幕間 混乱の最中
ツヴァイが殺されてからと言うもの…
ウルズリリア皇室内は荒れに荒れていた。
決してこの情報を他国に知られてはいけないが、悪い事にリアトリスに宣戦布告してしまっている。
その日はもう目前に迫り、どう対応するべきなのか…
誰に責任を取らせるのか…
そもそも開戦して勝機はあるのか…
連日の会議は意見がまとまる兆しもなく、皇帝は怒り、大臣は絶望していた。
今の皇室内で揉めている内容は大きく3つ。
一つ、ツヴァイは本当にダメなのか。
二つ、リアトリスとの戦争はどうするのか。
三つ、誰が責任を取るのか。それとどう隠蔽するのか。
その内容の会議が今日も開かれている。
皆、勝ったも同然と考えていた戦いが不利になり、なんとか自分だけは被害を受けずにやり過ごそうとやっきになっているのだ。
「それで、陛下!!ツヴァイは結局どうだったのですか?」
地方領を治める、モントン侯爵が顔を真っ赤にして叫ぶ。
彼は、その場で速やかに蘇生を行わなかった皇室は重罪人達だと考えていた。
「モントン侯爵。陛下に失礼ではないか!!」
宰相が叱るが、周りの貴族達はどちらかというとモントン侯爵の方の意見に賛成のようだ。
「……失礼、オホン!!では、親愛なる皇帝陛下、ツヴァイを術師を集めて反魂蘇生を行うとの事でしたが、もちろんうまくいったのでしょうな?」
「それに関しては私から……」
気が進まなそうに痩せた男が発言する。
彼は魔術研究所の所長、フリーマンという。
「……ええ……ツヴァイの蘇生に関してですが…ええ…蘇生学に基づく基礎人体学の基礎、フォトマン数値に照らし合わせ算出した成功率は…ええ、そもそも…」
「ええい!!御託はいいのだ。さっさと出来たのか無理だったのかで答えたまえ!」
本来なら皇室派の、スリーフラ子爵までイライラと反論する。
「……出来ませんでした」
「!!」
「……なんと」
「い、いや。最後まで聞こう。続きがあるのだろう?」
「……はい。出来ませんでしたが、アビス反魂術を行えば、成功の可能性が5パーセント程ございます。もしくは、機械人形に変える場合には、スキル喪失の可能性が98パーセント程あり、喪失しなくとも、百分の一以下の力に落ちます」
「アビス反魂術…」
それを聞いて、数人の貴族がブルブルと震えだす。
「アビス反魂術とは?」
恐る恐る年若い貴族が質問する。
「アビス反魂術とは、皇帝陛下並びに、皇室に近い血筋の近縁者を50名程生贄に捧げ、ようやく完成する術式です。もちろん、術式の安定実行の為には、都市二つ分程の生贄がさらに必要となります」
「そ、そこまでして、5パーセント」
「はい、間違いなく。さらに、一度発動すれば、少なくとも10年は発動出来ません」
「………………」
「アビス反魂術か、機械人形か…」
「今は術師が保たせていますが、早めに決めなければ、どちらも取れなくなってしまいます。明日までにはどちらかにするか決定が必要です」
「なんとかしたまえ!それが、お前たちの仕事ではないか!」
「そうだ。普段働かないのだから、国の有事くらい働いたらどうかね?」
「なんと言われても、結論は変わりません」
宰相が話題を変える。
「ですが、目前に迫った戦いをどうするか考えねばなりますまい」
「然り」
将軍が追従する。
「布告しておいて、間違いでしたではすむまい」
「いや…リアトリスは現王と本来の王位継承者が違うだろう?それを正す為と言い換えて、密かにギルバート王子の支援を装うのはどうだ?」
「それではどのみち戦いは避けられないだろう」
「だが、負けても正義の為と言い訳がたつぞ?それに、もしかしたらギルバート王子側が勝つかもしれん。何しろ、国民人気は相当らしいからな…」
「だが…出してしまった布告はどうするのだ」
「それは…」
「そもそも、まずは国内で誰が責任を取るべきか?ではないですかな?」
「陛下、アンナ様の処分はいかがなさるおつもりで?」
宰相が代わりに答える。
「アンナ様は一貫して間違えただけ…と主張しております。陛下は彼女を国境付近のセリーに追放のご予定です」
「!!」
「せ、セリーに?」
甘い、と言う声が出なかったのは、セリーという町というか村は、あまりにも何も無い場所だからだ。
暮らすにはなんとかなるが、豊かな農地以外には本当に何もない。
店も無ければ医者もいない。
行商人や町長が代表で買い出しに行く。
そんな長閑な場所だ。
国外追放よりは軽いが、そのような場所を貴族が好まず、セリー行きは貴族達にはかなり厳しめな罰に当たるのだ。
「ですが、そうであれば、彼女と関わりが深い皇太子殿下についてはいかがお考えですかな?!」
鼻息も荒く主張するのは、第二皇子を推しているエウリカ伯爵だ。
彼は、皇太子失脚のチャンスに興奮が抑えきれない。
「お静かに、皇太子殿下は本件には一切関わりがありません」
「し、しかし!!アンナ様は皇太子殿下の…」
「血縁は一切ございません!!」
宰相がピシャリと言うと、皇帝が重たい口を開いた。
「すべては、彼女の母がお腹の子を頼むからワシの子と言う事にしてくれ…と頼んできた事から始まっておる…」
語り出すと、ああやっぱりという顔と、雷にでも打たれたような顔の2通りが見える。
「アレの父は…結局ワシに言わずじまいだったが…宰相の言う通り、彼女はワシの子ではなく、ウリセスとアンナの間に血縁はない。そしてアンナも、噂程度に聞いて知っておる。まあ、本人はどちらかといえば噂と思い込む事にしたようじゃが…そういう事じゃ。本件とウリセスは無関係…強いて言えば、ワシに責があるかのう…せめたければ、言うがよい」
周囲を威圧しながら言う言葉に、反論する言葉はなかった。
体調大分良くなったので、またストーリー進めていきますね。