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暗闇の中で

連続投稿3話目

フィリバルトは、ふと意識を取り戻した。

「うっ…ここは……?」

気分が悪い。

ふらつく頭を支えながら、なんとか立ち上がった。


(確か…貧民街にいて……教会を探していたら…)

ぼんやりした記憶を探りながら、なんとはなく目を向けた先に…黒い、塊があった。


頭がズキリと痛んで、少年が影となって襲ってきた瞬間が鮮明に蘇る。じとりした汗がこめかみを伝った。

(あれは…いったいどうなってる?まさか、あの子どもなのか?)


黒い塊がフラフラと地を這って、その先にある何者かの影に向かって行った。

影をたどって視線を上げると、それは…初めて見るほど巨大な、オレンジの化け物だった。


訳がわからず視線を下ろすと、影が波打つように蠢いている。よく見ればそれは無数の()で、黒い塊を呼ぶように揺らめき、そして…捕らえた。


「お、おい…!」

何をしたかったのかはわからない。けれど、気づけば片手を伸ばして、黒い塊を呼び止めていた。


黒い塊は無数の手に引っ張られるようにして影の中に導かれていく。

こちらを振り向きもしない黒い塊は、影に溶けるようにどんどん沈んでいって、あっという間に姿が見えなくなった。

無数の手も、消えていた。



ドドンッ!

『グゥゥ!』


突然、すぐ側で重い衝撃音がして化け物が低く鳴いた。

ぼんやりと影を見つめ続けていたフィリバルトははっとして辺りを見回した。


ポポの木だろうか。周囲には折れたり倒れたりした木々が散乱している。

それらの中で、オレンジの巨大な化け物はこちらに背を向けてたたずんでいる。


(こんな巨大な生き物は聞いたことがない。でも、色合いはポポッシュに似ているような…?まさか、叔父上が討伐に向かった相手がこいつなのか?)


ゴオオオオ!

急に激しい風が吹き荒れた。

咄嗟に身を低くして飛ばされないように草木を掴む。

薄く目を開ければ、オレンジと相対する鈍色の竜が空を舞っていた。


(あれは…確か、血の契約を結んでいる竜族の…ベオウルフ 様?!)

だんだん頭がはっきりしてきた。

どうやらここは広大なポポ畑の中のようだ。リュークスで広いポポ畑がある場所といったら、南の防壁外だろう。そこで、見たこともないほど巨大な魔物とベオウルフ が戦っているのだ。


(ここにいるのは危険なんじゃないか?!もっと離れないと…)


またベオウルフ の羽ばたきで激しく風が吹きすさんだ。このままではフィリバルトも巻き込まれかねない。

まだ辛うじて立っている木に掴まりながら立ち上がると、風が止むのを待って魔物たちとは反対方向に駆け出した。


(しばらく走ったら、北に向かってみよう。ここがリュークス南部なら、街に戻れるはず)

太陽が真上からやや傾いた位置にあるのを見上げたフィリバルトの頭上から、先ほどより小さなオレンジが飛びかかってきた。


「おわっ!くっ!」

咄嗟に横に飛んで交わした。勢いそのままにさっと転がって一回転し、向き直る。

それはルーベンスと散々稽古して打ちのめされる中で身につけた受け身だった。

本人は気づいていなかったが、フィリバルトにとって、これは初めての実践だった。


目の前のオレンジは間違いなくポポッシュだろう。初めて本物を見たが、聞いていた大きさよりやや大きい気がする。


フィリバルトは全く意識せずに辺りの気配を伺った。

(もしかして…囲まれたか?!)


まだ先ほどの場所からそう離れていない。

こんなところで、丸腰状態で、ポポッシュと戦えというのか。

(シーナを探しに行きたいのに!なんでこんなことになるんだ!)


フィリバルトをぐるっと囲むように何匹ものポポッシュが姿を現した。

(どうする?どうすればいいんだ?!)

ぐっと拳を握りこむ。その拳が震えていた。


(くそっ!シーナ!…)


ーーーーーーーーーーーーーーーー


シーナは、誰かに呼ばれた気がして目を開けた。

周りは真っ暗で何も見えない。

いや、見下ろすと自分の手や足が見える。

でも自分以外のものは、ただただ()()()だった。


シーナは手を握ったり閉じたりして、体の自由を確認した。頭もはっきりしている。

体に異常がないことを確認して安心したが、このわけがわからない状況に盛大なため息をついた。

(今度はどこなのよ…?ほんと!こんなことばっかり!)


異世界に飛ばされて、具合悪くなって倒れたり、人さらいにあったり、わけわかんないところに置き去りにされたり…


(いつもの黒い靄っていうか、あのドロドロに飲み込まれたんだよね。ここはあの中?)

足裏には床のように硬い感触がある。

腕を伸ばしても壁には当たらない。広い空間のようだ。


(さて!どうやって脱出しますかね?)

