大好きなカレはツンツンでした。⑤
耳がキーンって鳴りそうなほど、場に緊張が流れた。
おなか痛くなるから――じゃなくって、ここはヒロインらしくしないと!
「私のために、争わないで!」
決まったっ……ふぅ。やり切ったわ。
「……」
「……」
あれ? 二人ともなんでそんな冷たい視線を向けているの? 私ちゃんと空気読んだよね?
「あー。えっと白、ちょっと黙ってろ」
クルル様が跪いたまま、そう言うから仕方なく黙ってあげる。
て言うか、いい加減このて離してほしいなぁ……。徐々に閉まってるから、そろそろ私リバースしそうだよ……。
ペシペシオリジンの腕を叩いて、ギブだと伝えるも余計に閉まった。
あぁ、ヤバイ意識が……。
「おっ、おり……じん、はなし……へぇ……」
「白!」
「ハク!」
慌てたように駆け寄る足音と二人のイケメンの声が聞こえた気がした。
「んっ……」
目が覚めたら、知らない天井……が見えない天蓋付きのベットで寝てた。モゾモゾと布団から抜け出して、起き上がって見ればソファーでクルル様とオリジンが、優雅に紅茶を飲んで談笑している。
こういう場合って、手とか握って心配してくれてるんじゃないの? あたしが起きたことに気付いたの、メイドのメアリーだけじゃん。何楽しそうにしちゃってさ……クローゼットに引こもろうかな? そうしよう……。
疎外感を感じ悲しさから、つい引きこもりを発症させてしまったところで、メアリーが声をかけてくれた。
「ハク様。お加減いかがですか?」
「……平気です。メアリー……」
「はい?」
「クローゼットって鍵ついてたっけ?」
「えぇ。一応中からしめられるよ――「ありがとう」」
メアリーにお礼を伝えて、ベットから抜け出し立ち上がる。
そのまま、クルル様もオリジンも無視してクローゼットに直行する。横開きのクローゼットの扉を開き、音が鳴るほどの勢いで締めて鍵を探す。
扉と壁に付けられたワッカに棒を差し込む仕組みのようだ。棒を探せば扉の手すりに紐で括りつけられていた。
それをワッカに上から差し込む。
「ふぅ~。これで一人になれた……ぐずっ」
この世界でも、やっぱりぼっちになっちゃった。
クルル様は冷たいし……オリジンには初めて奪われたし……それなのに、二人して談笑してるなんて……嫌い。
扉を誰かがノックする。
「入ってますよぅ」
まるで、公衆トイレで次の人が待ってるような気分になって、つい入ってますと言ってしまった……。暫く独りになりたいのに、しつこいぐらいにノックされてる。
「うざい……ほっといて!」
「ぁ……すまない。そのどうしたのかと思って……」
勢いに任せて、言えば。その相手はクルル様で、余計に落ち込んだ。
はぅ~。クルル様だったよぅ……なんでこんなについてないの? 段々腹立ってきた! 元はと言えば、オリジンのせいじゃん。それを自分はクルル様と……クルル様と。
疎外感が悲しさになり、そこから怒りになり、また疎外感が生まれ悲しくなる。
膝を抱え、顔を伏せると声を出さないように涙を流した。
「ほぅ。ここはこうなっておるのか」
嫌な男の声に顔を上げれば、腕を組み辺りを見回している……。
なんでこいつなのぉ。ってそれどころじゃなくて、鍵閉まってるのになんで入ってきてるのよ!
「なんだ、そんなことか。我は精霊だ! 人の作った境界なぞ関係ないのだ」
つか、心読んでんじゃ……!!
ハッとして慌てて、オリジンを睨みつけると首を傾げてそのイケメンの顔を近づけてくる。
顔から15センチぐらいの所で口を両手で塞いで隠す。
「どうしたのだ?」
「何で、ここに来たの?」
「ふむ。ハクは私の乙女だからな。お前の側にいるのが当然であろう?」
理由が乙女だからって……意味わかんない! 普通そこは、心配でとか言えないの?
