【小話】 不思議な女の子
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします
先日、この孤児院に新しい仲間がやってきました。
と言っても、どこから来たのか、どうして来たのかはわかりません。気づいたら、孤児院の前で倒れていたのです。
シーナと名乗ったその女の子はこの国では見かけない顔立ちでした。着ているものは美しい色のスカートと真っ白なブラウスで、まるで貴族か裕福な豪商の娘のようでした。
けれど、言葉が通じないし、領主様のご子息を投げ飛ばすような力持ちなのです。いったい何者なのでしょうか。
申し遅れました。
私は領主様よりこの孤児院を任されているマリアと申します。
元々、領主様の乳母としてお仕えしていましたが、10年前、アレキサンドラ陛下の結界によって行き場をなくした子どもたちを保護するために無理を言ってやってきたのです。
結界はあらゆる物を通さず、向こうを伺い見ることもできません。家に帰れなくなった異国人たちは国境に接する都市の一つである、ここリュークスにも留まることになりました。
領主様は彼らに田舎の土地を分け与え、農民として生きる道を示しました。例え商人を生業にしてきたとしても、食料確保のためには田畑を耕してもらわねばならなかったからです。
しかし、わずかな帰れる可能性にすがって土地をもらい受けずに留まった者や、一度は農民として生きようとしたけれど挫折して都市に戻った者たちは辛い生活を強いられました。住む場所もなく、教会から配られるわずかな施しも日を追うごとに減っていき、とうとう物乞いや盗みで食いつなぐようになってしまったのです。
彼らはスラム街でその日暮らしをしながら、歳月ばかり過ぎていきました。その子どもたちも同様に飢えて盗みを働いたり、時には人買いに売られてしまったり、ひどい生活を送っていました。
この孤児院がある場所はスラム街の端に位置していて、子どもたちを受け入れるにはぴったりです。領主様も子どもたちの現状を憂いて、もともとあった建物を買い取って孤児院にしてくださいました。そこを任せていただいた次第です。
ですが、スラム街に近いということは治安が良くないということで、しばしば院内のものを盗まれました。
特に畑は人目も少なく、よく作物が減っていました。
子どもたちが気づいて教えてくれましたが、私たちが食べる分は残っていたし、少々具材の減ったスープを食べることになっても問題はありません。領主様から定期的に支援も受けていましたから、飢えることなく暮らせました。
ですから、子どもたちには見て見ぬ振りをするように言ってたのです。それで今日を生きられる人がいるならと。
まさか、うっかり出くわした子どもが手を挙げられることになるなんて、そしてそれを止めようとシーナが立ち向かっていくなんて思いもしていなかったのです。
畑の方から悲鳴が聞こえたと知らせにきたので慌てて向かうと、そこには想像を超える光景がありました。
畑の真ん中で、夕日を浴びて浮かび上がるシーナの後ろ姿。彼女に殴りかかろうとする、スラム街の少年。
そして、影が広がるように彼女の体からゆらりゆらりと立ち上る黒い靄が、次の瞬間、炎によって祓われて霧散しました。
炎は生きているかのように走り、渦巻いて、消えました。シーナは黒い靄にも炎にも全く動じておらず、まるで彼女が操っていたようでした。
私はその夢のような光景を前に動くことができませんでした。
黒い靄も炎も初めて見ましたが、人ならざる技に思えました。そのような技を使える人間は、竜族と血の契約を交わした者だけです。
血の契約者は数えるほどしかおらず、ほとんどは国王様に仕える魔法師として王都にいるといいます。血の契約者と会えるなんて、とても幸運なことです。
見たところ成人もしていないシーナが契約者ということに驚きました。けれど、それよりもその技の神々しさに、気づけば涙があふれて止まりませんでした。
とても不思議な女の子です。
彼女はこんな場所に留まっていいわけがありません。早急に領主様にご報告しなくては!
ちゃんとした言葉の教育を受けることができるように。そして、この国の魔法師になってもらうために。
なぜなら、国境の結界を解く方法を見つけられるのは、血の契約者たる魔法師だけだというのですから。
お正月も終わり、今日から日常に戻りましたね…
更新も通常に戻ります!
次回、シーナ視点です。




