第88話 すれ違い
「最近、アカデミーの女の子達、すごくオシャレ度上がって来てないかしら?」
今すれ違った子、瞳の輪郭強調コンタクト、つけまつげ、ジェルネイル、ナチュラルに見える盛り盛りメイクだった気がする。
「ああ、あれはアリア様が開発したらしくてよ?」
サラが横目で見ながら答えてくれる。
「そうなのね…爪の装飾はなかった文化だし、かわいいわね。」
「ええ、それに…美容パックと言う、つけてしばらくおくだけでお肌がすべすべになったり、色が白くなる品も販売しているそうよ。」
ネイルにパックって事は、やっぱりアリア様は日本人なのだろうな。
美容知識とヒーラースキルを持って転生なんて、中々女の子らしくていいわね。
ギルバートを王にしたい立場上、味方に引き入れる人は選ばなければいけない。
特に、日本人だとゲームの内容を知っているのかも知れないし…
どこまで正確に反映されているのかわからないけれど、一度聞いてみる必要がありそう。
味方になってくれるなら、これ以上頼もしい味方はいないけど、敵になるならちょっと厄介よね。
早速、アリア様を個人的なお茶会に招待する。
応じてくれるだろうか…
心配をよそに、アリアはお茶会に来てくれた。
なんだかすごく得意にズカズカ入ってくると、ドカッとソファに腰を下ろした。
「今日はお越しいただき、ありがとうございます。アリア様、嬉しく思っておりますわ。」
「ええ、私もよ。」
回りくどいのは苦手だ。
ストレートに聞いてみよう。
「あの…アリア様はもしかして…日本という国をご存知ですか?」
アリアは一瞬目を見開くと、心底馬鹿にしたような表情を浮かべる。
「日本を知っているか?ですって?…貴女はどうなのかしら。」
「私は、元々日本人ですわ。それで、もしかしたらと思ったのですが。」
「はあ…バカバカしい。日本人に決まっているでしょう?しかも、なんなのそのカマかけ。知っているから私を呼んだのでしょう?せめて、普通ヒロインですよねって聞かない?」
「そうですわね。」
にこりと笑う。
やっぱり転生した、ヒロインだったのか。
今の段階でこちらがゲーム知識が無いとバレたら、この様子では不利益に働きそうだ。
そう判断した私は、知っている風に話を進めてみる。
「私は…まあ、こんな身分でしょう?だから…」
「そりゃあ、悪役令嬢だものね。悪女が悪事を働かないから、私すぐに転生者だろうってわかったわよ。」
私…
まさかの悪役令嬢なの?
「そうでしたか?ふふふ…うまくやっていたつもりなのですが。」
「はあ?アレで?…まさか…まさかとは思ったけど、アンタいまさら私に擦り寄るつもり?」
「擦り寄ると言うか、協力し合えないかと思っただけですわ。」
「ふうん。…なるほどね。」
しげしげと私を見ていたが、やがて納得の色を浮かべる。
「どうかなさりましたか?」
「アンタさ、悪役のクセに先回りして、逆ハーレム狙ったものの、アンタの嫌われ者の腐敗スキル持ちだものね…全然上手くいかないから、ヒロインの力を借りたくなった…ってところかしら?図星でしょう?まあね、あのスキル持っているだけで貴族社会最底辺だものね。」
ん?
なんだこの子。
ゲーム知識がむしろ変に邪魔して、現実が見えてないのでは。
大丈夫かな。
私…全然底辺感ないわよ。
根っからの悪い子では無さそうなのに。
でもとりあえず話を続けないと。
「別に、私如きがみんなをどうこうできるとは…」
「ウソ!信じないわよ。流石に…アレだけ周り攻略対象だらけなのに。ギルバート、メルヴィン、リュカ、レオナルト…隠しキャラのドラゴンのディーボス以外は全員いるじゃないの。」
「まあ、そうですが…」
たまたまとはいえない雰囲気だ。
それにドラゴンの名前は初めて聞く名前だな。
これから出てくるのかな。
「貴女と私、2人とも逆ハーレム狙い。普通は協力なんてできないけど…条件次第では、別に協力してあげてもいいのよ?」
「えっ?」
「私の条件全部飲んでくれるなら…だけど。」
「条件とは?」
「そうね…」
何やら、紙をガサゴソ探して、読み上げる。
「今更私をいじめたところで、ルートが元に戻るとは思えないから…一つ目、ポーション開発、販売は私の功績にする事。2つ目、攻略対象をギルバート以外で、且つ1人に絞る事。3つ目、すぐにアカデミーを辞めて、商会とやらの仕事に専念する事。最後に、資金面や公爵家の後ろ盾で私をサポートする事。」
「そんな…」
「貴女…ギルバートルートだけ未プレイとかで、肝心な部分を知らないでしょう?そうね、例えば…ギルバートの父を殺した犯人が残した証拠がどうなったか…とか。」
その部分については、今の段階で私が動いていない以上、ばれてしまうとは思っていたけれど…
やっぱりある程度頭も回るのね。
「…。」
「やっぱりそうなのね!攻略は、嫌われ者にしては上手くやっているのに、何をモタモタしているのかと思ったら…」
アリアは得意満面になる。
「それで、どうするのかしら?私はこの情報もあるし、今や美容界の女王よ。イベント的に、もうすぐ竜の巫女にもなれる。その上、ヒーラーの最上位スキル持ち。魅力的すぎるカードでしょう?黙っていてももうじき、勝手にストーリーが動くとは思うのだけど、私は優しいから、1人くらいなら同郷のよしみで攻略対象との縁結びを手伝ってあげるわ!誰がいいかしら?メルヴィンにしておく?」
どうしよう…
ギルバートの件は気になるけど、個人的に足元見過ぎな条件…
「やっぱり私…」
「条件が悪すぎて話にならないって思っているのかもしれないけど、本来なら貴女なんて彼らと話すことさえできない嫌われぶりなのだから、私の条件、破格の優しさだと思うわよ?悪役にまわれ!とも言っていないじゃ無いの。ただ、攻略を1人にして、悪役にしては立派すぎる功績を一つ譲るだけよ。簡単でしょう?」
アリアは、いかにも貴女の為!と言うような優しげな眼差しで見ている。
アカデミーから去れとかもあるけど、その辺らオマケ程度の認識なのかな。
「あの…そもそも、アリア様は全員を愛しているのですか?」
「え?むしろ、私は愛される側だから…」
「特別に現時点で愛している訳では無いのですね?」
ギルバートの為に何がいいか考えたけれど、この子がみんなを好きに操れる物のように語っているのが気になって仕方ない。
条件も条件だし…
今の世界の公爵令嬢の立場を無視して、無礼を通す人に遜る必要ないか、と言う気がしてきた。
犯人なら、リュカ様がもうじき掴めるから最終段階は手伝って欲しいって言っていたしね。
相手側に寝返らないかだけ、見てもらう為に、見張りの妖精を呼び出してつけようかな。
今回は、ヒロインで今のところ分かり合えないとわかっただけでよしとしよう。
「何?その顔。断るの?プレイもしていないのに、ギルバート狙い?」
「狙いは置いておいても、お断りいたしますわ。」
「そう…まあ、別に私はアンタが味方にいなくても困らないし…せいぜい今まで通り、家名でみんなをつなぎ止められるよう頑張って頂戴。」
ひらひらと手を振ると、足早に居なくなってしまった。




