大好きなカレはツンツンからツンデレになるみたいです①
クルル様の態度がおかしいとは思いながらも、それに突っ込む勇気のないあたしは流されるままにクルル様の隣に座り続けていた。
騎士の偉い人っぽいイケメンが、そろそろと言って声をかけること5回目漸くクルル様が、話す気になったようだった。
「そうだな……仕方ない」
『ハク。そのクッキーたべたいにょだ』
オリジンが、ジャムの乗ったクッキーを欲しがりそれにあたしを伸ばそうとした刹那、クルル様が焦ったように腕をガシっと握る。
え……これ、オリジンが食べちゃ駄目なやつ? などと勘違いしつつ、クルル様の方を見れば明らかに動揺した顔をしている。
「えっ……?」
「白、お前は……危機管理能力が足りない。不用意に手を伸ばすな!」
「は?」
クルル様は何を怒ってるの? 危機管理能力って……クッキーじゃん普通の……。
わけのわからないクルル様の態度に、あたしの頭は更に混乱していく。
『にゃんだ……? 食べてはだめにゃにょか?』
クッキーが食べてはいけない物だと思ったらしい、小人オリジンがしょんぼりと項垂れた。
保護欲をそそられるその姿に、クルル様に掴まれていない方の腕を伸ばし、クッキーを1枚摘まむとオリジンへ渡してあげる。
「ほら、オリジン食べていいよ」
『いいにょか? くるるはおこらにゃいにょか?』
「大丈夫だよ~。安心して食べていいよ。怒られるとしても多分あたしだから……」
オリジンの方へ顔を向けたまま会話をするも、後頭部に感じる威圧感に嫌な汗を額に浮かべなんとかそちらを向かなくていい方法を探すも……腰を掴まれた腕によって強制的に引き戻された。
うわー。この目見たことあるよ……学校に行かなくなって一週間? 乙女ゲームやってるあたしを見るお母さんが良くこんな目してたな……。
「あのね。オリジンが食べたいって……」
「はぁ~」
なんなの? もうなんなのさ! 訳がわからないよ……。
「申し訳ありませんが、殿下……ご婚約者様に、ご事情をお伺いしてもよろしいですか?」
「あぁ。はじめてくれ」
気まずい空気を読んでくれた――と思う……いいや、思いたい――騎士さんたちが漸くクルル様へ声をかけると何か許可を得た。
っていうか、ご婚約者ってあたしのこと? あたしに聞きたいことって何? とか思いつつ、オリジンを見れば、クッキーを食べ終わったらしく首をコテンと倒すしぐさをする。あぁ、可愛い!! つい、もう1枚クッキーを手にとり渡してあげた。あぁ、本当に癒される……。
「失礼します。白様のお伺いしたことがございます」
「なんですか? スリーサイズですか? えっと……」
なんて冗談を言えば、騎士さんは驚いた顔で固まり、クルル様はギロリとこちらを睨みつけ、腰にまわした指先がギュっと私の肉を掴むと自分の方へ更に抱き寄せた。
えぇ~! もう何、ドキドキするじゃん! 初…… なんて考えてたら、ドスの利いた声音が耳元で聞こえた。
「白……それ以上しゃべるな? いいな?」
笑顔を見せつつ、その口から出る言葉は怒りだとはっきりと判るクルル様の言葉に、壊れた玩具みたいに無言で縦に首を振った。
はぁ……堅苦しい……ただの冗談じゃん。何そんなに怒ってるのさ?
