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告白

作者: 工場長

お手柔らかにお願いします

 夕暮れ。

 幾らでも両手を伸ばせるここはさながら鮮やかなライトで彩られたアイドルステージのようね。

 それでいえば今日は生憎の無観客ライブなのだけれど。

 美しく朱色に染め上がった空は地平線の向こうまで広がって、世界が本当に広いんだって事を教えてくれる。

 「………悪いな。待たせちまった」

 あ、彼が来たわ。

 私が心の底から愛している彼。

 癖っ毛がチャームポイントの、私の前じゃ強がる癖に実は気弱な可愛い人。

 「相変わらずお前も思い切りがいいよ。お陰で俺もこんな遠出しちまった」

 何よ。貴方車の免許持ってるんだし、多少なら別に良いじゃない。

 ずっと言ってなかったけど実はかなり羨ましかったのよ。

 「…………しっかし、初めて来たけどいい景色だな。本当に何もねえ」

 ええ。私もそう思うわ。

 静かで、何も無くて、広くて、私の悩みなんて本当にちっぽけなんだって思わされる。

 これで風が吹いてたらもっと気持ち良くて完璧なのだけど、流石にそこまでは高望みかしら。

 「空気も美味えし、遠出した甲斐はあったってもんだ」

 貴方は根っからのアーバンボーイだからこういう景色は珍しいわよね。

 私からしたらもう見慣れすぎて、飽き飽きして…貴方の住んでるような都会の景色が羨ましくてしょうがなかったのだけどこの感情、多分こう言うのよね。

 隣の芝生は青い。

 「…………………」

 ここまで喋って遂に話題が尽きてしまう。

 静寂の中を気まずさと落ち着きと———色々な感情がブレンドされた複雑な、でも心地良い空気が流れていく。

 このもどかしい絶妙な距離感を貴方は余り良く思っていないみたいだけど、私は好きよ。

 大好き。

 「………俺も考えたんだ」

 ゆらゆらと漂う沈黙の空気を押し流すように彼は深呼吸を一つ。

 肩の力を抜くように意識して、少し微笑んだようになって、覚悟決めたような、あまり見た事ない彼になる。

 「俺らずっと付き合って、遠距離で、年に五回くらいしか顔を合わせないような関係だったけどさ……」

 そこで言い淀んだ彼は、誤魔化すように一歩前に出る。

 柄に合わない真面目モードも長続きせず直ぐにいつものひょうきんな笑顔に戻ってしまうのだけれど、それも心なしか強張って見える。

 「結局俺にはお前が必要だった」

 今一度深呼吸をして、目を閉じて、彼は静かに独白した。

 「お前と会えないのが日に日に辛くなっていくんだ」

 ここまで言って貴方は深く息を吐く。

 ああ。嬉しい。

 貴方のその言葉を私はずっと聞きたかった。

 貴方がそう言ってくれるって信じてた。

 「だから…。お前が許してくれるかどうか分からないけどさ————」

 良いのよ。そんなに怯えないで。

 私の返事はとっくのとうに決まってるんだから。

 「お前が死んだこの学校で………俺も、逝かせてくれ」

 眼前に広がる田畑。

 裏山に面したここは私の三年間を地獄へと変えた憎しみの場所。

 だけど貴方はここを選んでくれた。

 私と同じ場所で、私と同じ方法で逝くことを選んでくれた。

 最後の時を私と迎えることを選んでくれた。

 一陣の風が貴方の中途半端に長い髪を巻き上げる。

 ああ、気持ち良い。

 私は今、きっと世界で一番幸せな女なんだわ。

 貴方は震えるその手足で柵を乗り越える。

 目の前は空中。

 逃げ道を塞ぐ壁も、押し潰されそうな天井も、剣山の様に刺す床も無い。自由で寛大な最高の場所。

 「………俺は、お前が好きだ」

 震える身体から絞り出すように呟いて、貴方は重力に素直になった。

 答えなんて、今更言うまでもないでしょうけど言わせて頂戴。

 私も、貴方が大好きです。

 

短編練習と思って書きました

情景、行動のミスリードは上手くいったでしょうか?

最後に様々な背景が一気に広がるような効果は表現出来たでしょうか?

感想やTwitterなどでどうだったか言っていただくと参考になります

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