フィリバルトの朝 1
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フィリバルトはここ1週間ほど、剣の稽古を終えると供も連れずに孤児院へ出かけていた。
しかし、今日は稽古をつけてくれている金鷲騎士団が朝からばたついていて、剣の稽古はなしと知らせがきた。朝食の席にルーベンスが現れないくらいの忙しさらしい。珍しいことだ。
いつもより早い時間だが孤児院には何時に行こうかと考えを巡らせていると…
「あら、フィル。何か考えごと?」
アンネリーゼの涼やかな声に呼び止められた。
フィリバルトとしては全く相手にしたくないが仕方ない。無視すれば帰ってきた時に面倒なことになるので、渋々向き直った。
「姉上、ごきげんよう。今日の予定を考えていただけですのでご心配なく。では…」
「まぁ!そんなに急ぐご用事でもあるの?」
アンネリーゼの目が面白がるように輝いた。からかわれているのは明白だ。
フィリバルトはため息をついた。
「姉上もお忙しいではありませんか。私の用事など、姉上が気にかけるほどのものではありませんので…」
「ふふふ!フィルったら優しいのね。でも大丈夫よ。今日はポポッシュ討伐のこともあって外には出ないつもりだから、そんなに忙しくないの。もちろん、この中央区画まで被害が出るとは思っていないけれど」
ポポッシュとはポポの実が好物の魔物だ。
猿がポポの実を食べ過ぎると、体に実が宿す魔力を溜め込み過ぎて魔物化すると言われている。体は人よりも小さいが凶暴で、縄張り意識が強い。近くに人がいると襲われることもあった。
リュークスの南部に広がるポポ畑では度々被害が出ていた。ただ、基本的には単独行動なので自警団や農家が雇った護衛で対処できる。今回は手に負えないようで、今朝から金鷲騎士団が討伐に駆り出されていた。
何度か討伐に出たことがあるルーベンスが、以前言っていた。「騎士団にとっちゃあ害獣退治なんて慣れたもんだからな!昼前には片がつくだろうから、出かけるならその後にしとけよ!」と。きっと今回も早々に終わるだろう。
(ここまで魔物がきたことなんてないしな。姉上の相手は面倒だし…やっぱり今日は早く孤児院に行こう)
「それなら、姉上はゆっくりお休みください。私はもう出かけますので…」
「あら、そんなに孤児院の女の子に会いに行きたいのね。ますます気になるわ!いったいどんな子なの?」
言うことを最後まで聞いてくれないことには慣れているし、孤児院へ行こうとしていることにやっぱり気づいているんじゃないかという言葉は飲み込んだ。言っても仕方ない。
代わりに、シーナのことを思い浮かべる。
「どんなって…そうですね。言葉が通じなくて…」
「そうじゃなくて!どんな見た目で、どんな性格なの?」
「見た目…」
ふと、初めて出会った日に見たシーナを思い出した。
「体格は…軽くて…この前も熱を出して寝込んで、すごく…ひやひやさせるような弱いやつです。髪は…夜の闇のように真っ黒で、日の光の中ではつやつやして触り心地もサラサラで…。目も黒いけれど髪より少し茶色がかっていて…」
風変わりな服装と風にゆれる黒髪、そして真剣な眼差しは大人びて見えた。けれど、後日会った時にはみんなと同じ格好をしているし、ぱっちりした目が感情豊かで見ていて飽きない。言葉を教えるとパッと世界が明るくなるような笑顔は幼い子どもののように屈託がなかった。
「勉強熱心で、一度教えた言葉は何度も繰り返し呟いたり地面に書いたりするので、なるべく会話に教えた言葉を入れるようにしたら理解できた時に花が咲くみたいに笑顔になるんです。それで…」
「ねぇ…ねえ、フィル」
「え?なんですか?姉上」
アンネリーゼはニヤける口元を手で隠した。
「あなた、今どんな顔をしているか気づいている?」
「は?顔?」
顔がどうしたんだと、フィリバルトはペタペタ自分の顔を触って確認した。特に何も異常はないようだが、アンネリーゼはその様子に苦笑した。
「ふふ!フィルも15だものね。あの小さくて、可愛かったフィルももう大人なのね〜」
「なんですか、急に」
フィリバルトは怪訝に見返した。アンネリーゼはふぅと息をつくと、キラリと目を光らせてにじり寄ってきた。
「私、ますますその子のことが気になるわ!ここに連れていらっしゃいな!」
至近距離に詰め寄られて、フィリバルトは思わず後退った。なんなんだと思いながらも、頷かなければ逃げられそうにない雰囲気を感じて已む無く観念した。
「わ、わかりました。今度、連れてきます」
「絶対よ!」
アンネリーゼが離れた瞬間を見逃さず、フィリバルトは暇を告げた。背後に姉の視線を感じながら厩へ急ぐ。
大股で歩きながら、どうしてあんなにシーナに会わせろと念押ししてきたのか。フィリバルトにはさっぱりわからなくて首をひねった。
2に続きます。
視点があちこちいってすみません…




