チョコレート・プレッツェルにご注意を
ある日のこと。
「ねぇ、今日は何の日か知ってる?」
「今日? 今日は11月11日だったか?」
「そう。それで、何の日か知ってる?」
「うーん……俺たちが付き合い始めた日はまだ先だしな」
「もう! 鈍感なんだから。11月11日、この数字って何かに似てない?」
「11月11日………1が並んでいるな」
「そう! その1って数字が某チョコレートを纏ったプレッツェルお菓子に似てるから、今日は『某チョコレートを纏ったプレッツェルお菓子の日』なんだよ~」
「なに? ……今、なんと言った?」
「え? だから11月11日、某チョコレートを纏ったプレッツェルお菓子に似た1がたくさん並んでるから、某チョコレートを纏ったプレッツェルお菓子の日だよって」
「お前、今『1がたくさん並んでいるから某チョコレートを纏ったプレッツェルお菓子の日』だと、そう言ったのか!?」
「そうだけど。それで今日は二人で、某チョコレートを纏ったプレッツェルお菓子ゲームをしたいなって」
「なんだとッ!? お前は1がたくさん並んでいるから某チョコレートを纏ったプレッツェルお菓子の日などと薄ら寒いオヤジギャグを言っただけでなく、挙句の果てには二人で某チョコレートを纏ったプレッツェルお菓子ゲームをしたいと、そんなハレンチなことを言ったのか!?」
「いやハレンチて……っていうか私たち、付き合ってもう結構たつんだよ? こういうイベントを二人で楽しもうって、そう言ってるだけじゃない」
「なっ!? つ、突き合ってけっこう勃つだの、愉しもうだの、お前に恥じらいというものは無いのかァッ!?」
「はぁ? そんなのアンタの勝手な解釈でしょ? いつ私がそんな風に言ったのよ。そもそもアンタ、付き合ってから全く手を出してこないなんて、まさか童t」
「おっ………お前という奴はァーーーッッッ!!!!」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「チッ、痛ったいわね…………なんなのよオオォォォォッ!!!!」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「ぐああああああああああああああああああああ!!!!」
またある日のこと。
「ねぇ、今日こそは何の日か知ってる?」
「今日? 今日は12月の……いやちょっと待て、また唐突にハレンチなことを言い出すんじゃあないだろうな」
「そうだよ。それで、何の日か知ってる?」
「うーん、俺たちが付き合い始めた日はまだ先だし……ンッ!? いいい今お前、そうだよと、そう言ったのか!?」
「だからそうだって。今日は12月24日、クリスマスイブだよ? なんだって聖なる夜に大の男と女が雁首揃えてこんな子供じみたゲームなんてしなきゃなんないのよ?」
「なんだと? お前こともあろうにこの私が愛してやまない『大混戦スマッシュシスターズ』を子供じみたゲームだと、そう言ったのか!? ……いや、いやいやいや待て違う! 今お前……せ、性なる夜と、そんなハレンチなことを言ったのかァ!?」
「なんかニュアンスおかしくない? いや間違ってはないけどさ」
「間違ってはないけどさ!? そ、それじゃあお前はこの私が愛してやまない『大混戦スマッシュシスターズ』を子供じみたゲームだと罵った上に、せ、性なる夜にせせせ性的な行為を二人でしようと、二人っきりで朝までしっぽりと愉しもうと!! そそ、そう言っているのかッ!?」
「はいはいそうです、しっぽり愉しもうって言ってるの。っていうかアンタの言い方のほうがハレンチじゃないの」
「なっ……なななんあなんだてエェエェェッ!?」
「私たちもう良い大人なんだよ? まさか、私のこと好きじゃないの……?」
「好ひぃッ!? んああいや待て落ち着け俺ッ!! 深呼吸だ深呼吸を……いやそうだ素数だ、こんなときは素数を数えれば良いってえらい人が言ってたからえーっと……1、2、3、4……」
「いやアンタそれ素数間違ってるし。それで、私のこと好きなの? 嫌いなの?」
「ご、ろく、ななあああああああああなぜッ!! 何故今お前のことが好きか嫌いかなど、そんな話になるんだ!?」
「だってアンタ、私に全然手を出してくれないじゃん。そんなの、やっぱり寂しいよ」
「ぐっ……いやあの、そのそれはそのアレだ、そういうのはその………ケッコ…してからじゃないとさ、責任とかその、ほら、うん」
「え………ねぇ、今なんて言ったの?」
「いいいいやなんでもないッ!! た、ただそういうのはまだそのあの……早いかなって」
「良いから! 今なんて言ったの!?」
「なんでもないって! 何も言ってないから!!」
「言っただろうが今ちっさい声で結婚って言っただろうが!! もっかい言えってんだよ!!」
「けっこ!? ちち違いますぅ~、そんなことまだ言ってませんん~~」
「アンタ今『まだ』って言ったね!? それってつまりそういうことなんだよね!?」
「し、しつこい! 今日は遅いからもう寝るぞ!!」
「あっテメェ待てコラ! ハッキリ言えやアアァァアァァァァ!!!!」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「ぐああああああああああああああああああああ!!!!」
そしてまた、とある日のこと。
「なぁおい。今日という今日こそは何の日だかわかってんだろうなァ?」
「あの、なんだか言葉遣いが荒々しくは御座いませんでしょうか」
「いいから答えろ」
「ははいッ!! えーっと………う~ん……いや、今日は特別に何の日ということは……」
「………なんだと?」
「ひぃっ!? し、しかし今日は別に何も――」
「お前ッ!! こともあろうに今日が何の日か覚えてねぇってのかア゛ァ゛ン゛!?」
「いやいやいや! 今日は別になんでもないだろ!?」
「……どうやら死にてぇようだなァ?」
「待って待って!! だってだって本当に記憶に無いから――」
「テメェこないだ結婚だなんだヌカしといて、こんな大切な日を忘れたってぇのかアァァァッ!?」
「ケッコ!? いやそれはその、まだハッキリとは――」
「ゆる………さん……」
「ひいぃぃいぃっ!?」
「今日という今日はもう許さねぇぞゴルアァァァァァ!!!!」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「ぐああああああああああああああああああああ!!!!」
バッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「ぎぃやああああああああああああああああああ!!!!」
グッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
「ぶるああぁぁあぁああぁぁぁあぁぁ!!!!――――」
「………うっ、ぐふっ……うぅぅ…………」
「さぁ、そろそろトドメを刺してやる」
「げっふぅ……ま、まって、くれェ………」
「なんだテメゴルァ、この期に及んで命乞いかァ? オ゛ォ゛ン゛!?」
「ち、違……違うんだ………」
「何が違うってんだボケナスがァァ!!」
「……あっ………あし…………」
「ア゛ァ゛ッ!? もっとハッキリ言えや!! 毎度毎度ぶつぶつぶつぶつ言いやがって!!」
「…………記念日……明日、明日……」
「あ゛?」
「俺たち、付き合った日、明日……」
「…………え?」
「あし……た………ガクッ………………」
コロンッ……
「こ、これは………指輪?」
「…………うそ」
それはそれは、安らかな死に顔であったという。
おわり。
みんなも誤爆には気を付けよう