ダイケメンの言葉に、また怒りのボルテージが上がる。
「そこは、せめて……心配したとかいいなさいよ。ダメ(イケ)メン」
「ふむ。何故する必要があるのだ? 心配とやらを……?」
「あっ……あんたなんか大嫌い!」
あんまりの言い草に叫んでしまう。
そしたら、突然ダメメンがシュルシュルと音を立て、その身体が縮んで葉っぱを被った掌サイズの小人になってしまった……。
「えっ……?」
『突然なにをしゅるのだ』
ちょっと、何この可愛い生き物! やばっマジで可愛い!
あまりの可愛さに、その頬を突いてみれば頭をコクリコクリと指の動きに合わせ動かし、頬が赤くなるとぷぅっと膨らんで、真ん丸の目に眉を寄せ怒った表情をする。
『はく、やめるにょだ! わちのほっぺをちゅんちゅんしゅるな~』
「やめるにょだだって。くすくす」
見た目に言葉のタドタドしさも相まってつい、笑ってしまう。
大人のオリジンより全然可愛いからこっちの方が好き。
「ねぇ、オリジン」
『にゃんだ?』
「あんた、そのままで居てよ。その姿の方があたし好き」
『しょうなのか? にょんげんは、あのしゅがたの方がしゅきにゃのではにゃいのきゃ?』
「ん~。他の人はどうか知らないけど、あたしは今のオリジンの方がいいな」
『しょうか。にゃらばこのしゅがたでいてやってもにょいぞ』
「ふふ。ありがとう」
オリジンの可愛さに絆され、疎外感や怒りなんてどこかへ行ってしまった。
『しょうだ。きゅるるがしょんばい? しょていたぞ』
「本当に?」
『あぁ』
オリジンの言葉に急いで鍵を開けてみれば、眉根を下げた心配そうな顔で扉の前をウロウロしていたクルル様が、あたしの方を振り向いて「ふぅ~」と息を吐き出すと、申し訳なさそうな顔をした。
「あー。そのなんだ、悪かった」
何を謝っているんだろう? 冷たくした事、それとも切った事?
首を傾げてクルル様を見つめれば、視線を横に向けて逸らすと小さい声で色々とって言った。
「色々?」
「その……白に対して辛く当たったと思ってだな……兎に角だ、悪かった」
耳が赤くなったクルル様は、鼻の頭をポリポリ掻きながらそう言って謝ってくれた。
「じゃぁ。もう冷たくしないで下さいね?」
「努力する」
「そこは、判ったじゃないんですかー?」
「白を相手にその返事はできん……」
「何それー。全然反省してないじゃないですかー。謝る意味わかってますか?」
「煩い。とにかくだ、お前は私の婚約者なのだから、もう少し落ち着きを持って淑女らしくだな……って聞けー!」
耳を塞いで鼻歌を歌うあたしに、クルル様が叫んでる。聞こえてるけど聞こえないフリをして、ソファーの方へ移動してお菓子を摘まむ。
淑女らしくとか意味わかんないし。喪女、オタク、引きこもりのあたしに言われても……無理だし?
「はぁ~。本当にお前なんかが王太子妃になることなんてなんてできるのだろうか……」
「んー。王様がなれって言ったんだからなるしかないよねー?」
盛大に溜息をつきソファーへ座ったクルル様の口へ、摘まんだお菓子を差し出し笑顔を見せる。
差し出したお菓子にを見つめてたクルル様が、少し視線を彷徨わせた後、無言で口を開いて、パクっと食べるとまた溜息を吐いた。
「ふふっ。美味しいですか?」
「当然だ」
「あたしがあーんしてあげたから?」
「調子に乗るな!」
「あだっ……! もう痛いじゃないですかぁ~」
そう言ってあたしにデコピンするとフイっと横を向いた。
その反動で、耳にかかった髪が揺れて彼が恥らっているのが判る。
ゲームの時もそうだった、クルル様は恥ずかしくなったり照れると必ず耳が赤くなる。
痛いと怒った癖に、くすくす笑うあたしをジト目で見つめるその姿もやっぱりカッコ良くて……大好きだと思ってしまう。
「クルル様」
「なんだ?」
「大好きですよ」
「――っ!!」
ニッコリ笑って微笑めば……クルル様は口角をピクピクさせて盛大に溜息を吐き出した。
キャラぶれしてないといいのですが。
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