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ルーベンスの戦い

今回はルーベンス編です。

どうぞ!

…ズズン!

……ズズゥン!


「な、なんだ?」


前線の団員がふと顔を上げた。

ひっきりなしの戦闘に疲れ切った表情で音のする方を見る。


…ズズゥゥン!


さらに近づいた音とともに、ギャアギャアと鳥たちが一斉に飛び立った。


ポポの木の向こうに土煙と大猿が姿を現した。


「おい!まずいぞ、親玉だ!」

ズズゥゥゥン!


大猿がまたポポの木を踏み倒した。二足歩行で愚鈍な動きだが、怒っているのか目が血走っていて今にも踏みつけられそうだ。まだ逃げられる距離だが、その巨大さ故か、とても近くに感じた。


「「「キー!キー!」」」

「おい!一旦引くぞ!」


同じ隊のみんなに指示を飛ばす。

しかし、大猿の登場に沸き立つポポッシュたちが四方八方から団員めがけて飛びかかってきた!

(くそ!逃げられない!)

団員たちは咄嗟に体を屈めて、盾の後ろに隠れた。

その時、

「頭下げろぉ!」


ドドドッ!ドカラッ!

背後からきた複数の馬が、団員たちを飛び越えながらポポッシュたちに突っ込んだ。

勢いそのままに、馬上の見慣れた男たちが剣を振ってあっという間に敵を蹴散らしていく。

「だ、団長ー!」


先頭の金髪は間違いなく、団長ルーベンスだった。

ほかの団員も気がついて、傷ついた仲間と肩を支え合いながら歓喜の声をあげた。


「おまえら!よく持ちこたえてくれた!」

ルーベンスは目につく敵を一掃すると、疲弊した団員たちに大声で呼びかけた。


「あのデカブツは俺がやる!あいつのせいで朝飯食いっぱぐれてるんだ!終わったら美味い飯を食いに行くぞー!」

ルーベンスの振り上げた剣が光を受けて輝いた。

その姿は、まるで勝利が約束されているかのように自信に満ちていた。

そこには不思議なカリスマがあった。


「そこは酒だろぉ!」とツッコミが入って笑い声が起こった。気づくと、疲れ切っていた皆の目に力が戻っている。

ルーベンスはにやりとしてから馬を引いた。


『グオオオオオ!』


嘶きながら方向転換する馬の上で、大猿に向き直る。


もうわずかの距離まで迫っていた。


「騎馬だけ付いて来い!ほかの奴らはデカブツから距離を取りながら雑魚を切れ!」

背後で「おう!」とむさ苦しい男どもの返事を聞いた。


「行くぞ!!」


馬が嘶いて、蹄が大地を蹴った。

迫る木々をかわして、あっという間に大猿の目の前に躍り出る。

(やっぱりでかいな!それに…なんだこの禍々しい感じは?)


大きさからだけではない圧を感じる。背筋がぞわぞわと泡立った。

その時、大猿がギョロリと目だけを動かしてルーベンスを捉えた。

(くそっ!)

咄嗟に手綱を引いて駆ける馬を急転換させる。


目の前に、ゆっくりに見えるが思った以上に早く、大きく長い腕が振り下ろされた。

(間に合え!)

ドォオン!


間一髪でかわして、大猿の背後に向かって突き進んだ。だが、

「「「キー!」」」

「雑魚はひっこんでろ!」

飛びかかってくるポポッシュを斬り伏せた。

その一瞬の隙を、大猿は見逃さなかった。


ブウゥゥン!

長い尻尾を横に払って、ルーベンスたちの馬を吹っ飛ばした。


瞬時に馬上から飛んで逃げたルーベンスは、空中を舞ってから後方に降り立った。愛馬をちらりと確認する。なんとか致命傷は免れたようだが、立ち上がれないようでもがいていた。

(ごめんな。後で必ず手当てしてやるからな)


気づけば、仲間も巻き込まれて散り散りだ。

雑魚が予想以上に残っている。

素早く考えを巡らせるが、大猿の方はすぐに興味を失ってゆっくりとまた歩き出した。

(あっちは…バリスタの方向か!)


時折唸りを上げて、バリスタの矢が飛んできていた。

(あっちに気を取られている今なら、背後から近づいて奴を狙える!)

「雑魚は任せた!」

聞こえているかわからないが、離れた仲間たちに叫んだ。


大猿の一歩はゆっくりだが早い。ルーベンスは見回すと、乗り手を失ってうろうろしている馬を見つけて飛び乗った。

戸惑う馬を素早くなだめて、疾風の如く走らせ追いかける。


どんどん大猿が近づいてきた。足は体の割に短足で、がに股でのしのしと歩いている。近距離だと足をついた時の衝撃と土煙をもろに浴びて、馬がよろけそうになった。

(頑張れ!もうちょっとだ!)

馬の首に触れて念じる。馬は賢い。気持ちが伝わったみたいに、駆ける脚に力が満ちて速度が上がった。


ルーベンスは両手で剣を握り直す。

臆病になる自分を押しやって、初めての大物の敵に高揚している。いつのまにか顔がにやけていた。

団服の下で汗が伝る。大猿まであと少し。あと…

「左足いただきぃ!」

剣を野球のバットのように振り抜いた。


ガキィンッ!

「ぐぅっ!」

分厚い肉を切る感触を予想していたが、まるで剣で打ち合った時のような衝撃に喘いだ。じーんと手が痺れている。

(な、なんだ?!)


