開戦
遅くなりました!
フィリバルトの叔父、金鷲騎士団のルーベンスを思い出してから読んで欲しいです。
リュークス南部に広がるポポ畑は広大だった。
収穫を迎える春には、見渡す限り緑とオレンジ色の海となる。
ードオオオン
ーズズンンンン…
今、畑は食い荒らされ、見るも無残な有様だった。
「「「キー!!」」」
「うおおおお!」
ザンッ!ザンッ!ドスッ!
兵士が、襲いかかるポポッシュの腹を裂き、喉を潰した。どれほどの数切ったのか。右手の剣はぬらぬらと血が滴っている。
「何体いやがるんだ?!もう剣がもたねぇぞ!」
「おい!気を抜くな!」
ザシュッ!
荒く息をついた兵士に横から飛びかかろうとした1匹が足を切られて横転した。
その隙に2人は背中合わせに構え直す。
「すまねぇ!」
「いや…だけど、こいつは異常だぜ。なんだって、ポポッシュどもが群れになってやがるんだ?それにいつもより一回りは大きいぞ」
こめかみを嫌な汗が伝って行った。
それを払うように、再度向かってきた敵にとどめを刺す。
ドオオオンッ!
先程からの地響きは、金鷲騎士団が所有するカタパルトだ。2人は前線でひたすら各個撃破が任務なので、ポポの木の向こうで時折巨石が飛んでいくのを見る程度だが、あれは城攻めをしているのではない。
それだけ大きな敵がいるのだ。
『グオオオオオ!』
重く響く雄叫びがして、2人の周りにいるポポッシュたちが一斉に呼応した。
2人は剣を握る手に力を込めた。
「チッ!クソザルどもが!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「おい!もっと石もってこい!」
「次で最後です!」
急ごしらえの参謀本部として、ポポ畑を一望できる丘の上に設置したテントでは、ルーベンスが大声で指示を飛ばしていた。
「バリスタの配備完了しました!」
「よっし!奴の頭目掛けて打ちまくれ!」
伝令役がさっと敬礼して踵を返す。
ルーベンスには珍しく、眉間にしわを寄せながら遠くに見える巨大な敵を睨みつけた。
ポポ畑の向こう側にデンッと腰を落ち着けて、仲間が集めてきたポポの実を貪っている大猿がいた。
それは、シーナを核に誕生したあの大猿だった。
ポポの実の魔力と汚れを吸った体は、昨夜よりさらに大きくなっている。
ドオオオン!
最後の石がカタパルトから発射されて大猿に当たると思われたが、まるで羽虫を払い落とすように手で払われてしまった。
これは、どう見ても…
「効いてませんね、全然」
隣に立ったのはルーベンスの右腕、クルトだ。ルーベンスの肩口までしかない身長と眼鏡が騎士団員らしくないが、程よくついた筋肉と鋭利な光を放つ目が只者ではない印象を与える。
クルトはルーベンスの手元の地図に目線を落とした。
「普通、ポポッシュは自分に必要な食料が確保できるだけの縄張りを作ります。しかし、今回は数が多い上にあのデカ物がいる。団員たちが数を減らしてくれているとはいえ、ここ一帯の実を食べきるのも時間の問題でしょう」
続いて、バリスタも左右から頭を狙って打ち込まれる。太い槍のような矢が首元に刺さった!
『グオオ!』
少し痛がった様子に手応えを感じたが…
大猿は矢を自ら引き抜き捨てると、胸を張って大きくドンドンドンッ!と叩いた。
…どうやら怒ったようだ。
「…やはり、あれを使うしかないか」
「あれって…?まさか、陛下から頂戴したとかなんとか言って団長室に飾っているあの大矢ですか?」
クルトの訝しむような視線に、ルーベンスはにやりとした。
「そうさ。昔、竜王陛下がリュークスにお見えになった時に騎士団に残してくださった、魔法が宿った大矢だ。今こそ使い時だと思わないか?」
酒に酔った時によく話すルーベンス少年の竜王陛下との思い出話を、クルトはあまり信じていなかった。クルトは若く、竜王陛下にあったことも、魔法を目にしたこともなかったのだ。
「…確かに持ち腐れては意味がないですし、使えるもの何でも使うべき時です」
控えていた伝令に、大矢を取りに行くようにすばやく指示を出した。
「しかし、奴を怒らせてしまいましたね。市民の避難を急がせましょう。避難が完了するまでに奴らが移動を始めると厄介です。足止めが必要ですね」
「それは俺に任せろ!おまえはここで指揮を取れ」
団長命令だ!と言われれば、クルトは頷くしかない。
ルーベンスがじっとしてられないことは百も承知だった。
さっとテントを出ると、ルーベンスは自分の馬にひらりと飛び乗った。
「団長。頭がいなくなったら騎士団は崩壊します。無理はしないと約束してください」
「無理はするが、必ず戻る!」
『グオオオオオ』
「うるせぇんだよ、デカ猿!俺が今から会いに行ってやるから待ってやがれ!」
行くぞ!に呼びかけると、部下を引き連れてルーベンスは丘駆け下りて行った。
来週まで日本を離れているので、またアップが遅れます。
前線に乗り込むルーベンスの運命は?シーナはどうなるのか??
次回もぜひお付き合いください!




