第122話 シェパーズパイ
最近ギルバートやリュカ様がとにかく忙しそうだ。
どうやら聖ウルズリリア皇国が各国へ侵略を繰り返しているらしく、その対応に追われている。
これ以上戦線が拡大した場合には、本当は国外には漏らしたくないけれど、レオナルト様が改良開発した防弾鎧を各国へ販売する事も視野に入れているとか…
本来なら、自分の国の武装は最優先だけれど、このまま併呑される国が増え続けると、国際社会のバランスが大きく崩れてしまう。
かと言って、自分達から戦争を仕掛けると、今睨み合っている帝国が背後から襲って来かねない。
打って出たくても出られないし、同盟国でもないので、救援要請も来ていない。
仕方なく、銃火器の特性や対策をちょっとずつ裏からリークしているらしい。
皇国は長年の敵の小国を中心に片付けているが、こちらへ向かってくるのも時間の問題だろう。
今は隣接した、肥沃な農業国マナハルディーンを攻めている。
「しばらくギルバートに会えていないなあ…大丈夫かな…」
ぽつりと呟くと…
「呼んだ?」
ギルバートが顔を出した。
「ギルバート?大丈夫なの?」
顔色が幾分良くないし、なんだかげっそりしている気がする。
「ああ…あの薬、とても助かっているよ!!ありがとう。でも、ちょっとそろそろ寝ないとね。身体はまだまだ行けそうだけど、無理は良くないし…」
「いけそうって…目の下真っ黒よ。眠らないと」
もしかしなくても、薬で延長できる以上に連続使用しているのだろう。
「うん、でもしばらく何も食べていないから、どうせ眠るならリアのご飯食べてからがいいな…と思って」
キラキラとした眼差しを向けてくる。
「いいわよ。でも、本当に無理しないで頂戴ね…あまり多用すると体に悪影響が出るかもしれないし…」
「ふふ…心配してくれるんだね。嬉しいな」
「当たり前じゃない」
「心配しなくても、加護持ちの王族はかなり長生きだよ。どう?リアの伴侶にはいい条件じゃない?」
ふらふらと揺れながら話しているので、きっと疲れ過ぎているのだろう。
ギルバートはたまにこの手の話をするが、個人的には、雛鳥が最初に餌をくれた人に懐くような物だと思っている。
時期に身分が安定したら、きっとママ代わりの私ではなくて、もっと優雅なお姫様らしい趣味の女の子を見つけるだろう。
正直、貴婦人らしからぬ生き方の方が向いているし…
商会を辞めるつもりも、大人しくどこかの妻に収まるつもりも今のところない。
「はいはい…今美味しい物作るから少し待っていてね。お腹に軽くがいいかしら?」
「ううん、むしろガッツリと食べてぐっすり眠りたいよ」
それなら…
ちょっと重たいけれど、消化にいいスープをつけて、シェパーズパイがいいかもしれない。
畜産責任者のアルターが美味しくて新鮮なラム肉と牛乳を届けてくれたので、それが使える。
シェパーズパイ、日本ではあまり食べないけれど、とっても美味しいのよね…
材料は…
ラムひき肉
玉ねぎ
にんじん
にんにく
小麦粉
シナモンパウダー少々
タイム少々
野菜出汁……コンソメ代用可能
トマトピューレ
ウスターソース
赤ワイン
オリーブ油
塩、こしょう適量
じゃがいも
バター
牛乳
長ネギ
チェダーチーズ
作り方は…
まず鍋にオリーブ油を熱し、玉ねぎとにんじん、にんにくを炒める。炒めたら皿に取り出して、同じ鍋でひき肉を炒め、塩、こしょう、赤ワインで味をつける。
そこにさっきの玉ねぎ達を戻して…
小麦粉、シナモン、タイムを加え、野菜出汁を注いで煮込む。
次に、トマトピューレとウスターソースを足して味を調える。
肉部分ができたら、じゃがいものペースト作り。
じゃがいもは、蒸すかゆでて、熱いうちに皮をむいてつぶし、バターと牛乳をまぜ合わせる。
グラタン皿に肉、じゃがいもペーストの順番に入れて、長ねぎ、おろしたチーズをのせて焼いて完成だ。
「できたわよ」
「うわあ…すっごくいい匂い」
「熱いから気をつけてね」
自分もお昼ご飯に食べる。
「あちっ!!でも…うわあ…美味い!なんとも言えないね。この芋のペーストのクリーミーさと肉の肉肉しいジューシーさ。2つが合わさってチーズもいい味だし…これが食べたかった!!って感じだよ」
ギルバートが大興奮している通り、ラム肉も全く臭みもなく、柔らかでジューシーだ。
溢れる肉汁とじゃがいものミルクテイストがとっても相性がいい。
近いラインで表現すると、コロッケの中身にチーズが加わった感じだ。
しかもコロッケよりも肉が多いし、肉汁がすごい。
じゃがいももホクホククリーミーで…
コロッケも好きだけど、こちらはこちらで素晴らしいおいしさだ。
食べ終わり、食後にお茶を出すと、ギルバートはすでに眠っていた。
限界が来たのだろう。
身支度やお世話はギルバートの執事達にお願いしようと、セシルに合図をした。
この顔を見ていると、出会った頃がほんの昨日のように思える。