「それで、白への調査なのだろう?」
「はっ……はい」
「白。昨日の夜の件だが……」
「――っ!!」
昨日の夜……という、クルル様の言葉に今度はあたしが思考を止め固まった。
「なっ、何か心当たりがあるのか?!」
あたしの肩に両手を乗せたクルル様が、ガクガク揺らしてくると焦ったような声音でそう聞いてくる。はっ、と正気に戻り、昨日のあの廊下での出来事を思いだす。
あ……やっぱり、弁償だよね……服と廊下の絨毯……いくらだろ? ていうかこの世界のお金あたし持ってないよ。払えなかったら、奴隷とかにされるの? うぅ……やだよぅ。
「はっ、白? どうした。何をそんなにっ!」
「くっ、クルルさまぁ……」
「……な……にがあった?」
ドキドキと恐怖に駆られ鳴る心臓の上を手で押さえつつ、クルル様に弁償できないと伝えようとすれば……焦った瞳でクルル様があたしを見つめた。
「あのっ……」
「心配するな。私はお前の味方だ! 何者からもお前を守ると約束する。だから、全て話せ。何か思い当たる節があるのだろう?」
ん? と一瞬思うも、弁償、奴隷落ちと言う言葉が頭を過り。会話が繋がっていないことを気付かないあたしは、瞼をぎゅっと閉じ、決意すると弁償できないことを伝えるため、目を開きクルル様を見つめ重い口を開いた。
「ごっ、ごめんなさいクルル様! あの……あたし、貧乏でお金ないから弁償できませんっ! あぁ、でもちゃんと働いて返すからその……少しだけ待ってほしいの!」
「は?」
「え?」
「やっぱり……奴隷落ちデスヨネ……」
クルル様たちの反応見る限り、奴隷落ちが確定したと思ったあたしは、がっくり項垂れこの部屋に居られるのは後何日だろうとなどと哀愁に浸った。
あたしの言葉を聞いたクルル様たちは絶句したまま何も言わず……はぁ~。と大きくため息を吐いた。
そんな私たちの様子を静かに見守っていたオリジンが、何を思ったのか突然大きくなる。
「ふむ。そなたたち勘違いし合っているのではないか?」
「何?」
「ふぇ?」
「まずは、二人共落ち着いて話し合ってはどうだ?」
そう言うと、オリジンは一つクッキーをつまみ上げ、小人の姿に戻るとパクパクと食べ始めた。
どういうこと? そう思いつつオリジンを見つめるも、奴は既にクッキーの虜になりこちらを全く見ようとしない。クルル様の方は怖くて見れないし……どうしよう。
「そっ、そうだな……まずは、その昨夜の件だが、あれは気にしなくていい。弁償も無用だ」
「本当ですか?」
弁償しなくていいという言葉に、あたしは勢いよく顔をあげクルル様を見つめた。
視線が合うと、頬をポリポリ掻く仕草を見せたクルル様がフイっと視線を外す。耳にかかった髪が揺れて赤くなってるのが見え照れているのがわかる。
「あぁ。それで構わん。そんなことよりも、昨日の料理に――「白様、はっきりとお伺いしますが、御気分が悪くなられたのは、食されたスープによるものでしょうか?」」
クルル様が、昨日の料理と言いかけたところで、焦れたらしいイリュス様が言葉を被せた。
昨日の料理……スープは美味しかったけど? なんでそんなこと聞くんだろう?
不思議に思うも、首を横に振り素直に「美味しかった」と答えれば、困った表情を見せる三人。
「では、何故吐き出した?」
「あー。えっと、あたし鳥駄目なんですよね……ぴよりん思い出すから」
そう言って、ぴよりんの思い出話を語って聞かせれば、三人の表情が驚きから落胆、そして呆れへと変わった。
「じゃぁ……あれか、別に毒とかなかったと言うことですか?」
「あはははっ。毒なんて飲んだらあたし死んじゃうじゃん!」
笑いながらそう伝えれば、クルル様は太ももに肘をつき両手で頭を抱え。イリュス様は、うつむきながら目頭を押さえ。強面騎士さんは、スーと無言で立ち上がると周囲に居た他の騎士さんたちに「問題はない」と伝え「それでは、失礼します」と言うと部屋を後にした。
「白様……」
不憫そうな瞳をしたメアリーに呼ばれそちらを見れば、メイドさんたちが胸の前に手を置き安心しましたわと言っていた……状況を理解できないあたしは、ただただそれを見守った。
足を運んで頂きありがとうございます。