第92話 新しい町
「そうと決まったら、早速いろいろ揃えなくてはね!」
気合いを入れて自室に戻ると…
「ミモザ様がいらしております。」
早いわね。
お父様の説得が成功した時のために、呼んで置いてよかったわ。
「ミモザ、よくきてくれたわね。急にごめんなさいね。」
「いえいえ!お嬢様の為でしたら、いつでもお呼びください。…そのご様子では、旦那様の説得は成功したようですね!何から始めましょう。」
「そうね…まずは日用品や衣服の調達が必要よね?」
「はい!念のため、道中で必要と思われる品のリストを作って参りました。」
ミモザ…できる男ね。
分野毎に、優先順位に沿ってリストと入手先、価格単価が書いてある。
水
食糧
衣類
石鹸類
歯ブラシ
寝具
タオル
鍋
包丁
皿
カトラリー
チリ紙
カーテン
机、椅子
照明器具…などなど
「水は近くに川があるから、その水を浄化魔道具を使えば大丈夫よね…」
「食糧はお嬢様が手配なさるのですか?」
「ええ、しばらくはそうするわ。落ち着いたら、もちろん自分達で働いていただくけどね。」
「そうですか…他の品は大至急手配いたしますが、数が数ですので、申し訳ございませんが、数日いただいてもよろしいでしょうか?」
「お願いするわ。…それと…」
「はい。」
「同じ品をたくさん在庫しておいて貰えると嬉しいわ。」
「!!お嬢様も、やはりコレは始まりに過ぎないと?」
「ええ。」
「公爵もそのような事をおっしゃっておりました…なるほど…わかりました。在庫確保と増産を依頼しておきましょう。」
「ありがとう。モリス商会にも、協力を頼んでおくわね。」
「助かります。それでは、これで。」
さあ!忙しくなったぞ!!とやる気満々でミモザはかえって行った。
「あ!セシル。ミモザにコレ渡してくれる?」
せっかく来てもらったのに、お土産を渡しそびれてしまった。
「かしこまりました。」
セシルは、渡したウィスキーボトルを持って追いかけてくれた。
翌日…
情報を掴むのが早すぎるリュカ様が屋敷にやってきた。
「やあ!コーデリア嬢。また楽しそうな事を始めたみたいだね!私も現地に同行しても構わないだろうか?」
「リュカ様?!もちろん構いませんが…」
いくらなんでも早いな。
さすがに情報収集が得意と言うだけはある。
2人で、避難民の町予定地へ向かう。
「リュカ様、早かったですね。」
「ん?それはもちろん、ウチと戦いになりそうな国だからね。当然見張っていたし…避難民の動きに紛れておかしなヤツらがやってくるだろうから、その辺は部下に見張らせないといけないからね。場所の下見ができればありがたいなと思ってさ。」
「そうでしたか。」
「…?着いたかな。」
賑やかなハンマーの音が聞こえ、真新しい街並みが見えてきた。
「わぁ!!1日でここまで?!」
目の前には、大きな団地や共有の水場、配給所ができている。
「へぇ…これは中々にすごいね。」
たくさんの住宅を見て、リュカ様が感心している。
住宅は基本的に2LDK。
大家族向けや身体の大きな種族専用の天井が高い棟もある。
「私も驚きました。」
「これはこれは!気付きませんで、ご主人様!何かありましたか?」
「いえ、ちょっと見に来ただけよ。でもすごいわ!まさか一晩でここまで進めてくれるなんて…」
これなら、なんとか全員を壁や屋根がある場所で寝かせてあげられそうだ。
「なんのなんの!!本当なら、一棟毎に違う色の模様でも描きたいところですがね、急いでその辺は後回しにしてるんで…完成したら褒めてくだせぇ」
へー。
職人気質なのね。
中々好感が持てる子だわ。
私の予想では、これは始まりに過ぎないので、元々居住用の団地は多めに描いている。
それら全てを完成して、褒める段だと、しばらく先になりそうだ。
「楽しみにしているわね。」
「期待していてください!では、この辺で…」
妖精がいなくなると…
呆気に取られていたリュカ様がリクエストする。
「私の配下の部屋もいくつかもらっても大丈夫かな?」
「ええ、いくつがよろしくですか?戸建てを特別に作る事もできますが…」
「いや、スパイの炙り出しとかもしたいからね。むしろ共同の場所の方が都合がいいかな?数は3ついいだろうか?」
「わかりました!問題ないですよ。」
………………………………………………………
翌日…
公爵領に到着した避難民達は驚愕した。
「えっ?まさかここ??」
「嘘だろ…真新しい街じゃないか…てっきり俺は奴隷かと…」
まだ疑っている避難民達に、ミモザが声を上げる。
「皆様、こちらが今日からお住まいいただく建物です!部屋は一家族で分かれていますので、誘導にしたがって各自の部屋を決めてください!いいですか?広い部屋が良い、何階が良いなどは先に言ってくださいね。後からは原則交換できませんので、慎重に選んでください!あと…部屋数は充分にありますので、他の方を押し除けるなども無しでお願いします!もう一つ大事な事ですが…炊き出しと食糧の配布を毎日朝と晩に行いますので、各部屋の鍋などを持ってお越しください!!」
ザワザワとざわつく群衆に一息で言う。
「どうして俺たちにこんなに扱いがいいんだ?後で何かとんでもない事になるんじゃ…」
1人の男性がいいだした。
ミモザは冷静に告げる。
「全ては公爵様とお嬢様のご厚意だから安心せよ!お嬢様からは…いつまでも甘えるだけではなく、来年までには各々仕事を見つけるが良い!との言葉もいただいておる!」
まだ不安げな者達も…
「来年まで猶予があるのか…」
「それなら…」
などと安心した顔を見せる。
彼らは更に部屋に寝具やら石鹸やらが完備されている事に驚き…
毎日の炊き出しや配布食糧のおいしさにびっくりするのだった。
そして、ひと月もしないうちに、炊き出しは大勢の避難民達の有志で行われるようになり…
今は無料配布だが、衣服屋や雑貨屋などを担当する者が現れ始めた。
「お母さん、思ったよりも悪くないね!」
夜布団に入りながら、子供が母親にニコニコと言う。
「ええ、家族は一緒にいられるし、美味しい食事が毎日いただけるし…ありがたいわ。」
「ほらな、竜王国の方がいいと言っただろう?」
父親が胸を張ると、家族みんなが揶揄う。
新しい街は、コーデリアが予想した以上に喜ばれたが…
そんな事は知らず、日本式の集合住宅で大丈夫だったか心配するコーデリアだった。




