大好きなカレはツンツンでした。⑥
それはある日突然やってきた……なん言う物語の始まりを思い出した私は、今日もギュウギュウにコルセットで腹部のたるんだお肉を締上げられている。
この世界に来て7日が経ったけど、このコルセットだけは本当に勘弁して欲しい……うっ!
「お……なかがっ……!」
「ハク様もう少しですわよ」
もう少しこれで、10回目ですよぅメアリーさん。
吐き気を覚える締め付けに、つい音を上げてしまう。
「はくは、毎回これをするとにゃき顔だにょ」
「だっ……だってくっううぅ、苦しいんだもん!」
フヨフヨ浮いて、コルセットで締上げられるあたしを観察していたオリジンが、首を傾げながらに可愛い言葉で泣き顔だと不思議そうに言う。
フーフーと何度も息を吐き出しては、苦痛に耐え漸く着替えが終わると執事さんがやって来きた。
用件を伝えた彼は、綺麗なお辞儀をして部屋を出て行った。
「晩餐のお誘いですわね。さぁ、ハク様着替えを致しましょう」
「え? さっきドレス着たばっか――「このようなドレスで、陛下たちにお会いになるなどなりませんわ!」」
私の言葉に被せたメアリーが嬉々として、腕を引っ張りクローゼットへと私を連れ戻した。
いや、意味がわからんのですが……? つい10分前ぐらいだよ、このドレス着たの!! なのにまた着替えるって……この世界の女の人本当に大変だな。
「さて、どれにいたしますか?」
「んー」
ぶっちゃけ服なんて、ジャージがあれば十分だったあたしに、好みなんて存在しない……強いて言うなら……そこまで考え、ゲームの中で聞いたクルル様の好きな色を指定してみることにした。
「クルル様の好きな、水色がいいなぁ~」
「そうですわね。でしたら、こちらは如何ですか? クルル様のお好きな水色に濃い青のレースをあしらい、真珠や貝で装飾を施したドレスですよ」
二人がかりで持ち上げて見せてくれるドレスに、重そうだと思いつつ「じゃぁ、それで……」と答えた。が……ドレスの重さが半端ない。ニート引きこもりの私に、このドレスで歩けと……無理です。すいません。
「――お着替えいたしましょうか」
一歩歩くどころか、その場でヘコたれ座り込んだあたしに、絶句していたメアリーが流石にマズイと思ったのか、着替えを提案してくれた。
次に出してくれたドレスは、かなり軽めのものだった。
「はぁ~。ドレスって体力いるんだね……」
着替えを終えて、出た感想がこれだった。お腹がグルグル音を立てはじめ、昼食代わりのハムサンドを摘まみつつ、今度は顔や髪をセットされる。
カレコレここに入って、大分経つけど……支度って大変なんだなぁ……ただ座っているだけのあたしとは違い、メイドさんたちは沢山の筆や貝殻などをその手に持って、うろうろあたしの周りを回っている。
髪に布で出来た花飾りを編みこんで、動いて良いですよとメアリーの許可がおりた。
「あぁ、背伸びはしないでくださいね!」
固まった身体を解そうと腕をあげかけたあたしへ、慌てたようにメアリーが声をかける。どうやら、髪が崩れるらしく動きもゆっくりでお願いしますといわれてしまった……。
やっと終わったとソファーに座りかけたところで、クルル様が部屋に尋ねてくる。
メイドがあけた扉から入ってきた彼は、あたしを見るなりその場で硬直して動かなくなった。
固まる彼に競歩みたいに走りより、頬を突いてみるも反応が無い……え? そんなに変な顔してるの? そう不安になりつつメアリーを見れば、納得した顔でうんうん頷いている。
「クルル様?」
「……」
「聞こえてますか~?」
何度か呼びかけて漸く動き出したかと思ったクルル様が、顔を背け手で覆うように画すと顔を赤らめた。
「どこか変ですか?」
そう言って、くる~んと1回転回ってみせるあたしに盛大な溜息を吐き、顔を向けると手を差し出してくる。
「行くぞ」
「ほぃえ?」
