第90話 メイズ・オブ・オナー
今日は朝からギルバートやメルヴィンと朝ごはんを食べている。
今日の朝ごはんはエッグベネディクトだ。
イングリッシュマフィンに、ベーコンとポーチドエッグ、オランデーズソースをかけて仕上げる。
ポーチドエッグは意外と簡単で、お湯に酢を入れてぐるぐる混ぜながら割った卵を入れるだけ。
簡単にできて、案外いろいろな物に合うから、ツナとポーチドエッグのせご飯とか食べていたなぁ…
オランデーズソースは、卵黄、バター、レモン汁、塩だけ。
簡単にできるのに、見た目はおしゃれで味がいい優秀な食べ物だと思う。
いつかカフェを出して、エッグベネディクトとかパンケーキ提供してみたいな。
メルヴィンはいたく気に入ったらしく、今5つめを食べている。
そんなに食べて大丈夫か心配になるけど、良く運動しているし、お腹空くわよね。
今日はそれよりも、作りたいものがあるのだ。
「リア、何か作るの?手伝うよ。」
ニコニコ顔でギルバートが近寄ってくる。
口をもぐもぐさせたメルヴィンもうんうんと頷きながら、近寄ってくる。
「ありがとう、今日はちょっとパイを焼こうと思って。」
「面白そうだね。」
今日焼きたいのは、メイズ・オブ・オナー。
ヘンリー8世が愛し、あまりの美味しさに門外不出にしたと言う、伝説のパイだ。
修学旅行で神戸に行って、食べて以来、美味しくて私も大好きなのだ。
サクサクとした歯触りのパイに、レモン風味のカスタードのようなチーズがたっぷりと入っている。
あのトロサク食感とレモンの風味はやみつき!
そんな訳で、オヤツに焼いておいて、後で食べようと思う。
「じゃあ、メルヴィン。今から言う材料を計量してくれるかしら?ギル君は、このパイ型にバターを塗って小麦粉をまぶしてもらえるかしら?できたら、レモンの皮を一個分丸まんますりおろして頂戴。」
「わかった。」
「任せて、リア。」
2人は早速作業にはいる。
その間に、私は本でパイ生地作り。
手を冷やす魔道具を開発したけれど、やっぱり作る時はコレが楽だし…
洗い物でないし…
室温気にならないし。
メルヴィンには、カッテージチーズ、砂糖、卵、牛乳を計量してもらっている。
「終わった。」
「ありがとう。じゃあ、カッテージチーズ…これね。コレをボールに裏漉してくれる?」
「……。できた。」
「いい感じね。次に砂糖を入れながら、コレをぐるぐる混ぜます。」
泡立て器を渡す。
「……。こんな感じか?」
「そうね。ここに卵を加えるから、混ぜていてちょうだいな。」
「ああ。」
メルヴィンがぐるぐる混ぜていてくれる。
「…。大体いいわね。次に牛乳を加えて混ぜます。」
「リア、レモンと型できたよ。」
「ありがとう、最後にこのレモンの皮を加えて…」
これで中身は完成。
「あとはこの生地を、こんな風に型に合わせて張り付けて…」
2人が真似して小さめな型にパイ生地を貼ってくれる。
「中身を入れて焼きます。」
中身はギルバートが流し入れた。
「とってもいい匂いがするね!今から食べるのが楽しみだよ。」
「せっかくだから、焼きたてを一個みんなで分けて食べて見る?」
「それはいいね!賛成。」
みんなで作ったパイはとっても美味しかった。
パイを食べていると、ギルバートが思い出したように話し始める。
「あ、そうだ。リア、前に畑貸してあげるって言っていたよね?」
「ええ、そうね。」
「あれさ、良く考えてみたけど…」
何か使いたい事でもできたのだろうか。
「あげるよ。」
「え?」
「今まで、こんなに支えてもらっているお礼、できてなかったからね。それに…あそこはもう何代も前から使われていないし…今後とも、リアが好きにしてくれたら嬉しいな。」
「ええ!!いいの?だって…あそこ、ものすごく広いしいい土地よ?」
「だからあげるんだよ!」
ギルバートは朗らかな顔で告げる。
「…あ、ありがとう!!嬉しいわ。でも、流石に代金の支払いくらいは…あ!今まで通り、使用料は払わせて欲しいわ!」
あの畑のおかげでものすごい数のミスリル金貨を稼いでいる身としては、申し訳なくなってしまう。
「それじゃあプレゼントにならないよ?」
「いいの!」
「んー。すでに莫大な金額貰っているから…」
「それなら、そう!王位についた後、5年を目処にって言うのはどう?」
5年もあれば、政情も落ち着いて好きに動かせるお金も大きくなるだろう。
ギルバートはしばらく渋っていたが…
「リアがそうしたいなら…ありがたく受け取るよ。」
最終的には折れて、コーデリアの提案を受ける。
「それなら、5年後に何かプレゼント、考えておくね?」
いたずらっぽく告げるプレゼントが何か気になるが、多分教えてくれないだろう、そう思い中身は尋ねず、焼きたてのパイをオヤツのために倉庫にしまった。