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舞台裏で

次回予告で言ったところまでいかなくて、とりあえず3話連続投稿します。

ーーー ルーベンスが危機を脱する、少し前…


「まさか司教様がこのような危険な場所に御出でになるとは…」

金鷲騎士団参謀クルトは、天幕に入ってきた珍客に席を勧めた。


頭からすっぽりとフードを被った司教は勧めを断るように片手を振った。

司教といえば教区の長で、通常ならば素顔の見えるゆったりとした法衣に、肩から下げる幅広の帯が特徴のはずだ。

顔を見せない服装は、その中でも特別な立場であることを表していた。


「心配には及びませんよ、騎士クルト。私には血の契約により、神々の代行者としての使命があります。今、苦境に立つこのリュークスの民に恩寵を与え、害なすものを遠ざけなければなりません」


クルトの眉がわずかに上がる。血の契約者で聖職についている人物は今のところ1人しかいない。


「お言葉ですが、我々騎士団が討伐にあたっております。今、団長が直々にー」

「昨夜、結界の揺らぎを感じました。あの魔物が結界を揺るがすほどの力を持っているとすれば、あなた方だけでは危険です」


クルトが口を開こうとしたその時、外が騒がしくなった。

何事かと入り口に目を向けると、団員が慌ただしく駆け込んできた。


「報告!市街地にポポッシュが侵入!我が隊は商業区画にて交戦中!」

「な?!南側は完全に封鎖できているはずです!まさか迂回して…?」

「はい!東側から侵入したと思われます!」


クルトは拳を握りしめた。

まさか猿どもにそんな知恵があるとは考えてもいなかったのだ。

(確かに貧民街の防壁は所々崩れているし、見張りもいない。我々が大猿に気を取られてるうちに別動隊を向かわせるとはやるじゃないですか!)


「避難はどこまで進んでいますか?」

「あ、いえ、それが…商業区画は全く進んでおらず…」


クルトは苛立ちを隠せなかった。

「避難が進んでいないとはどういうことですか?!」


彼は避難誘導を任された隊の1人だった。叱責されて萎縮しているのを悟られまいと、できるだけ背筋を伸ばす。

「い、今まで魔物討伐で街まで被害が出たことがないので、避難の必要性を感じていないようで…それに加え、今日の食い扶持が減ることに抵抗があるためだと、思われるの、ですが…」

クルトの冷たい眼差しにたじろいで、結局尻すぼみになってしまった。


「…もう避難の必要性は十分感じているでしょう。あなたの部隊は侵入した敵の排除を第一に。避難誘導は自警団に任せましょう」

「はっ!」


クルトは天幕から駆け出していく後ろ姿に向かって大きなため息をついた。

彼の部隊は事務方を担当する内勤組で、剣には秀でていないが金勘定には才能を発揮するタイプばかりだった。とはいえ、避難誘導くらいできると踏んだ自分が甘かったと拳を握りしめた。


「…どうやら、こうしている場合ではない様子」

すっと司教が身を翻した。

彼の存在を忘れかけていたクルトは慌てた。

「お待ちください!これから我が隊による攻撃が予定されています。今行かれては巻き込まれてー


クルトが言い終わる前に、司教はさっさと外に出て行ってしまう。クルトも後を追って天幕を出てみれば、皆が一様に北西の空を見上げていた。


クルトも空に目を凝らす。

そこに、鈍色の輝きが見えた。


「………早かったな」

苛立ちのままにボソッと司教がこぼした言葉は、誰にも聞こえず霧散した。


あっという間に鈍色は近づいてくる。それは鳥よりも大きく、早かった。

「あれは!輝石伯ベオウルフ 様だ!」

誰かが叫んだが、もう皆わかっていた。

それくらい、彼らはこの国で有名だった。


木々の先をかすめるほどに低空を猛スピードで通過する瞬間、挨拶のつもりか、クルトは騎乗の人物がこちらに手を挙げるのを見た。身につけた宝飾品が日をは跳ね返してチカリと輝いた。


激しい風が収まる頃にはすっかり通り過ぎて行ってしまっていた。


「テオドーア様も乗っておられましたね。大猿に向かって行ったようですし、あちらは我らと輝石伯にお任せください」

クルトが司教に一礼した。


司教は一時考えるように立ち尽くしていたが、フッと笑いともつかない息を吐いて向き直った。

「そのようですね。では、私は街に侵入したという魔物から皆を守ることに注力しましょう。こちらは任せましたよ」

さっさと馬車に乗り込み、去って行った。


クルトとしては司教の行動が意味不明だったが、竜族と共にない契約者に怪我でもされたらたまったものではなかったのでほっと息をついた。

残る心配事は…


「報告!魔法の大矢が到着しました!」

「よろしい、そのまま団長の元へ!大猿の近くにいるはずです」

「はっ!」


これで後は大猿を討って、ポポッシュたちが逃げ出せばよし。全滅させられれば万々歳だ。

クルトは大猿とベオウルフ が相対しているのを、丘の上から熱のこもった目で見つめたのだった。

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