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言葉の勉強

前回

フィルと呼べるようになりました!

仏頂面以外の表情が浮かんだフィルだったが、あっという間にもとに戻ってしまった。ちょっと残念だったが、どうやらこれが彼のデフォルトのようだ。そうとわかったシーナは、なんだか気が抜けてしまった。


彼の名前がおそらくフィルだと知って満足したし、さてそろそろお腹すいたな〜とエーシャの様子を伺った。作業が終わったのか、道具を片付け始めている。

ここは日当たりが良すぎて暑いくらいだし、私も片付けを手伝ってこようかなと考えていると、肩にコツっと何かが当たった。


なにかと思って振り向くと、フィルが小突くように本を差し出していた。革張りのしっかりした装丁の本で、青い表紙にはアルファベットに似た不思議な文字が躍っている。


何がしたいのかわからなくて首を傾げつつも、受け取って開いてみた。

手書きと思われる黒い文字が規則的に並んでいる。まず左に短い文字列が並んでいて、線で区切られた右側に文章が続いていた。


(これってもしかして…辞書?貸してくれるの?!)


はっとして顔を上げると、心の声が通じたようにフィルが神妙な顔で頷いた。どうやら彼は言葉を覚えるのに協力してくれるらしい。


(わぁ!なんていい人!一対一だとちょっと気まずいとか思っててごめんなさい!)


全くもって現金な性格だ。

出会い頭に投げ飛ばした上に、どこの誰かもわからないシーナに物を貸してくれるフィルの度量の大きさを見習えと怒られそうだ。


(私より年下だろうに…すごい気がきく!しかもイケメン!チートすぎ!)


株が爆上がりである。キラキラした目でフィルを見れば、居心地悪そうに視線を晒された。いや、そんなことはどうでもいい。


早速シーナは1ページ目の一番最初の単語を指差して「ドレ?」と聞いた。フィルの視線が本に落ちて、素早く何か言った。


(早いよ!もっとゆっくり)


「ド〜レ?」

ゆっくり言ってみた。


フィルは小首をかしげて考えながら、今度はゆっくり発音した。

「ワ タ シ」

「ワタシ」


うんうんと頷いて、フィルが自分を指差して「ワタシ」と言った。


(えっと…男の子とか、彼とか、そういう意味?)


辞書があっても読めないと意味を教えてもらうのが難しいことに気がついて困ってしまった。シーナの困り顔を見たフィルも顎に手を当てて考えてから、突然、シーナの手を取った。


シーナはドキっとした。思ったより大きな手だ。

フィルはそんなシーナの様子に一瞬動きを止めたが、すぐに手首を返してシーナに向けた。そして、また「ワタシ」と言った。


(どういう意味だろ?フィルが自分を指差しても、私が自分を差しても同じ言葉になるってことは…?)


ピンときた!つまり「ワタシ」は「私」だ!

「ワタシ、シーナ!」


どうだ!と胸を張って言ってみた。ちょっとだけど、単語をつないで文章にできたことがすごい進歩な気がして、興奮に顔を紅潮させた。

フィルも理解してもらえたことか嬉しかったのだろうか。顔を赤くしながらうんうんと何度も頷いてくれた。


(「私」が言えるって、ホントに初歩の初歩だけど、一歩を踏み出したかんじするよ〜)


じゃあ次は…とどんどん覚えたくて次の単語を指差した時、後ろからエーシャがやってきた。私たちの様子を見て、割って入って申し訳なさそうな口調になりながらご飯の時間だと教えてくれた。


どうしてわかったかというと、昨日の夜、ご飯の時間になると「ゴハン」と言って子どもたちを集めに行くことに気がついたのだ!だから、ご飯の言い方は理解できる。できるのだが…


(まだ一つしか教えてもらってないのに〜!うぅ、ご飯取っておいてもらえないかな。私だけあとで食べるってことで…)


明日もフィルが来るとは限らないから彼がいるうちにいっぱい教えてもらいたい。そう思って、名残惜しく本に視線を落とした。


(…でも、午後も掃除とかやることあるしな…。みんなに迷惑かけちゃうのは嫌だよ〜!本だけ借りて、フィル以外の誰かに空いてる時間見つけて教えてもらうしかないか…)


しょうがないとため息をついた。本を閉じてよいしょっと立ち上がった瞬間、目の前がぐにゃりと歪んで平衡感覚を失った。

なんだこれと思っているうちに世界が回って、いつのまにかフィルに抱きとめられていた。


彼がびっくりした顔をしている。ほっそりした見た目のフィルだが、よろめくことなく支えてくれていた。


そんなことを認識したところで、シーナは意識を手放した。

ちょっと短いけれど、今日はここまでです。

シーナに何があったのでしょうか?

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