大好きなカレはツンツンでした。④
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薄く瞼を開いて見たら、光は収まっていた。
「もぅ。いったいなんだったのよ~」
愚痴を零しつつ、瞼をしっかりあけてみる。
辺りを見回し、異変に気付いた。さっきまであったはずの透き通った綺麗な青で葉を付けた樹がなくなっている。
「ぇっ……と。これってあたしのせい?」
これは、まずいよね? なんか精霊樹っぽかったし……。
やらかした気持ちに視点が合わず、キョロキョロと移動する。動揺が、全身に伝わり肌が汗ばむのを感じた。
まじで、どうしよう……。
へたり込み、俯いた。
そこへ、高圧的で高飛車そうな声が降り注ぐ。
『そなたが、我を目覚めさせた乙女か?』
顔をあげれば――日の光を浴びて青く透き通ったストレートな長髪、青とも緑とも見える瞳、白く陶器のような滑らかそうな肌を持ち、身長は180後半、スレンダーな体躯に纏うのは、紺色のローブだった――男性がいる。
無言で見つめて居れば、その見目麗しい顔に不快感を表す。
『そなたが、我を目覚めさせた乙女か?』
同じセリフを言う、イケメンに呆然とするよりも、笑いがこみ上げた。
必死に抑えようと試みた結果、鼻を鳴らす豚の様な声がでてしまった。
「ぶふっ」
『おい!』
男性は、ピクピクと眉と口角を器用に動かして怒っている。
うわぁ~。こういうのアニメでみたことあるわ! でも、こんなことイケメンがしちゃダメだわ。
せっかくのイケメンが台無しだよって教えてあげようと思って伝えてあげる。
「ねぇ。イケメンさん! せっかくのイケメンなのに、その顔はダメでしょ?」
『……っ! 貴様が答えぬからだろう?』
更に、顔が酷くなるイケメン……。どうしよう?
そうだ! こういう時は可愛らしくしとかなきゃ!
ぺたん座りを辞め、女の子らしく両足を揃えて座りなおし、振り乱した髪を手櫛で梳き横に流す。
首を斜め45ぐらいの角度にして、アヒル口を意識する。
その間、出来る限り瞬きを我慢して潤ませると女子力という装備が完了する。
「ごっ、ごめんなさい」
あざとく、チラチラと彼を見つつ、どもった振りをして謝れば完璧な乙女になれたはずっ!
『で?』
渾身の女子力を発揮したはずのあたしの耳に、冷ややかな声が届いた……。
打ちひしがれるあたしの側にしゃがんだイケメンが、首を肩に着くほど傾げて顔を覗き込んでくる。
『質問に答えよ。お前は、我を目覚めさせた乙女か?』
頭を傾げたせいで、透き通る青い髪が横にながれ、その美しい青の瞳が瞬きもせず、見つめてくると、妙な気分にさせられる。
イケメン……? 女子力高くない? いや違う、今は質問に答えなければ……。
「あたし、イケメンを起したの?」
『ふむ。そなた、そこに立っていた樹に触れたのではないのか?』
イケメンが振り返り、先ほどまで透き通った綺麗な青で葉を付けた樹があった場所を指した。
「うん。触ったけど……」
『そうか。ならば、そなたが我の主ということだな!』
嬉しそうな笑顔を見せるイケメンさんに釣られるように、苦笑いをした。
なんか、笑わなきゃいけない雰囲気だったから……とりあえず的な?
