大好きなカレはツンツンでした。③
少しでも楽しんでただければ幸いです!
そう意気込んでみたけど、実際はクルル様にまったく近寄れなかった。
国王陛下とお話をした後、クルル様の執務室へ戻るのかと思ったら、「部屋を用意する」と言われて王城の離れに放り込まれてしまった。
「う~。これじゃぁクルル様に近付かないよぅ」
ソファーでゴロゴロしながら、作戦を立ててみよう。
まずは、出会いからやり直したいところだけど……クルル様に会えなきゃなんにもできないんだよね。
うーんうーん。と唸っていると、部屋つきのメイドさん(美女)が、髪は結い上げて、クラシカルロングメイド服をピシッと着こなして部屋に入ってくると挨拶をしてくれた。
「本日より、王太子婚約者様である。白様のお世話を申し付かりました。メアリーと申します。よろしくお願いいたします」
あたしに向ってアニメとかでみた、カテーシーをしてくれた。
「メアリーさんね。あたしは、天地白よろしくね」
気楽に挨拶を返すと、メアリーは会釈して紅茶を入れてくれた。
まったりと紅茶を飲んだ後、彼女は他の侍女たちを紹介してくれた。
「折角ですから、お召し物のお着替えをいたしましょう!」
その言葉に何も考えず「いいね~」なんて言葉を伝えたばかりに……。
「お風呂に入りましょう」
そう言うメアリーに、頷いて浴室に向ったら、メアリーと数人の侍女に群がられ服を脱がせはじめたり、身体を洗いますって言って、浴室に入って来て本当に全身を洗われたり……。
ひとりで大丈夫だからと何度も断ったのに、押し切られてしまった……。その後の、エステはあの指使いただものではない! って言いたいぐらい最高だったけど。
至福の後には拷問がある……、誰か偉い人が言ってたなぁ……なんて考えてもやっぱり苦しいです!
「メアリーっ……、うっつ、それ以上締められたら息できなくっ、なる……」
3人がかりで、コルセットを閉められてる!! 苦しい! こんなに締めるなの?
「もう少しですわ! 白様!」
元気付けるように、隣のケイトが言うけど……もう少しこれで10回目だよ~。
その後、15回目のもう少しで漸く、締め上げ拷問が終わった。
「そうですわね~。白様は黒髪ですし……。明るいお色がお似合いになりますわね!」
「確かにそうですわね~。それに、磨き上げただけでこれほどお変わりになるのですら!! このお色も素敵ですわね」
そう言って、メイドさんたちは楽しそうに、ドレスを選んでいる。イモジャーの方が楽なのにな。この世界、ひきこもりには辛いのかもしれない。
ドレスひとつ着るだけで、一時間近く締め上げられるってどうなの? なんて考えていると、次々ドレスをあてがわれ、最終的に空色のヒラヒラしたドレスに決まった。
鏡の前で何度も回り、自身のドレス姿を眺めてはニヤニヤした。周りのメンドさんたちが引くほどやった後、ソファーに座り紅茶を飲んだ。
「ねぇ~。メアリーさん」
紅茶のお代わりとお菓子を出してくれていたメアリーは、仕事をこなしつつ返事をくれる。
「なんでしょうか?」
「あのね。クルル様はどうしてあんなにツンツンしてるの?」
打開策を探るため、メアリーに聞いてみることにした。
「そうですね~。王太子殿下は、次期国王様ですから厳しく育てられておいでなのです。ですから、幼少の砌よりその責務を負われているためか、あまり笑わない方だと記憶しております」
「そっかぁ~」
ゲームでのクルル様は、凄くいい笑顔……じゃなかったなぁ、ゲームで初めて会うのはセインルートで、セインとの待ち合わせ中に学園の図書室に行ってその奥に座ってた、クルル様と精霊についてお話しすることが裏ルートの分岐になったっけ? ってことは、今回も図書室にいけば会えるんじゃ?
