回だけ特別に、金額は2本で小銀貨1枚と大銅貨1枚じゃ。」
この品質でこの価格は破格だが、まずは味を広めるのが先だ。
店で出す時は瓶ひと瓶で、5杯分はあるからな。
大判振る舞いしておこう。
店子達の喜びの叫びが店中にこだました。
この日から、定期的にエールのやりとりが行われるようになり、モリス商会は大ヒット商品の独占卸店となりモリス会頭のニコニコが収まらない日々が始まったのだった。




