【ちょうどその頃】2
アップできてませんでした!
今日気がついたのでとにかく上げます。
「お待ちください!竜王陛下!」
「突然どうされたのですか?!」
王都バルトロメウス。その小高い丘にそびえ立つ王城の回廊をひた走る巨大な影があった。ドスッ!ドスッ!と重い足音の響きに起き出した使用人たちが揃って呼び止めるも甲斐無く、返事もせずに走る。
月明かりの下に躍り出たその姿は…ガーゴイルの石像、と言うしかない。
「はーい!ストップ!そんな巨体で走り回られたら迷惑ですよ〜竜王様?」
どこからかさっと現れたのは、ごてごてと宝石で飾り立てられた細身の男だ。糸目に細面が狐のような印象だが、走る石像に動じることもなく行く手を塞いだ。
『俺は急いでいる!テオ、そこをどけ!!』
すんでのところでぶつからず立ち止まった石像から、重々しい岩と岩が響き合ったような怒鳴り声がした。
だが、怒鳴られようが男はへらへらとして動じない。
「いやだな〜、そんな怒んないでくださいよ〜。まだ日も登ってない朝早くに、このテオドーアが様子を見に来て差し上げたんだから!…急いでるのは、さっきの結界の揺らぎが原因ですか?」
『揺らぎどころじゃない!切れ目が入ったのだ!結界がなくなる感覚が!俺には!はっきりわかった!!』
「!」
噛みつかんばかりの勢いよりも、その言葉にテオドーアは糸目を可能な限り見開いた。…見た目はほんのわずかしか開いていなかったけれど。
「どこですか?!切れ目が入ったのは?」
『すでに閉じたようだが、東だ。切れ目が入った瞬間、彼女の気配もわずかに感じた。もしかしたら彼女が戻ってきたのかもしれない!今すぐ!東へ行かなければ!!』
「まさかそんな…。わかりました。東の結界といえばリュークスですね。僕もお伴しますよ」
石像が、付き合いきれないと言うように鼻を鳴らした。
『とにかく俺は行くからな!付いて来たければさっさと…』
「時に竜王様?そのお姿では鈍くて、いつリュークスに着けるかわかりませんよ?私はベオウルフの背に乗せてもらうつもりなので、明日の昼前には着きますが」
『うぐっ!…たしかに』
石像は自分の体を見下ろした。
ベオウルフとは、テオドーアが契約した竜族だ。城の中には入らない程の大きな体だが細身で、腕と羽が一体となった姿をしていて飛ぶ速度は間違いなく石像よりも速い。
「こんなこともあろうかと!僕が丹精込めて手縫いしたこの"ふわもこアレキサンドラちゃん"3号をプレゼントいたしましょう!この子の体を使えば、軽くて可愛くてベオの背にも一緒に乗れますよ」
『それ…また作ったのか』
テオドーアが取り出したのは、暖色でまとめたパッチワーク生地に所々宝石を縫い付けたドラゴンのぬいぐるみだった。ちょうど胸に抱けるくらいの大きさで、つぶらな琥珀の瞳が可愛らしい…というかちょっと怖い。
「そんなこと言って〜。1号2号も大切にしてくださってるの知ってるんですよ〜?」
『うっ!なぜそれを!』
「まぁ、それは置いといて。急ぐんでしょう?それなら早く。はい!」
差し出されたぬいぐるみをじっと見つめてから、石像はため息をついた。
『しかたない。威厳もへったくれもないが、今は我慢しよう』
というや否や、石像全体が炎に包まれた!
しかしそれは、まるで1つの生き物のように滑り出て1つにまとまりながら、流れるようにぬいぐるみに取り憑いた。
ぬいぐるみは燃えることなく、テオドーアの手を離れて宙を舞う。ぐるぐるの取り憑いた炎が、やがてぬいぐるみの中にするすると収まると、ぽとりっとぬいぐるみが床に落ちて来た。
石像もごとりっと音を立てたのを最後に動かなくなった。
…すると、
『…よっこいしょ!』
石像よりクリアで若々しい男の声がして、ぬいぐるみが立ち上がった。
見た目とのギャップの破壊力がすごい。テオドーアは思わず吹き出した。
「くっ!ははは!やっぱりお似合いですよ!その体!」
笑いが止まらず、目に涙を貯めるテオドーアにじろりと琥珀の目が向く。
『ふん!おまえの悪趣味なぬいぐるみなんて、この移動中だけだからな!戻ったらすぐに捨てるからな!』
「はいはい。そう言いつつ、大事にしてくださるってわかってますから。それじゃ、外にベオを待たせてるんで行きましょう!うくくっ!」
『笑うのやめろー!』
笑い声をあげながら、テオドーアはぬいぐるみを抱っこして、バルコニーから外へ踊り出たのだった。
次回は久しぶりにフィル編の予定です。
よければまたお付き合いください!




