幕間 王宮にて
リアトリス竜王国、現王妃ナターリアは最近イライラしっぱなしだった。
王子を密かに無きものにしようとした企みは、たしかに上手くいっていたハズだった。
実際、旧王派は保養地にいるギルバートを静養中だと思い込んでくれていたようだし、王子も幼い身の上で何も出来ず、みるみる弱っていた。
毎回映し出される映像には、ガリガリに痩せた今にも死にそうな王子と、どんどん増える腐敗物が映し出されていたのだ。
ちょっとした病でも死ぬと思っていた小僧は、何故かなかなか死ななかったが…
特に歯向かう気力も無いようなので、あと少しだとばかり思っていたのだ。
それがある日、アカデミーに現れたと情報が入り、保養地の家はもぬけの殻になっていた!
そして、方々からの調査報告で、どうやらあの男は本物の王子だと断定された時には、怒りで頭が真っ白になった。
自分で編成した暗殺部を何度も差し向けてみたものの…
かすり傷一つ負わせる事はできなかった。
昨日の会議では、ついに旧王派のロベリア伯爵とサルビア侯爵が…
「殿下がご回復した以上、近日中にでも、王位継承の儀を執り行わなくてはなりませんな。」
「しかり…いや、陛下は難しい立場でありましたが、他国が攻め入る隙を作らず、無事にこの日を迎えられ、安堵致しました。」
などなどと勝手な事を言い、退位して当然と言う雰囲気を出して来たのだ。
無礼と切って捨てようにも、忌々しい事に、彼らは陸運の要を担う家でもあり、中々に派閥としての力が強い。
下手に動けば、こちらが追い詰められてしまう。
さらに悪い事に、アルメリア伯爵や他の旧王派よりの貴族まで、続々と賛成票を投じる有様であった。
中立派のブロッサム子爵が…
「殿下は今アカデミーに入学したばかりですので、式典の数と時期的には、初年度の終盤から随時儀式を進め、2年目にアカデミー修了の際に同時で王位継承がよいのでは…と思いますが。」
などとこちらに都合良い発言をしてくれなければ、式典など略式で良いので、国防の為、真の王を!!と言う流れになっていただろう。
もっとも、ブロッサム子爵は客観的な男で、買収や懐柔に応じるような性格ではないので、今後とも都合よく発言し続けてくれるわけではない。
ただ単に、準備期間やギルバートの帝王学の学習期間を考慮したにすぎないのだ。
そして今、王妃は市井に出回っていると言うポーションを、取り寄せ…
イライラは頂点に達していた。
「なんなのよ!コレは!!」
目の前のポーション開発部署の責任者、ハロルドを怒鳴りつける。
ハロルドは、いかにも研究者らしい見た目の大人しい男だが、王妃に怒鳴りつけられ、すっかり萎縮している。
「ぽ…ポーションです。」
「わかっているわよ!!バカにしているの?」
「そ、そう言う訳では!!」
「じゃあ、どうして民間でホイホイとポーションが売っているのか、説明できるわよね?」
すごまれたハロルドは、ヒィィーと言う声を上げる。
「それは、その。殿下が殿下がですね!」
「私が聞きたいのは、その忌々しい殿下がどうして、ポーションの作り方を知っているのかって話よ!!貴方、前にポーション製薬に必要な菌は、自力での発見はまず不可能…とかいってなかったかしら?」
だからこそ、他国に高値で販売していたと言うのに。
「その…我々にも、原因はわかっていません…菌株が持ち出された形跡はありませんし、我々は魔導契約で他言できないのはご存知でしょう?」
嘘をいっていないのは分かるが、トップシークレットがこうも簡単に漏れてしまった上に、利用した人物がギルバート王子というのがややこしい。
ヤツでなければ、偽物だとか、技術が盗まれたと騒ぐ事ができたが、それもできないのだ。
今のままでは、王子の株が否応なく上がってゆくだけだ。
なんとかしなくてはいけない。
旦那である王は、従兄弟を殺してしまった事を後悔しているらしく、現状打破の使い物にはなりそうも無い。
息子であるアルバート王子はと言うと…
「お母様、気持ちは嬉しいのですが、やはりこの国は竜に守られてこそですよ。」
などと消極的で、是が非でも王位にかじりつきたい気概が感じられないのだ。
私がなんとかするしかない。
決意を胸に、作戦を練るのだった。




