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短編シリーズ

隅の鳥

作者: きり

やまもおちもありません。

が、こういった生活がしてみたい……

 都会のど真ん中にある小さな緑の集合体。

 上空から見ると灰色のビルの谷間に、ブロッコリーのように木々の緑がちょっと飛び出している。

 そんな木の根元のベンチに座る男性が、目の前にある神社の写生をしていた。

 ラフな格好で手元の大きめな手帳に鉛筆で書いている。

 ぱっと見、休日のサラリーマンが手帳にスケジュールを書いているように見える。


 ある程度描いて満足した男は、手帳を畳んで立ち上がる。

 この男はずっとこんな感じで全国の神社を巡っていた。


「おじさん、ずっと何書いているの?」


 男の足下には10才位の女の子が不思議そうに立っていた。


「何かずっと書いているよね? 私ずっとあそこにいたから気になって」


 少女の指す先には小さな滑り台とブランコがあるだけの、小さな公園風になっていた。この神社は兼公園のようにもなっている。


「んー、おじさんは神社の風景を描いていたんだよ。見て見るかい?」


 そういって懐にしまった手帳を取り出して少女に見せた。


「おー、凄いねおじさん。よーちゃんより上手いかも!」

「よーちゃんを知らないけど、ありがとう」

「でも……この辺りにいるのは何かな?」


 少女が指した先は絵の中に所々書いてある小さい人形のような物だった。


「これは神様だよ。なんとなくこんな感じで遊んでいるのかなぁ、と想像して、ね」


 男は軽く笑いながらも説明していく。


「ここで見守っているのが菅原道真公で、この柱の陰に入るのが稲荷神いなりのかみ。で市杵島姫命いちきしまひねのみことがこの池を守っているんだ」


「えー、誰? それは神様?」

「そうだよ、あそこの石碑に由来とか書いてあるから興味があるなら読んでみたらどうかな?」

「この隅っこの鳥は何?」

「これは八咫烏だよ。太陽の化身とも神様の使いとも言われているね。この神様はこの神社にはいないけど」

「……いないのに描いてあるの?」

「そう、これは神社の様子をこうやって天照大御神にお伝えするのさ」

「んん? お伝えするって?」

「そう、僕は神様に色々な景色を伝える役目があるんだよ」


 微笑みながら男は手帳を閉じた。


「ちょっとだけ見せてあげる」


 そう男は言うと手水へ行き手と口を濯ぐ。そして神殿の正面に立ち手帳を石畳に置いた。

 柏手を打ち礼をしておもむろに何かを唱え始めた。

 少女は怪訝そうな顔をしながらも黙ってみている。


「かしこみかしこみもうす……」


 すると風が境内を渡り自然と手帳がめくれていく。

 最後に男の描いた神社の絵のページが開くとそこで風が止まる。

 が、男はそのまま目を閉じたまま祈りを続けている。


 手帳のページが光ったかと思うと白い靄のようなものが空に向けて飛び上がっていった。

 その後一分ほどそのままだったろうか。

 境内は妙に静まりかえっていて、普段ならよく聞こえる車の音も聞こえない。


 男が目を開けて柏手を一つ打った途端、音が戻ってきた。


「……と、まぁこんな感じでお伝えているわけだ。手帳を見てごらん」


 男が手帳を拾って少女に見せる。


「……別に変わってないと思うけど……あ、れ? 鳥がいない!」

「うん、描いた景色をお伝えしに行ったんだね」


 満足そうに男はうなずくと、じゃ、と手を軽く上げて境内から出て行く。


 その後、少女は家に帰り母にその話をするが、笑って取り合ってもらえなかった。

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