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序章 1

初めての作品になります。

のんびりお付き合いください!

ゴールデンウィークが終わった5月半ば、新生活応援!なんて言葉をだんだん見かけなくなってくる頃、私はまだまだ応援してほしい気持ちでいっぱいだった。


「あ〜!疲れた!」


帰宅してそのままベッドにダイブする。


私は里田椎菜(さとだしいな)。この春から晴れて女子大生になって念願の一人暮らしをスタートしたけれど、早くも挫折しかけている。


(ご飯食べなきゃ。…あ〜そういや振り込み今日までじゃん。めんどくさー)


今思えば実家暮らしのなんと優雅だったことか!入学して一か月と少ししか経っていないが、ホームシックで泣きそうだ。


(うう、お母さんのご飯食べたい。おうち帰りたい)


ベッドでうんうん唸ってジタバタしているうちに睡魔が襲ってきて、私はちょっとだけならいいやと眠ってしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



…わー!きゃー!と子どもたちの楽しげな声がする。

うちの前で子どもが遊んでるのかしら?なんて夢の中で思う。帰ってきた時間からして、子どもが遊ぶ時間ではなかったように思うのだが…


(う〜ん、眩しいな…

そういえば、電気つけたまんま寝ちゃったんだっけ)


仕送りはあるけれどあまり金銭的に余裕はないので、電気代だって節約しなくちゃいけない。

自分を叱咤して目を開けると、思いのほか眩しくて思わず瞼に手をかざした。

…この眩しさは電気じゃない。日の光だ。


「…あれ?朝?!」


そんなに寝ちゃったの?!と慌てて飛び起きて、ものすごい違和感に襲われた。


「どこ…ここ?」


真っ先に目に飛び込んできたのはむき出しの石壁と、壁をくりぬいて作られた窓から差し込む光の明るさ。

窓にはカーテンがなく、直射日光が降り注ぐ床は古びた木製だ。

確実に、先ほどまでいた我が家ではない。


混乱しながら見回せば、自分が寝ているベッドと同じものが左右に並べられていて、それは一昔前の病院のような雰囲気だ。


呆然としていると、不意にまた子どもの声がした。


外から聞こえた声に誘われて無意識にベッドを降りると、ストッキングの足にざらざらとした床を感じた。


(そっか。大学から帰ってそのまま寝ちゃったから服もこのままだった)


中学から高校卒業まで柔道部だった私はいわゆる体育会系女子!という見た目だった。だから今は大学デビューというやつで、憧れていたスカートにふわふわブラウスという清楚系女子を目指した格好をしていた。髪も伸ばしてゆるく巻いていたが、寝ている間にすっかり元のストレートに戻ってしまっている。


気を取り直して窓辺によると、さらに目を見張る風景が広がっていた。


「うそ…いつの間に外国きちゃったの…?」


そこには、中世ヨーロッパ のような街並みとよく晴れた空があった。空は広い。見慣れた東京の空より遮るものがなく、広がる青が家々の屋根のくすんだ色とコントラストを描いていて…


(夢?…って考えてる時点でおかしいでしょ!これって何か事件とか…誘拐せれたとか?!)


「うそうそ!だって私お金持ちでもないし、誘拐はないって!」


(…そうだ、携帯!)


悪い考えを振り払ってとにかく誰かに連絡してみようとポケットを弄ったが…


「ない…。そういやカバンの中だったかも」


ベッド周りを探したが、カバンはない。学校帰りでそのまま寝てしまったことがこんなことになるなんて!とますます頭を抱えた。


(うう、泣きそう…)


その時突然、背後で木が軋むような音がした。

ドキッとして振り向くと、部屋の扉が開いて年配の女性が立っていた。


頭からくすんだグレーの布を頭巾のように巻いた見るからに外国人の女性で、薄い色の瞳が驚きに見開かれている。


「&#@!$☆×÷*?」


さっとそばまで来ると、固まっている私の手を取って話しかけてきた。

話しかけてきたんだけど…


「€%○?」


(何?何語?!英語でもないし、なんとかなく聞いたことあるドイツ語とかに似てる気もするけど…)


「$×○#…」

「ご、ごめんなさい!何言ってるかわかりません! プリーズ ジャパニーズ!」


話続けようとする女性を遮って、半ば叫ぶように訴えた。英語ならわかるかもと思って付け加える。


「……%@#?」


けれど、私の希望も虚しく通じなかったようだ。女性が眉間にしわを寄せて考え込むように俯いてしまった。


(どうしよう?!全然状況が飲み込めないけど、私のカタカナ英語じゃ発音悪かったのかな?!)


おろおろしていると、私の手を握っている力が増して、唐突に女性が顔をあげた。


「%#&#_○!」


首をかしげることしかできなかったけど、女性の真摯な瞳と手から伝わる温もりがこの人は悪い人ではないと言っているみたいで、先ほどまでの事件だとか誘拐だとかいう考えは抜けていってしまった。

読んでいただき、ありがとうございます。

序章 2へつづきます。

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