その時、大猿の表面で黒い何かが蠢くのを見た。

それは()のようだが、明らかに自ら動いている。

しかも、斬りつけた足から………信じがたい話だが、()()()()()()()覗いていた。


呆然としているのをよそに、手は剣ごと音もなく影に吸い込まれて姿を消した。影はルーベンスが攻撃した左足からするすると移動して、大猿の足元に落ち着く。

「おいおいおい!なんだありゃ?!」


堪らず叫んで大猿を見上げれば、気にした様子もなく歩き続けている。

(もしかして、カタパルトの攻撃もこの影に防がれてたのか?でもバリスタの矢は当たってたはずだ!どうなってる?!)

素早く状況を確認する。原理は全くの謎だが、足元の影はおそらく、なんらかの防衛能力だろう。

魔法の類だろうが、こんな体ばかり大きいような愚鈍な魔物が意図して使っているのだろうか?


…ルーベンスは考えるのをやめた。

(足元には邪魔が入る…なら!)


すぐに頭を切り替えて、馬を走らせ大猿の真横に並ぶ。

大猿に向かって、木の枝が一際高く張り出しているところを狙って馬ごと突撃した。

「行くぞぉ!」

馬の上で立ち上がって、木にぶつかる直前に飛んだ!

さらに一番高い枝を蹴って、より高く舞い上がると大猿の首がもう…目の前だ。


ゆっくりに感じるほど研ぎ澄ました感覚の中、ルーベンスは狙い通り、大猿の死角から両手で剣を突き立てた!

ザシュッ!

『グオオ!』


今度はしっかり刺さった。影は、足元から伸び上がるまでに時間がかかるのだろう。突然の頭付近への攻撃に追いつけていない。

痛みなのか驚きなのか、大猿が呻いた。犯人を探すようにキョロキョロと首を動かす。


ルーベンスは大猿の肩にしっかりと足を着くと、躊躇なくもう一度二度と剣を突き刺した。

大猿は嫌がって両手でルーベンスを捕まえようともがく。激しい動きに翻弄されながら、なんとか近くの木に飛び移って距離を取った。


その時、首元まで這い上がりかけていた影が、大猿を離れて広がった!

まるで別の生き物のようにくねり…そして、一気にルーベンスめがけて覆いかぶさってくる。


「くそっ!」

咄嗟に木の上から飛び降りる。先ほどまでいたところに真っ黒の影が激突した。

もはや影と言うよりはスライムのように粘質で、どろどろと絡みつきながらこちらを探している。


(馬は…いないか。どうする?!)

大猿とどろどろの黒い何か。二体一になってしまった。

さすがのルーベンスも一瞬迷ったその隙に、大猿が勢いよく腕を振り下ろした。


頭上に影が落ちる。

ルーベンスは、はっとして見上げた。

(しまった!)

バァン! バンバン!ドォン!

何度も振り下ろされる腕を、大地を蹴って逃げる。

それでもその衝撃に吹き飛ばされて、木に叩きつけられた。

「くっっ!」


意識はなんとか保っているが、体全体が痺れていた。

攻撃は止んだが、視界の端で黒い影がずるずると近づいてきている。

(おい…うそだろ?バリスタは?他のみんなは追ってこないのか?魔法の大矢は?)


さっきまでの高揚感は失せ、押しのけていた恐怖が全身に広がっていく。


次男が故に領主にはなれず、剣の道へと進んで団長まで上り詰めた自分に自信があった。

団長になってからは書類仕事が主になってしまったが、騎士団が任されているリュークスの警備や要人の護衛、それに時折依頼される小さな魔物狩りも朝飯前だった。毎日欠かさず団員の同じ訓練もこなしていたし、剣の腕は相当なものだと自負していた。


(まさか魔法の大矢がくるまでの繋ぎすら務まらないなんてな…。冗談じゃない。冗談じゃないぞ!)

ルーベンスはぐっと歯を噛み締めて、大猿を見上げた。


その時、大猿の後ろに広がるよく晴れた空の向こうに、きらりと何かが光った。

(あれは…?)


空に見とれて動かないルーベンスに、大猿が勝利を確信したかのように吠えた。

そして素晴らしい脚力で高く飛び上がり…一直線にルーベンスに向かって落ちて来た!


踏み潰される未来しか見えないこの状況で、ただルーベンスは空を見ていた。

絶望の瞬間にも関わらず、彼は…笑っていた。


大猿がルーベンスの上に着地する、その直前ーーー


ゴオオオオ!

強い風が吹き付けたかと思うと、大猿が風にのって飛んだ。


いや、背後のものが首元に噛み付いてルーベンスから引き剥がしたのだ!


大猿が少し離れたところに振り落とされる。

地響きと土煙を上げて、激しく大地に体を打ち付けた。

『グッ…!』


だが、ルーベンスの視線は大猿に苦悶の呻きを上げさせたものに釘付けだった。


光沢のある鈍色の鱗、大きな琥珀のような瞳、大きな顎に鋭い鉤爪、そして広げた翼は間違いなく竜族だった。

しかも、この国の人間なら誰でも()()のことは知っている。


「おーい!大丈夫かーい?!」


竜の背に乗る人物が呼びかけてきた。

やたらと宝石をあしらった装いで派手派手しい。


ルーベンスはいつのまにかつめていた息をふぅと吐き出した。全身を支配していた恐怖は去り、いつもの彼に戻っていた。


「テオドーア様!俺は大丈夫です!とにかくそいつを頼みます!」


大声で答える。

テオドーアがうなづくと同時に、ベオウルフが翼を広げた。

『巻き込まれたくない者は下がるがいい!』

スピード感のあるシーンを描くのは難しいですね…

次回、頂上決戦!大猿vsドラゴン!

お楽しみに!

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