第12話 新しい本
妄想を膨らませながら日課の本の確認だ。
「イクスブック…はあ…まだ、通信機能は解放されてないわね…元気かな……ん?これなんだ?」
よく見ると、本が増えている。
「レシピブック…地球料理編?」
本の部分の下に、赤い大きな押しボタンがあるデザインだ。
右側のページには、地球の料理や飲み物の写真が載っており、下には味や焼き加減などの調整バーがあり、左側は調理場の絵が描かれている。
各料理の下には必要な材料や分量が示されていて、まだ入手していないものは、タップすると百科事典で入手場所や相場を確認できる。
材料は本の倉庫から探してくれるようで、同じぶどうジュースでも、今倉庫にある2種できちんとできるものが違うようだ。
「何かつくってみようかな?」
もっとよく読もうと思った時、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
「お茶をお持ちいたしました。」
「セシルね。どうぞ、入って。」
セシルが入って来て、カップにお茶を淹れてくれる。
お菓子は、私が高確率で自分でつくっているので、最近は持って来なくなった。
クッキーはまあまあだけど、それ以外はイマイチすぎるのでむしろありがたい。
「良い香りですね。」
「あ、コレ?シナモンロールって言うんだけど、よかったら持って帰る?」
「はい!ぜひお願いします。」
ぱあっと顔を明るくしてすぐに返事がくる。
だんだんセシルが食いしん坊になっている気がする。
「お嬢様のお料理は、どれもとても素晴らしいので…楽しみです。」
変に遠慮されたりするより、セシルははっきりしていてとても嬉しい。
「はい、4つ入ってるから、もしあげたい人がいれば一緒に食べて。」
「!!ありがとうございます。」
セシルは大事そうに袋を扉脇のテーブルに置く。
「お嬢様、何か研究中でしたか?」
「そうなのよね…」
大量のぶどうでワインを作ろうと思っていたけど、もしかして、これなら…
「セシルってお酒飲める?」
「お酒が、あるのですか?!」
あ、嬉しそう。
「ちょっと作ってみようと思って。味見お願いできる?」
「もちろんです!いくらでもどうぞ!!」
ならまぁ遠慮なく…
「あったあった。ワイン…っと。」
味の調整を本のページの調整欄で行う。
「味は辛口」
最高よりは少し下げて調整する。
「飲み口はサッパリ…コクは強めで…アルコール濃度は高め…スパークリングは無し…熟成度合いは軽めと中間の間くらいかな?」
どんどん調整して…
いざ実行ボタンを押す…
絵が動き出し、小人がぶどうを潰して樽に詰めている。
絵の端には、完成まで5分とタイマーのイラストが書いてある。
思ったより早い。
ポップアップで『腐敗能力を使用して本に魔力を流してください。』と出た。
ふむふむ…
早速魔力を流すと、小人達が万歳している。
流し続けると『魔力注入を停止してください。』と出た。
魔力を流すのをやめて眺めていると…
樽から瓶に、ワインを小人がつめつめしている。
コルクをキュッと閉めて満足げだ。
そのあと、ワインセラーのような場所に瓶を並べ、ウキウキと見ている。
しばらくすると。
『完成しました。倉庫に送ります。』とポップアップがでた。
「できてるかな…?」
ワインはいつか使えるかな、と思って執事からもらっていた、空のワインボトルに入って出てきた。
「匂いは良さげ…セシル。飲んでみてくれる?」
「もちろんです!」
どこからともなくワイングラスを持って来て、スタンバイしている。
「…。どう?」
「これは………」
「やっぱり不味い?」
かばっと手を包まれる。
「お嬢様!!もし、もし、こちら売っていただけるなら、私の少ない貯金ではございますが、こちらに全額ございますので!ぜひ!ぜひ!売ってください。」
そんなに上出来だった?
「口にあったようでよかったわ。あげるからお金はいらないけど…また空きボトルがあったら回収してくれる?あと、新しいコルク買ってくれたらそれでいいわ。」
コルクは個数ないから、くれたら嬉しい。
「そんなものでよろしいのですか?」
「うんうん、むしろまだまだ試してもらいたいんだけど…」
「こちらは今まで飲んだワインの中でも、最高の味わいでした…豊かなコクとキレ、香り、飲み口も素晴らしかったです。」
「喜んでもらえたならよかったわ。じゃあ次ね。」
手持ちのぶどうではアレンジは限られていたが、それでも、試せるだけ試してみた。
セシルは甘く作ったものも、それはそれで美味いと大絶賛していた。
お気に入りの辛口とかなり熟成してビンテージワインになったもの2本をプレゼントした。
残りは明日肉を焼いたり、ビーフシチューを作るのに使おうかな。
できれば、もう少し種類を増やして、この世界の大人の嗜好を探ってから実販売は進めたいな。
セシルはすっかりご機嫌で、そのまま入浴の手伝いをした帰り際。
「私はお嬢様に終世お仕えしたく思います。どんな風に小さな事でもなんなりとお申し付けくださいね。」
かなり真剣な目で見て去っていった。




