魔法使いたい!
前回
手から火を出せるようになりました。
次の日は一日中子どもたちがつきっきりだった。
シーナはご飯を食べて元気になったつもりなのだが、心配したマリアが見張りにつけたらしい。
リリーを先頭に5・6歳の子どもたちが集まって、シーナを椅子に座らせておままごとを始めた。最初は微笑ましく眺めていたのだが、なんとシーナにも役があったようでちゃんとやるように怒られた。理不尽な気がする。
今日の家事やお手伝いもなしで暇だし、お昼まで子どもたちの遊びに付き合いながら昨日の魔法のことを考えた。
まずはどんなことに役立てようか。
ふと、動き回るマリアやエーシャたちが目に入った。そういえば、彼女たちが魔法を使っているところをまだ見ていない。
台所で火を使うときは火打ち石で火をつけるし、薪も使う。水は井戸から木のバケツで組むし、畑はくわで耕した。全く魔法のまの字も見かけない。
(まぁ、まだ1週間も経ってないし、たまたま見てないだけだよね?私がこんなにすんなり出来ちゃうくらいだから、魔法はこの世界ではみんな使うもの…でいいんだよ…ね?)
急に不安になってきた。もし私がおかしいとしたら…と考えるとゾッとした。
(もしここが日本みたいに魔法使えるわけないでしょな世界だったら…みんなの前で火を出したとして、手品です!で乗り切れる?)
頭の中でシミュレーションしてみても、リスクが高そうだ。うまく誤魔化せる自信はない。
(誰かに確認したい!…でも、口で説明できる気がしないよ〜。…一回、害のなさそうな人に見せてみる?)
マリアやエーシャのような常識がありそうな人だと大ごとになりそうだ。
(もっと簡単に誤魔化せそうで、かつこの世界のこともわかっている人がベストなんだけどな〜)
見回しても、この部屋にいるのは子どもたちばかりで…
(いや、子どもたちの誰かっていうのはアリじゃない?小学生の中学年くらいなら、秘密を守れそうだし、常識もある程度わかってそう!)
となると、ここにいる子は幼すぎる。
もう少し年上の子どもたちのところに行きたくてうずうずしていたら、案の定、リリーからおままごとの厳しいご指導を受けてしまった。面目無い。
あっという間にお昼になって、ご飯の後にはフィルもやってきた。正直、目の前でぶっ倒れて迷惑かけたなと思っていたので、 ちゃんと謝れてよかった。まぁ、言葉の勉強に期待してたから来てくれなくなったら困る!というのもある。
フィルは心なしか昨日より優しくて、シーナとしては嬉しい限りだ。
今日もあの辞書みたいな本を持ってきてくれた。今朝起きてから見当たらなくてどうしたかと思っていたのだ。胸をなでおろしつつ嬉々として質問していたら、新しい遊びが始まったと思ったのだろう。リリーたちも参加して大変な騒ぎだった。
というのも、シーナが指差した単語がどういう意味か説明するために、家中のものを持ってくるものだから居間は泥棒に入られたみたいな有様だ。エーシャや他の年長組たちが注意しにきたが子どもたちの盛り上がりに収拾がつかず、最後にはマリアの厳しいお叱りをいただいた。なんで私まで!
(まぁ、フィルが子どもたちに振り回されてるところは面白かったけど。ツンデレくんもちびっ子には弱いんだな〜)
そう、フィルはツンデレなのだ!仏頂面がデフォだが、言葉を教えてくれている時とか倒れたことを心配してくれている時とかに優しい表情もするのだ!
(いや〜、あざとい!これはたしかに女の子たちがきゃーきゃー言うわけだよ〜)
なんだか芸能人を見ている気分で納得していると、フィルがこちらに寄ってきた。どうやら今日はこれで帰るようだ。
(本は…持って帰るのね。貸してくれるわけじゃなかったのか〜!次はいつ来てくれるんだろう?)
私の視線が本に集中していたからだろう。フィルはシーナの言いたいことがわかったようだ。安心しろとばかりにシーナの頭をそっと撫でてから帰っていった。
ぎこちない動きだった。前に騒がしいおじさんにされたような乱暴さや慣れた感じはしなかった。
(なんか照れるなぁ。芸能人は遠くから見つめてるくらいがいいんだよ…。昨日もだけど、急に距離詰められると調子狂う)
シーナはそっと自分の頭に触れた。
フィルは年下で、自分みたいな平凡な女子が近づくにはおこがましいほどイケメンで、しかもお金持ちだ。
だから、勘違いしないようにしなきゃいけない。時々すごくドキドキして逃げ出したくなるけど、これはツンとデレのギャップにまだ対応できていないだけだ。
(今、私が一番に考えるべきことは言葉を覚えて日本への帰り方を見つけること!そして、あったかいお風呂に入って、美味しいご飯をたべること!!)
よし!と手を叩いて立ち上がった。
まずは魔法を大っぴらに使えるのか否かの確認だ。
シーナは獲物を探す狩人よろしく、ずんずんと部屋を出て行った。
果たしてフィルたちはシーナをいくつくらいに見ているのでしょうか?




