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何はともあれお風呂

シーナ視点に戻ります。

ほんの少しだけ、みんなの言っていることがわかってきたシーナです。

事件のあと、畑を整えたり、早速この炎を役立てられないかと思っていつも以上にお手伝いに精を出したりしていたらマリアに止められた。

心配して休んでていいと言ってくれているようだけど、気を使われる方がムズムズする。心配いらないってアピールしたくて、言うことを聞かずにいたら諦めてくれたようだ。


(私より先に泥棒の子と取っ組み合ってた女の子の方を心配してあげてくださいよ!なんか私ばっかり子ども扱いされてて納得いかないわ!)


本当は子ども扱いではなくて血の契約者だから大事にされているのだけど、気づけという方が無理な話だ。


ちなみに、あの女の子の名前は思い出せなかった。とりあえず、落ち着いたところで頭をなでなでしておいた。もう大丈夫だよ〜と念じた甲斐あって可愛い笑顔を返してくれたから満足である。


それにみんなの態度が変わらず友好的なことがとても嬉しかった。もし気持ち悪がられて追い出されていたらと思うとぞっとする。


(でも、中世の魔女狩りみたいな考え方の人がいるかもしれないし、炎を出すのはここのみんなの前だけにしておこう!)


そうこうしているうちに数日が過ぎたけれど、特に何も変わらない。あえて言うならマリアの外出が増えたくらいだ。警察が来ることもなかったし、また泥棒が来ることもない。


(そういえば泥棒の子の火傷、大丈夫だったかな?恨まれてるかなぁ。それとも気味悪がられてるかな…)


少年の暗い瞳が目に浮かび、思わず頭を振った。ストリートチルドレンのような身なりの少年だったし、おそらくとても苦労しているのだろう。日本であんなに荒んだ雰囲気の子どもに出会ったことがない。


(あの子が特別なんじゃなくて、この地域全体が貧しい感じなのかな…。まぁ、そのうちフィルとの勉強会で話題がでるかもしれないし、後回し後回し!)


嬉しいことに、フィルは毎日来てくれている。

事件の翌日以降も毎日本を持ってきては少しずつ新しい言葉を教えてくれた。それと合わせて、これまでの復習がてら、学んだ言葉を会話に入れるように意識してくれているようだ。ちょっとだけ何を言っているかわかると俄然やる気がでる。


なんて思っていたら、金髪ツインテールの頭がひょこっと現れた。私を見つけて駆け寄ってくるのはリリーだ。

どうやらリリーも私が炎を出したところを見ていたようで、あの後大興奮で大変うるさかった。魔法にすごく興味があるようで、ここ数日はどこに行くにも何をするにも付いてくる。あわよくば、もう一回魔法を見たい!という魂胆が見え見えだ。


それに、どういう風に見えていたのかわからないが、時々両手を天に掲げてじっと念じてみたり、「ハーッ!」と大声を上げて気合いを入れてみたりして炎を出そうとしているらしい。とにかく気になる。そして、やっぱりうるさい。


ただ、とっても表情豊かで明るいし、「私に任せて!」オーラがすごいのでいろいろ手伝ってもらえるところは助かっている。


というのも、今はまさにお風呂製作中だった。

空の樽と壊れた木桶を庭に運び出して試行錯誤の真っ最中なのである。


当初の予定ではもうお風呂に入れていたのだが、なんと!仕舞われていた樽はあちこちに隙間があって水がたまらなかったのだ!


隙間を塞ぐにも接着剤のような道具は見当たらなくて、マリアにお願いしてみたがうまく通じなかった。

ただ、樽や農具倉庫を自由に使っていい(と思われる)許可はもらえたから、あれこれいじくっている最中なのである。


悩んだ結果、まず板同士を固定している輪っか(「たが」だったかな?)をもう少し太いほうにずらして締めてみて、さらに水で木を膨張させてみることにした。これでうまくいけば、緩んでできた隙間がなくなるはずだ。


リリーにトンカチで叩く仕草をして、なんとか道具を持ってきてほしいと頼んだところ、ちゃんと手にトンカチを持って戻ってきてくれた!お礼を言って受け取ると、早速叩いてみる。


ゴッ!

(あれ?)


ガゴッ!

(難しいな…)


…予定の場所になかなか当たらない。

リリーが恐々覗き込んでくる。顔に「シーナ、何してるの…?」と書いてある。

(トンカチなんて、中学の技術の授業以来触ってないんだから!そんな疑いの目で見ないで〜!)


リリーを遠ざけてもう一度。

ガンっ!

「当たった!結構力いるな〜」

少ししかずれていない。シーナは根気よく叩いて、斜めったりしないように調整していった。


ガン!ガン!と激しい音は案外響くもので、なんだなんだと子どもたちが集まってきた。何をしているかなんてわかっていないリリーが嬉々としてみんなに説明している。まぁ、気にしないことにしよう。


全周を同じように叩いてづらしていって、そろそろいいかなというところまできた。


(よし!あとは水に浸けたいけど…)

「ソレ、ナニ?」


ふいに影が落ちたと思ったら、フィルが上から覗き込んでいた。


「あ!きてたんだ。えと、オハヨウ!」

「チガウ、コンニチハ」


そうだったと笑って誤魔化すと、フィルはしょうがないなというように苦笑した。

フィルが来るのはだいたいお昼の後のこういう自由時間だ。ゆっくり勉強に専念できるように、きっと考えてくれているのだろう。


(あ、フィルに言えばなんとかなるかな?)


樽をそのまま水に浸けるには大きな器を使うか、川とか池が必要だ。まだ通りにすら出たことがないシーナにとって、それを探しに行くのはかなり難しい。


(だからと言って、エーシャみたいな可愛い女の子を連れ出したら攫われちゃうかも!泥棒を野放しなくらいだから、治安よくないかもしれないし)


フィルなら帯剣してるし、ボディーガード兼案内人になってくれるんじゃなかろうか。

…こんなお金持ちな少年こそ誘拐の標的だろうに、シーナはまったく気づいていない。


シーナは門の外を指差しながら、フィルの手を取った。

「イク!」

(どこへとか、なんでとかは無理!言い方わかんない!でも、とりあえず外についてきてもらえばいいから!)


お願い!と目で訴えた。フィルはちょっと考えながら繋がれた手を見下ろした。そして、軽くため息をつくと、やっぱり仕方なさそうな表情で頷いてくれた。


シーナはお風呂へ近づいてるぞ!と嬉しさ全開の笑顔で言った。

「アリガトウ!」


善は急げだ!と外へ向かおうとしたら、くんっと服を引っ張られた。

「うぉっと!な、なに?」


見下ろすと、リリーがむっとした顔で服を掴んでいた。

(え、一緒に行きたいの?)

すっかりレギュラーなリリーちゃん。

次回、はじめてのおでかけ、です。

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