第19話 リュカ 後編
メイドが手早くお茶の用意をして去っていった。
「申し遅れました。私はリュカ・ムーンリットと申します。子爵家の長男です。リュカと呼んでください。」
「リュカ様。それで、御用というのは?」
「実は、その…コーデリア嬢が、ワインをお持ちだとフローレンス嬢から耳にしてね。」
ここからが大事とばかりに身を乗り出してくる。
「それで、伯爵がコーデリア嬢のワインが今までとは全く違うと絶賛していたと聞いて、ぜひとも私に売って欲しいんだ!!」
「ワインを?ですか?」
美少年はまだワインには早くないかな?
「ああ、実は私は、ヴァンパイアの7人の祖の生まれ変わりで…いわゆる先祖返りなんだ。本来ならば魔力を人間から摂取するのだけど…」
はあ…と悲しそうにため息をつく。
「この国は知性ある種族からの吸血は配偶者のみ、と定められているのは知っているかな?」
「そうなのですか…」
「何代か前の王がヴァンパイアの、強力な魔力を恐れての措置だったらしいのだけど…」
「それだと、配偶者がいない、リュカ様のような子供達が困りますね。」
「生きていく分には、魔力の高い生き物の血でもいいのだけど、味がどうにも好きになれなくてね。いろいろと試した結果、ワインでも十分に生きられるとわかったんだ。」
「ワインで、ですか。」
「うん、そうなんだ。だからお願い!私に何本か売って貰えないかな?」
何やら必死な様子だし、断る理由も無い。
「では、たくさんあるので、いくらでも選んでください。」
テーブルの上にずらりとワインを並べる。
前回伯爵の味見用がまだまだ残っているので、十分にテイスティングできるだろう。
「!!こんなにたくさん!!どれもたしかに、素晴らしい香りがしますね…」
リュカ様は、近くにあった瓶からどんどん味見を始めて行った。
「なんと!!透き通っていて美しい色合いですね…香りも良いです…香料や水など混ぜ物もなしですね。噂通りです。」
優雅に味見をして一言。
「素晴らしい…」
恍惚とした表情になると次々に味見を続ける。
酔わないのかな?
大丈夫?
「アルコール度数が全体的に、既存のものより高いですね。それに風味や果実感は比較になりません。ここまで味わい豊かな品は、ワイン好きな我々、ヴァンパイアでも出会ったことがありませんね…」
そのあと、よし!と決意を決めた顔になると、金貨の詰まった袋とワイン瓶3本を指し示した。
「よければ、こちら3本をお願いできるかな?」
「えっ!?」
「あ!やっぱり無理か…ならせめて、この飲みかけ一本を!!」
「あ、あの!!」
「試飲代金にしかならないかな?なら明日には用意するから…」
「あの!多いです!!」
「多い?」
「ええ、3本にこんなに金貨はいただけません。」
しばらく、リュカ様はポカンと意味を考えたようだが。
「もう少し、いただけるという意味かな?」
先程までの必死な様子が薄れて、頬に少し朱がさしている。
パッと表情が、みるみる明るくなった。
「ええ…」
私はいただいた袋から、金貨6枚を取り出して残りを一旦返す。
「アルメリア伯爵には、一本金貨2枚でお譲り致しましたので、リュカ様も同じ額でいかがでしょうか?」
「えっ!?いいのかい?こんなに上質なワインを…」
リュカ様は、長く寝かせたビンテージ物が好きなようで、ワイン瓶に頬擦りし出しそうな勢いだ。
「はい、もしかしたら、今後価格改定をするかもしれませんが、当面はこの価格で販売させていただきます。」
「じゃあ、この金貨で買えるだけ買ってもいいかい?」
私の在庫が残り40本だったので、リュカ様は残りの本数をすべてお買い上げいただいた。
それからというもの、毎日のようにリュカ様は私の部屋に遊びに来るようになった。
私が、マナーの勉強や歴史や経済などの勉強がしたいと知ると、家庭教師を手配してくれたり、自ら教えてくれたりと何くれとなく世話を焼いてくれる。
メルヴィンの家での夕飯も、週の半分くらいは来て、その度にたくさんのお土産を持ってきてくれ、夕食のレパートリーもたくさん増やせて嬉しいかぎりだ。
流行りのドレスや靴なども、ワインのおまけだとかいいながら、プレゼントしてくれるので実家からの援助がない私にはありがたい話だった。
「リュカ様、いつもありがとうございます。でも、あまり私にお金を使っていただくと心苦しいのですが…」
「ん?私の懐事情を心配してくれているのかな?それなら大丈夫だよ。私は先祖返りだからね、黙っていても、もともと周りのヴァンパイア達からの貢物が絶えないんだ。」
ニコニコと続ける。
「しかも、私は生まれは男爵家だけどね、今は子爵家に売りに出されて、その時にもらったお金が相当あるんだ。それに今は、伯爵家の親戚が婿に来いと贈り物争い中なんだ。だから、懐事情は全く気にしなくて大丈夫だよ。むしろ、もっとリクエストしてくれて構わないんだよ。」
「そうでしたか…」
子爵家に養子に入ったものの、いずれ婿入りさせるいわば商品だから、家から離れたこの屋敷にいるらしい。
でも…そんな扱いを受けて寂しくないのかな…
家族に恵まれなかったってところは、なんか共感しちゃうな。