『そなた、名はなんというのだ?』
「天地白。シロとかハクとか呼ばれてるよ!」
親と幼稚園の時に唯一話しかけてくれた子に……とこっそり、心の中で付け足した。
『そうか! では、ハクと呼ばせてもらおう。我名は、オリジン、生命を司る精霊だ』
「生命を司る精霊ってことは木の精霊ってこと?」
『うむ』
イケメンことオリジンはドヤ顔を決めて頷いた。
『契約だ』
そう言うと、麗しい顔が近付きそのまま唇が重なる。
身体が熱くなると、共鳴するみたいように2人の身体を光輝く緑の粒子が包み込んだ。
光が収まり唇を話したオリジンは、驚き目を見開いたあたしを見て悪びれる様子も無く平然としている。
「ちょっ! はじめてだったのに……」
クルル様とのはじめてを夢見てたのに、最低だよぉ。
『ん? 何か問題があるのか?』
「ううっ……はっ、はじめてっ、は……っ、くるるっ……さまっ」
オリジンの言葉に、我慢してた涙がボロボロと零れ落ちた。
悲しみにくれる私を呼ぶ声が、木々の向こうから聞こえ、慌てたような足音が複数近寄ってくる。
ガチャガチャと鎧の鳴る音に振り向けば、太陽を背負い滴る汗を額から流した。最愛のクルル様が立っていた。
涙が零れ落ちる顔を、ギョッとした様子で見た彼は、直に視線を左右に振り周囲を警戒するも、首を傾げあたしを凝視した。
「おい。何故泣いている……?」
怪しむ目を向けられたあたしは、泣きながら、オリジンを指差し訴える。
「ぅっ……。こっ、こいつがっ、あたし……のはじめて……うばっ、ったの」
『ふむ。我の姿が見えておらんのだな』
仁王立ちのイケメンと、怪しむ視線を向けたイケメンに囲まれるあたし……なのに全然嬉しくない。もっと、キスって甘くて切ないって思ってたのに……。
夢と現実の違いに悲しみから、暖かな家を思い出しつい、本音が漏れてしまう。
「もぅ。やだ……帰りたい……。家に帰りたいよぅ……」
整理できない気持ちをまるで吐露する子供のように、ただ帰りたいと繰り返すあたしを見かねたように、クルル様はツカツカと歩いて来ると、腕を引っ張り、身体ごと引き上げるようにして抱きしめてくれた。
「白。落ち着け」
耳に届くクルル様の声が、今までよりもずいぶん優しく響いた。
ダメよ、白ここで泣き止んだら、きっと後悔するわよ! と私の姿をした悪魔が脳内で囁く。
白ちゃん、嘘泣きしてはだめよ。クルル様に好かれたいのでしょう? と私の姿をした天使が微笑みながら囁いた。
ファーストキスを奪われてそれどころじゃないもん! と悪魔と天使をかき消しクルル様の胸に縋る。私が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれたクルル様が、照れたように耳を赤くして理由を聞いてくる。
「それで? 何が合って泣いていたんだ?」
クルル様の胸の中から、チラリとオリジンを睨みつけ。
「うんとね。青い綺麗な葉っぱが付いた精霊樹があって、それに触ったらそこにいる『生命を司る精霊』のオリジンに唇奪われたの……」
「くくっ……それは、また。奇特な精霊がいたものだな……」
ふっと表情を緩めたクルル様は、どこか楽しそうに笑い声をあげるとあたしから離れた。
もっと胸の中に抱きしめてくれてていいのに……。
妄想を膨らまそうトリップする途中で、憎っくきオリジンが割り込んでくる。
『白よ。この男はなんだ?』
「クルル様だよ。あたしの婚約者様!」
キッと、オリジンを睨みつけて教えてやれば、オリジンは訝しそうな顔をするとクルル様を指差して、偉そうに値踏みする。
『ふむ……。顔はまぁ、そこそこであろう。我の方が良い男ではあるが。体躯も我の方が良いな。魔力は在るが、精霊である我が見えぬのか……。使えぬ男だ』
「はぁぁぁ? あんたとクルル様なら断然クルル様の方がカッコイイし。精霊見なくても別に生きるのに困らないでしょうがっ!」
オリジンのクルル様に対する評価をムキなって否定してやる。
腹立つ、こいつ。なんなの? クルル様の方が断然イケメンだし。優しいもん!
ギャーギャーと喚くあたしの肩を、クルル様が掴み落ち着けと言わんばかりに何度も叩いた。
「はぁ。褒めてくれるのは嬉しいが、もう少し淑女らしく褒めてくれ……」
「だって……腹立つんだもん」
溜息を漏らし、困ったような顔を見せたクルル様に、ぷぅとリスみたいに頬を膨らませて訴える。
そんなあたしに、オリジンがツカツカと歩いて来ると腕を捕まれ引き寄せられた。
後から、両手で抱きしめられる形になったと思えば、腹立たしそうな顔をして聞こえないクルル様に向って悪態を付いた。
「我の乙女に、何度も気安く触れるな下郎がっ!」
オリジンが叫ぶと同時に、クルル様の顔が引き攣った。
どうしたのだろう? と思い見ていれば、スッと片膝をついて、目上の人に対する礼をした。
「お初にお目にかかります。生命を司りし精霊、オリジン様。私は、クルル・リシュカーナ・ファン・ヒスタリカと申します。精霊オリジン様の乙女に触れてしまい誠に申し訳ございませんでした」
なっ! 何が起こってるの??
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ハローウィンイベントについて、読者様にお伺いしたいと思いリンクを貼っております。
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