シーナは耐性が出来過ぎて、さっさと開き直った。


『シーナ』


ふと呼ばれた気がして振り返っても何もない。

気にせず、腕を組んで脱出方法を考え始めた。


『シーナ?』


もしかして床の素材がもろければ、叩いたり跳ねたりすれば壊れて外に出られるかしらと試してみる。


『ね、ねぇ!シーナ!無視しないで…』


バンバンと床を叩いたが何も反応がないので諦めた。

代わりに、幻聴じゃない様子の声の主をもう一度探した。


『ごめんね。姿は見せられないんだ』


反応が返ってきた。

床を探るより、声と会話する方が建設的な気がするのでシーナは声を張り上げた。

「あのー!どちら様ですか?!」

『…大きな声を出さなくても聞こえてるよ』

「あ、そうですか。それで?あなたは誰?ここはどこ?どうすれば出れるの?」

『なんでそんなに落ち着いているの?一つずつ答えるから、ちょっと待って!』


声の主の方が焦っている。

シーナは確かに落ち着いていた。でも、本当は言葉がわかる相手二人目に出会えて、嬉しくてたまらなくてにやけていることに気がついた。

自分気持ち悪いなと、両頬をぐにぐにと擦って誤魔化した。


声の主がどちらにいるのかわからず、とりあえず天井を見上げてシーナは話し始めた。

「ごめんなさい。なんだかあなたと初めて話した感じがしなくて、つい…」

そうなのだ。聞いたことがある声なのか、知り合いと相対したような気分になっていた。

『…そっか。確かに、知り合いと言えなくもないしね』

「え?それってどういう意味?」


『ごめん。実はあまり時間がないんだ。とにかくシーナに伝えないといけないことを話してもいい?』

シーナは渋々といった様子で頷いた。

「私はここから出て、マリアさんのところに帰れれば問題ないよ。それで?話って?」


声の主が、なんだかため息をついた気がする。

あ、また気安い感じの言葉使いになっちゃったと思ったが、もうなんだっていいやと諦めた。


『シーナ。いや、里田椎菜。君をこの世界に呼んだのは僕だ』


は?と間抜けな顔をしてしまった。

予想の斜め上な回答に、思考能力が完全に停止した。


『いや、正確には君に宿る存在を呼び寄せたつもりだった、というべきかな』

「私に…宿る…?」

『そう。君も感じてるだろう?炎と黒い穢れの存在が、自分の中にあることを』


シーナは口をパクパクさせた。

言葉が出なかった。この人は、この黒い空間からの脱出方法とかそんな目の前のことじゃなく、そもそもの異世界転移について説明してくれるつもりらしい。

それなら、自分は何を知りたかったのか。マリアのところへの戻り方か?言葉が話せるようになる方法か?


「…私がこの世界に連れてこられたのって、ついでだったの?」

『まぁ…致し方なく…』


シーナはがっくりと膝をついた。

なぜ異世界に来たのか、意味がわからない日々だった。それでも、とにかく生きていれば帰れるかもしれないと頑張った。誰もが使えるわけではない魔法の力を使えた時は、一瞬特別な存在になった気がした。


(結局は仕方なくの結果。魔法の力は私の力じゃなくて、私に宿る誰かの力で私は特別なんかじゃない)

心の片隅にいた漫画の主人公のような自分がガラガラと崩れた。やっぱり、世の中うまい話なんてそうそうありえないのだ。


『がっかりさせちゃったね。でも、とにかく最後まで聞いてほしい』

シーナはどっと疲れた気持ちを抑えてふぅと息をつくと、また天井を見上げた。


『僕には…この世界には、君に宿る浄化の炎が必要なんだ。でも、僕はここから動けない。だから君に来てほしい』

「…どこに?どうやって?」

『王都バルトロメウス。王城の地下に僕はいる。君は血の契約者だと思われてるから、すぐ来れるはずだ』

「血の契約…それ、クシェルも言ってた。でも、()()()()()って?」

『君は契約者じゃない。違う世界の秩序の中の人だから、この世界の存在と契約できないんだ』


意味がわからないことばかりだが、とりあえずスルーすることにした。でないと、またキャパオーバーになりそうだ。


「…私に宿ってるその"浄化の炎"?は契約とは違うの?自分が思った時にも炎出せたよ?」

『それは彼女の意識が君と同化しつつあるからであって、契約者のように力を与えられてるわけじゃない。とにかく王城まで来て。そうすれば帰り方も教えてあげられるかも』

シーナは目を見開いた。

「帰り方って…どこに?日本に?私の世界に?!」

『そう。でも今は…もうだめそうだ……』

突然、声が遠のき始めた。シーナは慌てた。

「ちょっと待って!ここから脱出するにはまずどうしたらいいの?ここを出なきゃ王城なんて行けないよ!」


辛そうに息をする気配がして、声が途切れ途切れになった。

『ここは……君の中の穢れ…から…力を得ている。炎で…浄化すれば……』

「わかった。炎でなんとかなるのね!」

シーナは声の主を繋ぎとめようと大きな声で呼びかけた。


「ねぇ!あなたの名前は?!」


気配が急速に薄れていって行ってしまうその瞬間、微かなつぶやきぐらいの声がした。

『ルティーヤ』


「ルティーヤ。ルティーヤね!必ず行くから!」

シーナは叫んだ。

もう気配は消えていて、彼に聞こえたかわからない。


でも、シーナは立ち上がった。

はっきりとした希望の光が、目の前を照らしてくれていた。

やっとシーナ出せました!

長かった…


そして、予告した怪獣対決は次回までやっぱりかかっちゃいました。

ではまた!

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