謎の行動に、意味がわからずトチ狂った返事をすると、ツカツカ歩いて側に来ると腕を掴んで、自分の左手に添えるように置いてくれる。
「あっ、エスコートってやつだ~!」
「煩い!」
「あだっ!」
浮かれ目を輝かせたあたしのおでこに見事なデコピンを入れ、恨めしそうな顔を見せるクルル様。
そんな怒らなくてもいいじゃん~。ぶぅーと唇を尖らせるとくすくす笑って歩き出す。
「何故、見た目に反した言動にでるのか……」
「え? それってどういう意味ですか?」
「いや……何でもない」
食堂? にエスコートしながらクルル様があたしを見つめ意味のわからないことを呟いた。会話を広げようと考え、聞き返してみたけど教えては貰えなかった。
それっきり無言になったクルル様と二人で歩く。
あたしの歩くスピードに合わせて今日はゆっくり歩いてくれている。
飾られた調度品や絵を見ながら歩けば、あっと言う間に幸福の時間が終わりを迎え仰々しい扉の前へと到着した。
「白、緊張しているのか?」
「いっ、いいへぇ!」
「ふっ。そう緊張するな、母上も妹も弟もお前に会えるのを楽しみにしているはずだ……」
「ちょっと、クルル様そこで黙り込むのやめてくれません? 余計緊張するじゃないですか!」
「ぶはっ、ククククッ」
爆笑するクルル様にジト目を向け見つめれば、はぁー笑ったと楽しそうに言った後、こう助言してくれた。
「いいか? とりあえず笑っておけばいい」
「はぁ~?」
「開けてくれ」
そう兵士に言うと、扉の前に立っていた兵士が扉をゆっくりと開いた。ゴクっと唾を飲み込み、取り繕った笑顔? を作り顔に貼り付けると、ふぅーと息を吐き出して一歩を踏み出した。
部屋の中は、中世時代にある大きな長いテーブルかと思えば、そうではなくちょっとお金もちのお家にありそうな、10人ぐらいが座れるテーブルだった。
やばい……遠いと思ってたのに超近いじゃん! あたし箸の持ち方変だってお母さんに言われた事あるんだけど、どうしよう……箸……持ち方どうだっけ?
テンぱる私を余所に、席へ到着すると同時にクルル様が椅子を引いてくれる。
「アッ、アリガトウゴザイマス」
椅子にどのタイミングで座ればいいのかわからず、呆然と立つあたしに顔を近づけたクルル様が、少し掠れた麗しい小声で耳打ちしてくれた。
「とりあえず早く座れ!」
「スワルタイミングワカラナイヨ!」
「いいから……腰を降ろせ、そのタイミングはこっちは計る!」
「ハヒ」
クルル様の指令通り腰を降ろす。中腰状態で待つも椅子は前へ来ない……!!
ちょっとぉ~。このままあたし後にこけたりしないよね? そう不安になりながらもう少し降ろしてみようとピクピク震えながら腰を降ろせば、音も立てずにクルル様が椅子を差し込んでくれる。
ふぅーふぅーと鼻息を荒くしつつなんとか第一関門をクリアした。
既に部屋に帰りたい気分満載で、俯くあたしへクルル様の妹であるクリスティアちゃんが、可愛らしい声で白オネエ様と呼ぶ。
その声に反応して、顔をあげたあたしをキッと睨みつけると口だけを動かし『ブス』と呟いたかと思えば、それが嘘のように可愛らしい微笑を見せると、質問を投げかけてくる。
「御姉様は、お兄様とどうやって知り合われたのですか?」
「……えっと……」
「クリスティア! そう言うのは子供が知るべきことではない」
どう説明しようかと悩んでいれば、横の席に座ったクルル様がクリスティアちゃんを少しきつめの口調で嗜めた。
クリクリの目に涙を溜めたクリスティアちゃんの表情をみて、慌てて仲裁すべく言葉を吐き出す。
「あっ、あのね。その……中庭の木で知り合ったんだよっ。そっ、それで……『うるさい、ブス』」
あれ、庇っただけなのに、またブスって……あたし、嫌われてるよねこれ……?
足を運んでいただきありがとうございます。
まだ、確定ではありませんが、来週から少し更新のペースが上がるかと思います。
その際はまた告知もしくは活動内容でお知らせします。