「ねぇ~。メアリー。図書館? 図書室? ってあたしでもいけるかな?」
目を見張ったメアリーは、直ぐにその顔を繕うように優しい笑顔に変えた。
そんなに本を読まない女子に見えるの? あたし的には結構、読書家のつもりなんだけど。
「えぇ。白様でも閲覧は可能ですよ。ただ、閲覧禁止などの本もあるため一度確認してみますので少々お待ちいただけますか?」
「もちろん!」
「では、確認してまいりますね」
彼女は壁際に控えていた、他のメイドに何か指示みたいなものを伝える素振りをみせると部屋を出て行った。
ゴロンとソファーに寝転がると。クッションを枕に豪華な天井を見つめて考える。
どれぐらいで図書室? にいけるようになるんだろう? はぁ~。クルル様に会いたいなぁ……。
まるで自分が恋する乙女みたいって思うと、急に気恥ずかしくなってくる。誰に何かを言われた訳でもないのに、バタバタと手を振って必死に顔を隠す。
「あぁ、こう言うとき相談できる友達と呼ばれる生命体が居れば良いのに……」
豪華なシャンデリアが飾られた天井に向って独り事を呟くと、ふわふわと白い綿毛みたいなものが飛んでいるのを見つけた。
「真っ黒じゃなかった……、真っ白しろすけだぁ~!!」
某世界的に有名アニメのセリフをつい改変して口走ってしまった。
突然の大声に、驚いた様子を見せるメイドさんたちをスルーして、私はふわふわ飛ぶ綿毛を○イちゃんみたいに、追いかける。
……意外と早い……。
「ちょっと……はぁはぁ。ひっ、ひきこもりにはその速さはっ、辛い……はぁはぁ」
優雅に飛んでみえる白いふわふわは、調子にのって追いかけたあたしにつかまることも無く一定の距離を保ち続ける。ついにはへたり込んでしまった、あたしを心配するように、少しだけ近付いてくれた白いふわふわへ、愚痴を零した。
「はぁはぁ。早すぎだよ~。あたし運チなんだから、もっと優しくしてよ!」
綿毛は、その場に浮いたまま動こうとしない。もしかして待ってる? 少しワクワクしてつつ綿毛に向って、ゆっくり歩き出すとゆっくりと綿毛も動き出した。
「走らなくても良かったんだ……」
歩くだけでいいなら余裕~。なんて思いつつ辺りを見回すと、薔薇が咲き誇る庭園にいることに気付いた。
「こういうの見ると、つい言いたくなるよね……」
こう言うのを、一人でやるのは慣れてる……やれば出来る子だから! なんて考えて、彼の偉大な御仁のように、髪を振り乱し前髪をかきあげる仕草をして、キリっとした顔を決めるとハリのある声を意識して薔薇へ向い。
「夢は必ず叶うと信じることが大切。どっかで自分を疑っていると叶わなくなってしまうから」
はぁ~。超決まった! 流石永遠不滅のバンドX-J○pan=Yos○ik○様のセリフ! って一人だからできることなんだけど!
人前でなんてやったら、恥ずかしくて死んじゃう。キョロドリ気味に辺りを見回して、誰も居ないことを確認した。
綿毛を追いかけて、ト○ロに会えるかなって少しだけ期待してたけど、やっぱり違ったらしい……。風もないのに青い葉が漣打つように揺れる一本の樹の前で綿毛は止まると、吸い込まれるように消えていった。
「ほえ~。綺麗な樹」
背丈はまだ1メートルぐらいの小さい樹の前に立つと、傷つけないように気をつけてその葉に触れてみる。葉は、まるで石みたいに硬くて、透き通った綺麗な青で葉っぱらしく、濃い青で筋が入ってる。
「サファイヤみたいで綺麗」
そう呟いた途端、樹が輝きはじめその光は徐々に強くなっていく。
「はぁ! 眼がぁ~!」
余の光に耐え切れず、両腕で庇うように瞼を強く閉じた。