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前回

フィルの前でぶっ倒れました。

(熱い…)


口から火が吹けるんじゃないかというくらい熱くて仕方がなくて目を開けた。

そこは、炎の海だった。


肌を焼く熱風に目を瞑る。風が通り過ぎると、何かが腐ったような澱んだ匂いがムッとするほど立ち込めた。


シーナは妙に冷静で、熱に焼かれながらも目の前にそびえ立つ存在に気がついた。

それは赤くて、巨大だ。炎に揺らめく鱗のような表皮を辿って視線を上げた。


トカゲのような顔に2つの金の瞳が光っている。


心臓がドキドキしてきた。頭の端で恐怖が首をもたげる。何か悪いことが起こる気がする。

シーナは地に足がついていないような奇妙な感覚のまま後ずさった。


その時、自分の体から黒い蒸気が噴出してぐるぐると渦巻いたかと思うと、一気に巨大トカゲに向かって襲いかかった!


トカゲを飲み込むように覆いかぶさる黒い何かが、次の瞬間、激しい風で振り払われる。

シーナは思わず顔を守るように腕を上げた。何が起こっているのだろうか。薄目を開けてみれば、腕の隙間から赤い大きなコウモリの羽がはばたくたびに激しい風が吹くのを見た。


羽のある巨大トカゲ。あれは映画やアニメの中でしか見たことがない…

(ドラゴン…?)


これは夢だな、とシーナは思う。

けれど、ただの夢にしてははっきりしていて、その場に釘付けにされていた。


と、黒が棘のような姿に変わり、矢のようにドラゴンを貫いた。

劈く悲鳴が鼓膜を打って、辺りに鮮血が溢れる。


赤い鱗と血と炎と、その中で悶えるように震える黒い何か。この世のものとは思えない光景が、突然、ドラゴンを中心に激しく光りながら()()()()膨張した。はち切れそうなほどになった途端急速に縮まり、そしてとっぷんと水面に雫が落ちたように揺らいで、光を飲み込んでいった。


…じわっと心臓が熱くなるのを感じた。

何かがシーナの中で蠢いている。感じたことのない感覚に気分が悪くなってうずくまった。

何かが身体の中から出ようとしている。


(うぅ!なんか…飛び出しそう!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ふるえる身体から何かが溢れ出す感覚に勢いよく目を開けた。


自分の身体が炎に包まれている!

一瞬パニックになったが、炎は渦巻いたかと思うとすごい勢いでシーナの中に吸い込まれていった。


(え?あれ?気持ち悪くなくなった。夢…だった?)


見回すと、いつもとは違うベットの上だ。そこは小さな個室で、ベットは自分が寝ているもの一つだけ。雰囲気はいつもの場所と同じ感じのようだが、とても暗かった。

一つだけある窓からは夜空が見えていた。


(たしか…フィルに言葉を教えてもらってたのが昼前でしょ?それで立ち上がったら私、倒れて…?)


断片的だが記憶がある。みんなが心配そうに見ていたような、ゆらゆらと運ばれたような…。部屋の様子といい、ここは夢じゃなさそうだった。でも、焦げた後もなければ、身体に異常もない。


(寝ぼけてたのかな?はぁ…っていうか!ご飯二食も食べ損ねた?!)


辺りはひっそりと静まり返って寝静まった真夜中のようだ。シーナは途端に空腹を感じてがっくりした。


こんな時間まで寝てしまうとは!

まだこの世界にきて3日だけど、相当疲れていたのだと実感した。前向きに頑張ろうと思ってはいても、身体はついてこれていなかったということか。


ベットの上に横になったまま、自分の手を見る。なんの変化もない、いつも通りの自分の手だ。

さっきまでの夢はなんだったのだろうかと思う。ここにきて初日にも不思議な夢を見たが、何か関係があるのだろうか?


(身体から炎が出るなんてありえないけど、自由に火を使えるならお風呂だって沸かせるし、料理も火を使ったものを試せるんだけどな〜)


随分現実的な夢のない想像だがほっといてほしい。どちらもたくさん薪を使うだろうから申し訳なくてできないのだ。自分で薪を調達できるようになってからかなと考えていたのだが、お風呂と美味しいご飯を求める気持ちは日毎に強くなっている。


(でも、ここ異世界だし?魔法とかあっても不思議じゃないし?)


でも、夢では勝手に出てきた炎だ。どうやって出すのかはわからない。


(夢の中ではこう…)


夢で感じたように、身体の中から炎が飛び出してくるようなイメージでお腹に力を入れた。手をじっと見つめたまま集中する。


(さっきは勢いに任せて出てきた感じだったから、絞り出すように、ライターみたいになるように…)


ライターを思い浮かべた瞬間、ぽっと手のひらから小さな火が灯った。本当に、夢じゃなく、火は暗い部屋の中で暖かく明るい。


「す、すごい…。できちゃったよ…」


あまりにあっさりできてしまった自分に、軽く引いてしまった。でも、これで暖かいお風呂や美味しい食事に一歩近づいた。…それ以上に考えるべきことかあるような気がするが今は脇へ置いておく。

小さな火だが、見ていたらじわじわとテンションが上がってきた。


(え?これ、すごくない?私、魔法使いになっちゃった!わー!小さい頃、アニメに出てくる呪文とか真似してたけど、まさか大学生になってから実現するなんて!)


がばっと身体を起こして手の中の火に顔を近づけた。すると、頭がくらっとして、途端に火が消えてしまった。

消えちゃった…と思ったら急に疲労が襲ってきて、重力に逆らえずぱったりとまた横になった。


(なんか…すごく疲れちゃったから……また明日、考えよ…)


あっという間に、シーナはまた眠りに落ちていった。

投稿が遅くなりましたが、だいたい1週間を目安にアップするつもりです。よろしければ、お付き合いください!

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