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自己紹介再び

今回はシーナ視点です

金髪イケメンと和解?できた日の夜、明日はエーシャと同じ時間に起きるぞ!と気合を入れ直して寝たものの、目覚まし時計はないし、今までのサイクルと違う起床時間に体がついていかなかった。

やっぱり起きたら、朝ご飯部隊はもう台所にいた。


(うぅ、起こしてくれていいのに…。まだ寝てる5、6歳くらいまでの子どもと同じ扱いですか?)


明日こそは!と思いながらできる作業を探す。どうやら今日の朝ご飯も麦がゆだ。


(うげ!これ昨日も出たけど、まずいんだよね〜)


甘くもなくしょっぱくもない不思議な味わいが苦手だ。できればもう少し味付けをしてほしい。


(でも見たところ、砂糖とかないしな〜。フルーツと一緒に食べてみようかな?)


今日のフルーツも昨日と同じ、りんごのような味だけど見た目はみかんな代物だ。この果物が旬なのか、台所の奥の貯蔵庫のような一画には同じものが山と積まれている。指差して問えば「ポポ」と言われた。かわいい名前ですぐ覚えた。


支度が整い、席につくとお祈りをする。手を組み合わせ、目を閉じて祈る様は日本でも見たことのあるスタイルだ。

シーナも見よう見まねで同じポーズをとる。

シーナは無宗教というか、神頼みしたい時は神社に寺、キリストやメッカにだって祈ることも厭わない節操なしだ。ここのみんなが何を信仰しているかなんて気にもしていない。


お祈りが終わったらやっとご飯が食べれる。 早速、みかんもどきの皮をむいて、中の実を一つ粥へ入れて潰してみた。となりの5歳くらいの女の子が不思議そうに見ている。


視線を無視して食べてみた。

(ビミョ〜!水っぽいし、より麦のくせが強くなった気もする〜)

がっくりしたら、隣の子に笑われた。確かリリーという名前だ。昨日の自己紹介で一番大きな声で挨拶してくれたから覚えている。あれはもはや怒鳴っているようだった。


(リリーちゃんはやっぱりそのままで食べてるのか…みんなにとってはこの味は普通なのかな〜)


これが異文化!と嘆きつつ、残りを水で飲み下した。



ご飯が終わったら、今日は外に連れ出された。

昨日は気づかなかったが、建物の脇には畑があった。家庭菜園というには広めの敷地だ。エーシャにエプロンを渡されたので、彼女に習って身につけるとくわで土起こしの作業を手伝った。

本格的な農作業は人生初だ。


(畑に来たのっていつ以来だっけ?小学校かな?)


言われた通り耕して、畝を作った。だいぶ日が高くなるまで作業していたら体中がだるい。いつのまにかそばに来ていたリリーが横から水を差し入れてくれた。気づけばのどがカラッカラで、一気に飲み干した。


(明日は筋肉痛だな…。部活引退してから全然身体動かしてなかったからな〜)


ぐったりと畑の脇に座り込む。エーシャが労うように肩を叩いてきた。一緒に土起こしをしていた数人も手を叩いて褒めてくれているようだ。


(初心者にしては頑張った感じなのかな?よかった〜!私、役立ってる気がする!)


よし!と勢いよく立ち上がったら、急に前が暗くなってふらついた。エーシャに思わず掴まると、心配そうに覗き込まれる。

すぐに視界は戻ったから、ただの立ちくらみだと言いたい。けれど、伝え方が分からずとりあえずにこっ!としたら、なんだか無理してると思われたようだ。


結局、後の作業は他の子どもたちに任せて、シーナは庭側の日当たりのいい場所に座らされた。


(心配しすぎだよ〜。あ〜あ、暇になっちゃった)


一つ息を吐いて辺りを見回す。とってもいい天気で、日差しが暖かい。

庭では今日も6歳くらいまでの子どもたちが遊んでいる。子守役だろうか。2人、年上の体の大きな子も混じっている。そのうちの1人が何かに気づいたように門を見た。


つられてシーナも視線を向けると、程なくして馬の嘶きと蹄の音がして、見知った姿が現れた。


(あれ?また来たの?あのイケメンくん)


今日もさらさら金髪を煌めかせながら馬から降りたった。さすがに昨日の今日でシーナに何かということはないだろうから、のんびり眺める。


(3日連続でここに来るってことは、ここの施設の関係者なのかな?でも高そうな服着てるし、えらそうな感じするからここの雰囲気と全然合ってないんだけど)


まぁいっかと油断していたら、彼と目が合ってしまった。じっと見ていたことがばれた気がして、とりあえずまたにこっ!と笑ってごまかした。

けれど、馬を預けた彼は一直線に近づいてくる。


(え?どうしよ、こっち来る!)


わたわたしているうちに、目の前まで来ていた。今日は1人のようで、騒がしいおじさんはいない。

恐る恐る彼の顔を見ると、昨日よりまだマシだが不機嫌な様子だ。眉間のシワがくっきり浮かんでいる。


(イケメンの冷たい視線って迫力あるよ〜!)


心の中で悲鳴をあげながら、とりあえず小声で挨拶した。今朝マスターした「オハヨウ」である。もしかしたら「こんにちは」の時間帯かもしれないが知らないから全部「オハヨウ」だ。


上目遣いに様子を伺っていると、彼が急に深〜いため息をついた。


「シーナ@&%?オハヨウ#☆$×。%&/○」


(あ、オハヨウは通じたんだね。ついでに私の名前も覚えてくれたんだ!)


ちょっと歩み寄った気がして笑顔になる。それを見た彼はまたため息をついて、断りもなくシーナの隣に腰を下ろした。


(え?なに?まだ何か用??)


そわそわしたが…待ってみても何を言われるわけでもない。彼はシーナとは反対方向で遊んでいる子どもたちを見ている。

私に用があるわけではないのかなとか、何か話題はないかなとか考えていたら、そもそも彼の名前も知らないことに気がついた。


実は昨日お茶の席で紹介してもらっていたのだが、シーナにはそれが名前だと認識できていなかった。

とにかく、自分の名前は覚えてもらえたんだから彼の名前も聞いておかなきゃなと彼の肩を遠慮がちに叩く。


びくっとして、彼がこちらを向いた。

シーナはちょっとくじけそうになる気持ちを奮い立たせて、マリアとしたように名前を聞いた。


ちょっと驚いていた彼の顔に毒気を抜かれたような表情が浮かんで、一瞬年相応の少年に見えた。

しかし、すぐに元に戻って深〜い深〜いため息をつかれてしまった。


(眉間にシワがない方が近づきやすい雰囲気でいいのに勿体無いな〜。それとため息つき過ぎ)


なによ〜!と抗議の視線を向ければ、彼が居住まいを正して話し始めた。なんだなんだと向き直る。


「???」

「&/%→€☆○*…」

「???」

「フィ&*%……」

「ふぃ?」

「フィリ*%……」

「ふぃり??」


「フィル!」

「フィル!」


何度も聞き返したら最終的にすごく短くなったのだけどいいのだろうか。なんだか彼も満足そうだからよいことにしよう。


「フィル」


確かめるようにもう一度呼んでみた。彼は少し恥ずかしそうにこちらを見て頷いてくれた。

最悪の出会いだったが、ほんの少し関係が改善した気がして、シーナは笑顔で頷き返したのだった。

ちなみに、フィルのフルネームはフィリバルト・シュトラウス・シュルツ。お父さんの名前がミドルネームで、シュルツ伯爵子息です。長くてシーナには聞き取れなかったようですね。

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