第109話 ハニートースト
「今日はいろいろあって疲れたわ…」
こんなに疲れた今の気分的に、どうしても食べたい物がある。
ハニートースト。
あのガツンと甘いものが食べたい。
太る。
わかっているわ…
でも、今はあのお腹と心に響くあの甘さが欲しい!!
よし、作ろう。
幸いパンは焼いてあるので、あとはちょっと加工して可愛く盛りつけるだけだ。
いざハニートースト!!と思っていると、いつのまにか椅子にオベロンが座っている。
「オベロン?」
「久しいな!!また、食べに来てやったぞ。今日はなんだ?」
「来てやったって…まあ、いいわ。今日はハニートーストよ」
それに、貴方意外とちょくちょく来ているわよね?
なぜかどこにいても、いる場所に現れるのだ。
この男は。
「なんだ、それは?はちみつというからには甘いのか?うむ、良いぞよいぞ」
「今から作るから少し待っていてくださいな」
「ああ、もちろんだ」
私はセシルに合図をして、オベロンにフルーツティーを出してもらう。
甘党の彼なら、きっと気にいるハズだ。
香りの良いアイスティに生のカットフルーツ、キウイやパイン、リンゴや桃、レモンなどが彩りよく入った見た目にも美しいお茶だ。
「まずはパンをくり抜いて…」
パンをくりぬき、中身を牛乳、卵、はちみつに浸してオーブンで焼く。
その間に、パンの外側に溶かしバターを塗り、焼く。
もう一度バターを塗り、外側をカリッと焼く。
そこに焼いた中身、バニラアイス、バナナ、イチゴ、桃、キウイ、食用花を飾り…
生クリームでデコレーションする。
「できたわよ」
オベロンの前にもドンと置く。
「おお…中々に王者に相応しい風格ある食物だな」
「そうね」
現世では若い女性に大人気だったけど。
余計な事は言わずに肯定する。
「あ、食べる前にはちみつかこのチョコレートソースをお好みでかけてね。こっちのキャラメルソースとかラズベリーソース、ブルーベリーソースもいけるわよ。」
「む?どれも合う…だと」
「最初だし、はちみつにしてみる?」
「そうだな…よし!妖精の森の支配者らしく、ここはラズベリーとブルーベリーを半分ずつだな!!」
相変わらずマイペースで人の話を聞かない男だな。
「…美味しいと思いますよ」
この程度を気にしたらこの男とは仲良くできない。
私は早速かぶりつく。
「はあ…美味しい…癒される。このカリカリジューシーな外側と、甘いアイスクリーム、酸味のあるフルーツの取り合わせ…間違いないわ」
我ながら力作だ。
中身のアツアツフワトロなフレンチトーストも、アイスクリームと相性抜群だ。
砂糖ではなく、はちみつで甘味をつけているので、全体のバランスがいい。
オベロンは…
食べる早さが早い、異様に早い。
決して野蛮に見えないのがすごいが、みるみるうちに大きなかたまりが無くなる。
「素晴らしい!!このパン…我が気に入りにしてやってもよいな…ふむ。ちと小さいな」
小さく無いわ。
一斤は決して小さめなサイズでは無いと思う。
「気に入っていただけたようで嬉しいわ」
「ああ、だがこれだけ美味いのだ…なぜもっと大きく作らない?」
「そう?でも、このサイズならアイスクリームの味を変えておかわりできるでしょう?」
「……!!なんと」
衝撃を受けた顔をする。
「そうであったな…まだ未知の組み合わせがあるのだ。次ははちみつを試すか!!そこまで読んでのサイズとは…流石だな!!」
オベロンは感心してくれているけれど、このサイズでおかわりはちょっとびっくりよ。
結局オベロンは、おかわりをはちみつで食べ、チョコレートアイスとバナナ、あんこと白玉と抹茶アイスに黒蜜まで平げた。
「うむ、まあまあ満足したな…何やら人間界が騒がしいからしばらく行くなと妻がうるさいのだ。食べ納めには、良い品であった」
「しばらく来ないの?」
「む?そう寂しそうな顔をせずとも良い。たまには監視を抜け出して…」
「でも、たしかにしばらくは危ないかもしれないわ」
「お前も妻のような事を言うな」
「だって…」
「あの『銃』とか言うものであろう?」
「そうよ、いくら妖精でも、危ないでしょう?」
「ふむ…我が傷つくとは思えんが…」
オベロンは急に私の顔を覗き込む。
「なんだ?悩んでおるのか」
「えっ?…ええ、なるべく被害を出したくないのよ。わかるでしょう?」
「そうか、そんな簡単な悩みか」
「簡単って…オベロン、魔法防御が…」
「効かないからなんだ。お前の実家の本業はなんだ?」
「海運?」
「そうだ。」
「……?」
「わからんか?まあ、エルフといってもお前の父は割に若いからな。知らんか…」
「何をよ」
お父様は何を知らないのだろう。
「その昔から、ほぼ真反対の大陸からも流入してくる品々があるだろう?」
「ええ、そうね。モンスターの素材とかよね?」
モンスターの素材?
まさか…
「ようやく気が付いたか?アイアンラットという、下級モンスターの皮は、ちょっとした魔法でも貫通するほどに脆いが、その実物理的なダメージには比類なき守備を誇る。大したことが無い魔法道具でもコロコロ死ぬ上、群れの数も多いゆえ、皮は非常に安価に取引されている」
「詳しいのね」
「我を誰だと思っているのだ?」
ちょっと最近はお茶を集りにくる友達としか思っていなかったわ。
でもこの詳しさ…
「もしかして、調べてくれたの?」
「い、いや?!まさか、この程度の知識。我ともなれば調べずともスラスラと…」
調べてくれたのね。
「そうよね!頼もしいわ」
その気持ちが嬉しい。
「アイアンラットね。お父様にすぐに言うわ」
それがあれば、レオナルト様の開発に役に立ちそうだ。
「ああ…使われていない第一倉庫に、昔の取引で買った物がいくらかあるはずだ」
そこまで調べてくれたのね…
「ありがとう!!オベロン。私、お父様に知らせて来ますので、これで失礼いたします。そうだわ、コレ持って行ってくださいな」
オベロンにクッキーやらチョコレート、シフォンケーキやパウンドケーキなどをありったけ渡す。
「おっ我の好物ではないか!」
フルーツパウンドケーキにホクホクしているオベロンを残し、急いで自室に帰る。