幕間 勝利
ウリセスの率いる軍隊は、瞬く間に敵国とその協力国軍を制圧した。
「正直…ここまでとはな」
呟くウリセスに、ルフィノが答える。
「素晴らしい威力ですね」
「まあ…な」
「?何か気になる事でも」
「いや…人間中心のうちの国は、どうしても武力で他国に一歩遅れていたからな。圧倒的になったのはいい事なんだろうさ」
「アンナの独断で進めたことが気になっているのですか?」
「それもあるが…この力、どう思う?」
「かなり強力ですね」
「ああ…だがこの力は、あのアリアとツヴァイ頼りだろう?」
「はい。ですが、2人とも殿下に対する忠義は篤いのでは?」
「そうさな、ツヴァイはそうかもしれんが、アリアはどうかな。どちらかと言うと、あの女は俺の金と立場と上っ面について来ているからな」
「十分では?」
「まあ、そうだが…」
「ウリセス様以上に、あの者が望む全てを与えられる方はいません」
「……」
「自信をもって断言いたしますが、殿下は彼女が理想とする生活を与えられていますよ」
「そうか?」
「ええ。不安でしたか?」
「いや、ただ国の為に、武力の要となったあの女を今更失うわけにはいかないからな」
アリアのイメージから具現化した武器は、どれも強力だ。
それは、今日の戦争で、魔法に長けた種族が多い隣国が手も足も出なかった事からもわかる。
だが、逆に、この力が他国に渡ってしまったら…
一国の長の一員として、そのリスクを懸念する。
もしくは、この力がある日突然失われたとしたら…
今武力を持って制圧した国は、間違いなく反発してくるだろう。
「父上は良いものがあるのだから、今まで戦いたくても戦えなかった国々とやりあういい機会だと喜んでいるがな…」
「皇帝陛下が…」
「ああ、だが…いきなり身の丈に合わない力を持つ事はあまり賛成できん」
「……ツヴァイに頼らずとも、これらを生産できるようにして見せます」
「そうだな、しかしその頃には他国も同じ物を持ってるだろうさ」
「そう悲観しないでください。あのアリアから具現化できそうな物はまだまだあると言う話ですし…当面わが国の優位は絶対でしょう」
「まずは、聖リアトリス竜王国を落とすところからだな」
「ええ、今なら負けるはずもございません。かの国を足掛かりに、シンフォニアとアマルディアも、そう遠くない未来にわが国の領土となるでしょう」
「頼むぞ」
実の所…ウリセスはずっと、イメージをただ具現化しただけの力には反対だった。
だからこそ、ルフィノをアリアのところに連れて行き、実際に開発できる品から始めようと思っていたのだ。
誰か1人頼りの無敵の力など、簡単に失われてしまう物に頼りたくはなかった。
しかし、あまりの強力な力に、今皇国はすっかり酔いしれてしまっている。
それに今日、目の上のたんこぶであった隣国を難なく倒してしまった。
以前から、ダイヤモンド鉱山の半分を所有していた第二の宝石大国だったネザードをだ。
きっと気を良くした皇帝は次々と戦いを仕掛けるだろう。
小さめな国から、次第に大きな国へ…
国中の貴族も期待している。
ウリセスただ1人が、決して手放しでは喜べない状況と憂慮しているのだ。
「ウリセス様、一つ聞いても?」
「なんだ?」
「なぜ、もう1人の候補、コーデリアに接近をやめたのですか?」
彼の主人であれば、あんな小娘を口説き落とすなど造作もなかっただろうに。
「ああ…アレか。あれはダメだな」
「ダメ…」
「あの女は金や宝石やツラの良さ程度で喜ぶか?」
「ある程度は」
「ある程度だろう?公爵の娘は、自ら欲しい物は取りに行く。そう言うタイプは、大人しく茶会を開いて満足するたちじゃないだろ?政治だって気に入らなければ口を出してくるだろうし…皇太子妃には向くタイプじゃない」
「しかし…」
「ルフィノ」
「は。……失礼致しました。忘れてください」
ルフィノは、初代皇太子妃フクシアがコーデリアに似た利発で生き生きとした方だった…と言おうとしてやめた。
「ああ、俺にはアリアくらい宝石程度で喜んでくれる方がかわいいのさ。予想外って行動もしないしな。安心できる。十分だろう?」
「そうですね」
「そうさ。反応もわかりやすくて擦れていない。策略をめぐらせる訳でも、しがらみもない。ただ可愛くてこの国にとって有用…それていいのさ」