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変わる42日目



健二出てから10日が経った。とうとう危惧していた水の供給が止まり、いよいよ物を消費するだけになってしまった。


二人で貯めた物はまだまだ残っている。

だが、健二が出て行ってから一度も調達に出ていない。今後の事を考えるとそろそろ出るべきなのだろう。


いつもの服装にして、本の代わりに以前の探索で見つけたプロテクターをつける。



そして2階から家の周りを確認して外に出る。



スーパーまで一人で行く勇気はない。前は二人だから行けたが、一人で行くには遠い。だから今回は1人に慣れる為に少し家の周りを散策するつもりだった。





この時の俺ははっきり言って油断していた。いや、ちゃんと言うと油断をしていた訳じゃない。いつも通りの行動で間違いはないと思っていた。だが2人分の行動を1人でこなすというのは思っていた以上に難易度があったようだ。


確かに2階から周りを確認した時確かにゾンビはいなかった。



だが、死角である玄関のすぐ脇は確認できなかった。


勿論家を出る前にドアの覗き穴からいつも外を確認していた。


だから家を出た瞬間にゾンビと出くわす事もなかった。(居れば2階から物を投げて誘導していた)



上手くやっていると思っていたからこそ気づかなかった。ゾンビには2足歩行以外で動くものもいるという事を。






覗き穴を見てからドアを開けると両足のないゾンビがいた。


そいつは俺を見ると右足の脛に噛み付いた。

機動力重視のために足元は軽装だったのだが、それが完全に裏目に出た。


すぐ持っていたフライパンで殴り引き剥がす。

仕留め切れていない。だがそんな事よりも早く家の中に戻りドアを閉めた。



噛まれたという事実に頭の中がパニックを引き起こしていた。だが、直ぐにズキズキと痛む足を抑えながら棚から輪ゴムを取り出し太ももあたりに巻く。それをいくつも重ね血の流れが止まるまでやる。


いつも考えていた。もし噛まれたらどうすべきかを。顔や胴体なら諦めるしかない。だが腕や脚なら直ぐに切断すればどうにか出来るはずだと。


だからすぐに動ける。輪ゴムの後は仕上げとしてロープで足を巻きノコギリで足を…あしを…………



ノコギリの刃が足に当たり血が出る。そしてノコギリを動かそうとする。

だが、そこまでだ。血が出てからは全く手を動かせない。


頭では切らないとと思うのにどうしても動けない。



そして、手を離す。カタンという音と共にノコギリが落ちた。

無理だ。足を切る勇気が無い。





俺にはゾンビになる事より足を切ることの方が嫌だったようだ。





ふぅと息を吐き俺は足を縛ったまま棚から救急箱を取り出し傷口をアルコール消毒してガーゼを貼る。

これで治るとは思っていないが、まぁ気休めにでもなればとは思う。

そして、水と食べ物を自室に運び、部屋の外に[入るな!]

という文字を書いてから内側から鍵を締める。



何とも呆気ない最期だな。そん事を考え、スマホから音楽を流し最後の晩餐を始める。夜では無いので晩餐では無いのだが、まぁそこは最期なのだから大目に見る。



スーパーに置いていた、中々高い缶詰やハムを開け食べる。美味い、美味いが最期にコレというのが何とも味気ない。



食べて落ち着いたからなのか、意味もない事を考えてしまう。


もし、俺が映画の主人公なら足を切る勇気があったのだろうか?と。



そんな事を考えて、違うと自分で自分を否定する。

主人公だから勇気があるんじゃなくて、勇気があるから主人公なのだと。



これから死ぬ、いやゾンビになる為かどんどん思考が巡りはじめる。





今思うと俺はこの状況で生き残った事に自分は主人公なんじゃないかという調子に乗った考えがあった。


なんせ、偶然家に居て、偶然雨戸を閉めていて、偶然人を助けて、それが偶然昔の友人で、この日まで、順調に生き残る事ができた。




だが残念な事に俺は主人公ではなかった様だ。

何がダメだったのだろうか?やはり調子に乗った事だろうか?



それなら誰が主人公なのだろうか?


俺じゃないなら健二か?


昔の友人に助けてもらって、たまたま自分達以外の人達のことを知って、その人達を助ける為に、友と別れ安全な場所を出る。



うーん、あいつが主人公な気がしてきた。


もし健二が主人公なら俺は何だろうか?


映画の中盤あたりで出てくるゾンビになった友人とかだろうか?




それはなんか嫌だなぁ。


まだまだ俺は生きたいのに。



だが、残念な事に時間が差し迫ってきたのか、身体がだんだん熱くなっているのを感じる。


風邪とかインフルエンザとかに比べ用もないほど体が熱い。


この熱さに一番近いのはサウナだろうか?


急いで残りを食べて、水を飲み一息つく。


ゆっくりベットに横になりスマホをいじる。最期なのだからオーケストラの様な壮大な曲を流したいが、残念な事にそんな曲は入っていないので、今流行りの曲を流す。


そのポップな曲調は今からゾンビになる人が聞くような曲では無いと思うが、現実はこんなものである。



だんだん思考が鈍くなってきた。

からだが重い、熱もさっきよりたかい気がする。

しこうがまとまらない。

あぁ、もうだめそうだ。


ならさいごにいうことばは一つだろう。














かゆ うま





















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