第3話 保養地のくらし
サバルディ男爵の保養地は、広い森と大きな湖のあるたしかに素敵な場所にあった。
義母がにやにや教えてくれた内容から、この屋敷には私の他にもたくさんの貴族の子供がいて、大抵は暴れ者で手がつけられないとか、私生児とか、そんな子供達が預けられているらしい。
でもそんな子供達だから事故で死ぬ子もたくさんいて、成人を迎える事なく死んでいるらしい。
「貴女も遊びすぎには気をつけてね」
ハイハイ、下手したら消されるわけね。
精々気をつけて過ごして、さっさと自分の財産作ってでて行こう。
「お嬢様、到着致しました」
執事がドアを開けてくれる。
サバルディ男爵の別荘は、真っ白壁に青い屋根のかなり大きな館だった。
周りを背の高いバラの生垣に囲まれている。
あんな殺してくれ!みたいな場所には行かないようにしよ。
「ありがとう。じゃあね」
執事と馬車が去っていき、ここでお世話をしてくれるというメイドだけが残った。
名前は確か…
「セシル、今日からよろしくお願いしますね」
セシルは銀髪を後ろで束ねた、青と紫のオッドアイの女性だ。
クールというか、いかにもあんまり関心が無さそうな感じ。見た感じ蛇の獣人っぽいけど、違ったら困るから聞かないでおこう。
「はい、お嬢様」
短く淡々というと、後は荷物を持って付いてくる。
男爵は別に、この屋敷に住んでいるわけではないのでいない。
玄関ホールでは、執事が出迎えてくれた。
「当館を任されております、執事ローランドと申します。ようこそおいでくださいました、ハヴェルカ子爵令嬢。当館での暮らしが楽しいものとなりますよう、お祈りいたしております」
ローランドさんはなんというか、厳格そうな方だ。
「はい、こちらこそよろしくお願い申し上げますわ。」
ふわり、と笑顔で挨拶をすると一瞬だけローランドさんの眼差しが優しくなった気がした。
「では、もうじき夕食ですので、食堂へいらしてください。他の皆様も一緒にお食事をなさります」
みんな一緒なのね。
その方が毒殺の危険は減る気がするし、ありがたいかも。
「皆様食事は一緒なのですか?」
「いえ、お部屋でお食事をご希望の方も一部いらっしゃいます」
「ここにはどのくらいの人がいるのかしら?」
「そうですね…下は5歳くらいから上は男性は成人前の16歳、女性は15歳までの方々が総勢35名ほどですね。その方達のメイドや専属のコック、教育係などもおります」
食堂に向かうと、1番末席に案内された。
隣は狼耳で灰色の髪の男の子だ。
背も高いし、がっしりしているからちょっと年上に見える。
食堂のメイドに案内された席にはカピカピのパン、薄いスープ。
それに、明らかにレアすぎる上に腐ったステーキが置かれている。
見渡すと、他の子供のは焼け過ぎな気もするものの、腐ってはいない。
辞典でスキャンしても私の物も含めて、毒は盛られていない。
1人だけ、なんとなく気の毒そうにこちらをチラチラ見ている子がいるところを見ると、新入りはずっとこんな感じなのかも。
まあ、食べなくてもいいや。
そう思ったが、なんとなく腐敗特能が使える気がしてきた。
新しいスキルを試してみよう。
腐敗能力を使い、酵素を操る。
毒素が特能で取り除かれ…腐った肉を素晴らしいエイジングビーフに変えていく。
腐敗能力って聞いていたけど、熟成も出来るんだ!
ラッキー!
普通貴族が料理なんてしないし、知らないよね。
なんなく熟成は進み…
辞典で見ると、旨味成分タップリのお肉に変わっている。
ふむふむ、上出来。
でも生すぎるわ。
隣をふと見ると、男の子がじっと肉を見ている。
「私、今日からお世話になります、ハヴェルカ子爵家長女のコーデリアと申しますわ。あの…もしよろしければ、お肉のお皿を交換していただけませんか?私、生肉は食べられませんの」
「メルヴィン。メルヴィン・ローダンセ」
短く答えると、皿をふんふん嗅いでさっと交換してくれた。
よかった。
腐って無くても、生肉は食べられないし。
メルヴィンは大きく切ってガブッと食べ…
そのまま無言でガツガツ食べ始めた。
美味しいみたいでよかった。
兄2人が特能を受け継いでも、ザンネンな結果になったのは、元々の魔力が少ないせい。
そこに来て私は、ハーフエルフの膨大な魔力を運良く受け継いでいる。
これは楽しい事ができそうで、ますますワクワクする。
うん、こっちはちょっとカタイけど食べられるわ。
マナー違反スレスレなレベルで、ギーコギーコやりながらなんとかステーキを食べる。
焼け過ぎたお肉は、微生物や酵素が働く余地が少ないからまあ仕方ない。
こうして無事に夕食を終え、部屋に行った。
部屋は思ったよりもまともで、大きなバルコニー付きの窓や外が見えない天蓋付きのベッド、人が大いに隠れられそうな衣装収納があるのが気になるくらいだ。
キャラクター紹介
☆メルヴィン・ローダンセ
グレーの短髪とアイスブルーの瞳の狼族の少年。
大柄で口数少ないけれど、戦闘力が高く頼りになる。肉と甘いものが、好き。