表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

一つ一つ

前回

ご飯にありついた!

あっという間に食事を平らげて、子どもたちの見よう見まねで食器を片付けた。


(とりあえずご飯を食べれたってことは、ここにいていいんだよね?いいことにしよう!)


まず一つクリア!と思うと、どんどん前向きになってくる。まぁ、次が目下最大の難問なんだけど。


(次は言葉を覚えて帰り方を聞く!だけど、日本語対応の辞書とか通訳は期待しちゃいけないよね…。とにかく聞いて書いてを繰り返すしかないかなぁ)


聞いた言葉はメモしていきたいなと考えたが、この食卓の感じからして簡単なお願いではない気がする。子どもがこれだけいるのだ。生きていくために必要なもの以外にお金はかけられていなさそうだ。


(そもそもこの子達、託児所にしては親が迎えにくる気配はないし、もしかしてここで生活してるの?)


子どもたちは別に兄弟姉妹というわけではなさそうだ。目や髪の色も顔の作りも違う。とすると、大人がマリアしかいないことにいささか疑問は残るが、


(孤児院とか児童養護施設、みたいな?)


日本での生活では関わることのなかった場所だから、つらい経験をした子どもが保護されているというぼんやりとしたイメージしかない。

でも、子どもたちを見渡しても悲壮感とかそういった暗い雰囲気は全く感じず、みんなせっせと動いて家事をし、幼い子は年長の子に甘えて明るい笑顔を見せている。


(なんにせよ、私は完全に居候なんだから、できることは積極的にやらないとだめね!)


細かいことは気にしない!と決意したところで、マリアが私を呼んだ。



マリアについて別の部屋までいくと、私より少し背が高い女の子も水の入った桶と手ぬぐいのような布を持って入ってきた。


なんだろう?と見ていると、マリアが衝立の向こうから手招きするので、警戒心もなくそばまで寄ればあっという間に服を剥ぎ取られてしまった!


「ぎゃー!やめて!急にどうしたの?!服返してー!」


優しい人だと思ってたのに!と悲鳴をあげながらしゃがみこんで体を隠そうとしたら、女の子が布で背中をごしごしと擦ってきた。


「わかった!体を拭えってことね!わかったから自分でさせてー!背中が擦りむける!」


痛い痛いと文句を言うと、マリアも女の子も苦笑して衝立から出て行ってくれた。

慌てて受け取った布を絞って手早く拭う。


(子どもじゃないんだから!言ってくれれば自分でやるのに!!)


恥ずかしいし惨めだし、とにかく私が花も恥じらう17歳ってことをわかってない!と憤慨した。…ここまでの自分の行いが全く年相応ではないような気もするがそんなことは関係ない!


(うぅ、水冷たいよ〜。これってお風呂はないってことなのかな?耐えられるかな、私…)


とりあえず拭けるところは拭いたしもういいよね!と服に手を伸ばしたが、いつのまにか私の服が別のものに入れ替わっていた。


(これ、着ればいいのかな?)


それはくすんだ色のシンプルなワンピースだった。さっきの女の子が着ているものによく似ている。着てみると、少しサイズが大きくて襟ぐりや袖口がスースーする。


(だぼだぼってほどではないけど、絶対合ってないよね、これ)


不満だが、あまり贅沢は言えないと考え直して衝立を出た。マリアを見ると、よろしい!とばかりに頷かれた。どこがよろしいのか。



気がつけばもう今にも日が沈んで真っ暗になりそうだ。女の子が持ってきたろうそくの明かりを頼りにベットの部屋まで行くと、みんな寝る準備万端だった。私も促されるままにさっきまでいたベットに潜り込む。


マリアがみんなのベットを回りながら、声をかけて布団をかけ直してあげていた。


(きっと「おやすみ」って言ってるんだよね?)


みんなで同じ言葉を言い合っている。細かいことはわからないが、寝る前に言い合うことなんて万国共通だろう。

私は思い切って、そばに立ったマリアにみんなと同じ言葉を言ってみた。


まん丸に目を見開いたマリアは、にっこりして同じ言葉を繰り返した。部屋まで案内してくれた女の子も、いつのまにか隣のベットに入って同じ言葉を言ってくる。どうやら合っていたらしい。


(伝わった!こんな感じでなんとかいけるんじゃない?)


嬉しさがこみ上げてきて、さっきまでのモヤモヤが少しだけ晴れた。まだ全部じゃないけど。



マリアが部屋のろうそくを吹き消して出て行くと、みんな寝る体制に入ったのだろう。とても静かだ。


(こんなに静かなの、変な感じ。日本にいると夜でも車の音とかするからなぁ。ろうそく使ってるくらいだから、暗くなっても起きてる人なんて少なそう)


この静けさは嫌じゃなかった。落ち着いて考え事をするにはもってこいだ。


(本当に、どうして裕福な家に拾われるとかいう異世界物語特有のご都合主義な展開にならないんだろう。まぁ、拾ってもらえただけマシか…)


早速誰かの寝息が聞こえ始めた。平和だ。屋外とか、危険と隣り合わせみたいな状況とかの中で眠ることにならなくて本当によかったと思う。


(言葉を喋れるまではきっと時間がかかるよね。とにかくみんなの信頼を勝ち取って長く置いてもらえるようにしないと!明日からたくさん働こう!)


元からくよくよしないタイプだから、目先の具体的な目標があれば頑張れる。よし!と拳を握って、とにかく朝は早く起きようと誓った。


…まさかみんなの起床時間が日の出と一緒だとはまだ知らない。

のろのろペースですが、こんな感じでまったり物語が続いていく予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