第125話 準備
ついに両国が動き出した。
危惧していた二面戦争の予感に、国内はいつになく落ち着かない。
特にウルズリリアは、国境を超えてリアトリスの兵士がいたのを見た、とかそんな曖昧な情報で攻めてくるつもりのようだ。
対してアマルディア帝国の方は、こちらは特に理由も求めず侵略してくるつもりらしく…
正規の戦闘員ではない私はともかく、他のメンバーは忙しそうだ。
もちろん私ものんびりしていたわけではなく。
体力回復薬を大量生産したり、最上級ポーションを量産したり…
中級ポーションを軍隊に販売したり、と頑張っていた。
体力回復薬はアルバートにかなり喜ばれた。
正直、王宮に対してはあまり協力したくはないけれど、一応公爵家の一員として手を貸さない訳にはいかないし、罪のない兵士達の生存率が上がるなら、私にできる事はするつもりだった。
薬関係以外にも、保存食をひたすら量産するのも忙しかった。
これはアルバートから正式に依頼が来たのだけど、食事が美味しいとやる気が違うから、ガッツリとした美味しい物を時間停止の術式付きの箱に入れてたくさん欲しい…との事だった。
こちらは妖精達にも大いに手伝ってもらったり、レストランや様々なお店で働いているエルフの従業員も動員した。
一般の兵隊達は平民なので、ある程度何を出しても喜んで貰えるけれど…
畜産も始めていた事が幸いして卵を使った料理とかも安定して出せるのが嬉しい。
貴族は米料理をあまり好まない人もいるけれど、平民達は気にしないのでガッツリと丼物を出したりしている。
この前作った、ガーリックサイコロステーキ丼は大人気だった。
スプーンでもガツガツ食べられるし、ニンニク風味とステーキ醤油が絡んだご飯は美味しい。
私個人としてはちょっと苦手なのだけど、付け合わせのあまーいにんじんのグラッセもかなり人気がある。
平民には甘いものは貴重らしいから、それもあるのかもしれないけど…
うさぎの獣人達など目の色を変えて食べていたとか。
あまりの美味しさに、また食べたい。
また食べたいとブツブツ言っているらしく…
モリスさんのところへ給仕係と将軍が直々にやって来て…
「お願いします。普段は穏やかで軍略に長けた兎人族達が、皆気が狂ったように、あのニンジンを…あのニンジンを…と言っていて…なんとか売っていただけないでしょうか?」
などと疲れた顔をしてお願いに来たらしい。
ニンジンのグラッセはそう難しくないので、ささっとたくさん作って送ってもらった。
後日将軍からそれはそれは丁寧なお礼の手紙と、ニンジンのグラッセをちらつかせると兎人族が良く働く、助かるという旨の手紙が届いた。
「やっぱり…ノーマン先生の改良に改良を重ねたニンジンは破壊力が違うわよね…」
そう。
使ったにんじんはノーマンの傑作の一つで、短時間で火が通るのに、決して煮崩れせず、色が鮮やかで食感は滑らかで繊維質の嫌な感じが一切ない。
しかも煮ると甘くてとろっとした食感になるスーパーニンジンだ。
スーパーニンジンと呼んでいるけれど、もうちょっとカッコイイ名前をつけてあげたいところだ。
ニンジンは甘くないバージョンも、カリッカリっという食感が最高な物もあるし、揚げるとサクサクで美味しい種類もある。
そんな具合に、薬と料理で全力サポート中だ。
ところが、リュカ様がウルズリリアの様子がおかしい…と言うなり居なくなった。
そして、今にも国境に到達しそうだった軍隊も進軍をやめ…
何が起こっているのか、よくわからない状況が始まった。