お腹空いた
前回
やっと異世界だと自覚しました。
久しぶりに声を上げて泣いた。
鼻水も出てきてズビズビすすり上げながら、メイクが崩れるのも無視して泣いた。まあ、もともと薄化粧でメイクが落ちても大して支障はなかったけれど。
途中、部屋の入り口に人が来たのはわかったけれど、背を向けていたし、話しかけるなオーラを出しまくっていたのでそのままにされた。それでなくても、こんな涙と鼻水でぐちゃぐちゃな女に近寄りたい人はいないだろう。そう思ってまた泣いて、 ベットの上に突っ伏した。
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どれくらい経ったのか。いつのまにか夕日が差し込んで、部屋を赤く染めていた。
ひとしきり泣いたら、ずいぶんとすっきりした気がする。
さっきまでひとりぼっちになってしまったとか帰れないかもとか悲観的になってたけれど、よくよく考えたらそんな根拠どこにもない。言葉が通じないのは辛いけれど、意思疎通が図れれば解決策がわかるかもしれない。
(ていうか、そもそもこういう異世界行っちゃう系?の主人公は言葉通じるのが当たり前じゃないの?!)
急に腹が立ってきて拳を握りしめた途端、ぐぅ〜!と盛大にお腹がなって力が抜けてしまった。
(はぁ…そうだよね。私はごく普通の一般市民で、特殊技能があるとか博識とかでもないもの。全然知らない世界の言葉を瞬時に理解できるようなチートなステータス持ってるなんてうまい話、あるわけないよ)
深いため息をついたら、またネガティブな考えがよぎって急いで頭を振った。
「あぁ!もう!まずは腹ごしらえだ!」
(ご飯、食べさせてもらえるかな?きっとみんな、私のことやばいやつって思ってるだろうし…そういや、さっき投げ飛ばしちゃった人、大丈夫だったかな?)
今更そんな心配をしつつ、もしかしてここから追い出されるんじゃ…という不安を振り払って立ち上がった。目元は完全に腫れてるし、見れた状態じゃないだろうけど気にしない。とにかく拠点確保のために、ここに置いてもらえるようお願いしなければならない。
「よし!まずは驚かせたことをみんなに謝る!あのイケメンくんのことも確認する!それから…靴のお礼も言わなきゃだった。とにかく日本語でも雰囲気は伝わるはずだから、当たって砕けろだ!」
(いや、砕けたくはないけど!)
手を一つ叩いて気合を入れた。
とりあえずの目標がはっきりして心が軽くなった。
あとは行動あるのみ!
すっくと立ち上がって部屋を出た。
昼間に案内してもらった一階に降りて行くと、台所からいい匂いと人の声がしている。何人かで夕食の準備をしているのだろう。
軽くノックをして顔を覗かせる。すると、すぐそばに小さな女の子がいた。キョトンとした目が合う。さっき庭にいた子どもの中の1人だろうか。
「えっと…マリアさんはいる?」
「…!」
目を見開いたと思ったらさっと台所の奥に走っていった。つられて私も台所に入ると、一番奥で大鍋をかき回しているマリアの後ろ姿があった。女の子がマリアの服を引っ張りながら何か言うと、突然みんなの目がこちらに向いた。急に静かになった台所で驚いている目や困惑している目に晒されるのは勘弁してほしい。逃げ出したい気持ちになる。
必死に耐えてマリアを見つめると、持っていたおたまを女の子に預けてこちらにやってきた。
目の前まで来るか来ないかのところで、私は耐えきれずに勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!初対面の人に柔道の技をかけて気絶させるなんて失礼どころか傷害罪って言われてもおかしくないけど、誰彼構わず投げ飛ばすような人間ではなくて、私もすごく混乱してたから反射であんなことになってしまったんです!あのイケメンさんにも謝ってちゃんと償いますからどうかここに置いてくだ 「ぐぐぐぐぐぅ〜」
無視できないくらい、思いっきりお腹がなった。
さっと自分のお腹を抑えたけど、きっちり最後の余韻までみんなに聞こえたと思う。
固まったまま10秒。
誰も反応せず、ただ鍋で何かが煮える音だけ聞こえる。
(うぅ、だれか助けて!)
恥ずかしさと情けなさで涙がこぼれそうだけど、助けは来なさそうだ。
おそるおそる顔を上げて、マリアを仰ぎ見た。
「ぷっ!」
マリアがたまらず吹き出した。途端に先ほどまでの張り詰めていた空気が弾けて、みんな大笑いしだした。
(怖がられるよりいいけど、いたたまれないよ…
マリアさん!笑ってないでなんとかしてください!)
惨めな気持ちになりながら目で訴えていると、マリアがはたと気づいて向き直った。
と思ったら、マリアの両腕が優しく伸びてきて、私をふんわり抱きしめた。
突然のことに固まる私の背を優しくさすってくれた。何か言われたが、都合よく解釈していいだろうか。きっと「大丈夫、心配いらないよ」って言ったんだと思う。もしかしたら「ご飯にしよう」だったかも。
ホッとして、鼻の奥がツンとした。
私もマリアの背に軽く触れながら、感謝の気持ちを伝える。
すぐに子どもたちも寄ってきて背をさすったり、手を握り合ったりした後、食卓へ招かれて念願の食事にありついた。
日本のご飯より味気がない質素な料理だったけど、あったかくて空きっ腹に染みるようで、結局堪えていた涙がまたぽろりとこぼれてしまった。
タイトル回収?




