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オモチャとしてのRPG(ものがたり)

『封魔の城塞アルデガン』幻想記

作者: MF(ふしじろ もひと)

”城塞都市アルデガン。それは魔物を封じた洞窟の入り口を守る寺院都市である。

 エルリア大陸を血で染めた人と魔物の永い抗争の時代は、大僧アールダの力により魔物が岩山の洞窟に封じられることでひとまず終わりを告げた。しかし、いつ現れるとも知れぬ英雄の出現を待つのでは魔物を抑え切れるものではないこともアールダはよく知っていた。

 だから彼は魔物を封じた洞窟の出口に城塞都市を築き、戦士や術者を永住させることで魔物の地上への進撃を食い止めようとしたのである。


 以来数百年にわたりアルデガンの住人と定められた者たちは過酷な任務を果たし続けたが、彼我の勢力が伯仲する状況ゆえ洞窟に攻め込むことは困難だった。魔物の中には吸血鬼もいたため、牙にかかり敵にまわる者が出る危険をおかすことはできなかったから。

 そんなある日、一人の少女が吸血鬼に襲われる事件が起きた。それも洞窟での出来事ではなく都市の中央に位置する寺院のそばで。魔物の力が増しているのは明らかだった。

 アルデガンの人々の意見は対立した。ほとんどの者は掟に従い少女を殺して洞窟の警備をこれまで以上に厳重にすべきだという考えだった。だが都市に侵入できる敵を放置すればさらに犠牲が出る怖れがあり、牙にかかった少女の血の感応により敵を探して滅ぼすべきだと考える者もわずかながらいた。その中には少女の幼なじみの若い剣士も、そして我が身に襲いかかった恐怖と絶望から人々を何が何でも守らなければならないと思いつめた見習い魔術士である少女自身も含まれていた。

 2人はついに困難を極めた探索に乗り出す決心を固めた。だが癒しの技や高位呪文の使い手である高僧のだれかの助力なしには探索など成功しないことも彼らは知っていた……”


 このゲームはRPGにおける成長=レベルアップの概念を逆手に取り、なるべくレベルアップさせずに所定の目的(吸血鬼を探し出して倒すこと)を目指すものです。


 RPGの大きな特徴の一つにキャラクターのレベルアップがあります。これは敵との戦いを繰り返せば戦いに慣れて強くなるのをゲーム上で表現するために、敵を倒すたびに経験値と呼ばれる数値を割り当てて一定以上たまればキャラクターの攻撃力や防御力が上がるという仕組みのことをいいます。キャラクターは戦いを繰り返してさえいれば、いつかはどんな強い敵でも倒せるようになるわけで、その喜びがRPGの人気を高めた理由の一つともいわれています。

 しかし、そこにはいくつか難点もあるのではないかと僕は思います。


 まず、ゲームが不必要に長くなったり緊張感を欠く場合がある点です。成長がゲームの進行上で欠かせないためゲームを進めるための作業になりやすく、メーカーがゲームを終わらせる時間を引き伸ばす引き延ばす傾向が強かった時代にはバランスどころの話ではありませんでした。また、経験値という数値の積み上げは強い敵との一度の戦いと弱い敵との数度の戦いが等価になることでもあるので、時間をかけて弱い敵と戦っても同じ結果になるという矛盾もありました。結局数値を上げるために危険を冒すか時間をかけるかの選択が可能という事態が生じてしまい、数値を上げることにマイナスの因子がないがゆえの単調さを免れないものでした。

 もう一つの難点は強くなったキャラクターが弱い敵と戦うと、どちらが化け物かわからないように見えてしまうという点です。最初は倒すのに苦労していたはずの相手をあっさり消し飛ばしてしまうキャラクターを見ると僕などは悪魔的なものを感じてしまうのです。戦いの中で人でないものに変貌しつつある姿を見るような……。


 そう考えて思いついたのが、主人公を極力レベルアップさせないことを目指すルールのRPGでした。主人公はレベルアップすれば確かに強くはなるもののゲーム本来の目的からは遠ざかるということにすれば、相反するがゆえの緊張感が生まれ時間が解決する作業に堕さずにすむのではないかと考えたのです。

 そうして考えついたRPGとはこんなものでした。


<主人公の設定と目的>

 主人公は吸血鬼に咬まれた少女です。彼女はレベルアップにより急速に強さを増してゆきますが、ある段階までレベルが上がると吸血鬼になったと見なされます。従ってそこまでレベルが上がらないうちに洞窟の奥に潜む吸血鬼を見つけだして倒すのが目的となります。


<経験値のカウントのルール>

 主人公の経験値は敵と戦ったときと時間の経過によって加算されるものとしますが、時間の経過はキャラクターの移動によってカウントすることにします。従って迷路で迷って2倍の道のりを歩いた場合は2倍の時間が経過したと扱われます。仲間の2人については戦闘時のみ経験値が加算されます。


<仲間との経験値の配分のルール>

 戦闘の結果得られた経験値は戦闘終了時に活動可能なキャラクターで分け合うものとします。死んだり麻痺したキャラクターは経験値を得られないので、仲間がそのような状態に陥れば残った者に与えられる経験値は増えます。配分の比率は戦闘時に攻撃のコマンドを用いた回数に比例しますので、防御や味方の治療などに専念すれば経験値の配分を受けません。

 従って攻撃を仲間に任せて後方支援に徹していれば主人公は経験値をためずにすみますが、敵が強かったり数が多ければ参戦せざるを得ない状況もありえます。味方が死ねば復活はできないのでそのまま進むか地上に戻って別の協力者を探す(当然道のりに由来する経験値が加算されます)ことになり、先行きは困難なものになります。


<ゲームの流れ>

 ゲームがスタートした時点で、主人公は仲間の剣士とともに都市と洞窟の境にいます。このまま洞窟に入ることも可能ですが、とうてい戦いを切り抜けることができませんので寺院に赴き仲間になってくれる僧を探すことになります。寺院は上に行くほど優れた僧に出会えますが、仲間になってくれる確率も下がっていきます(ただしゼロにはなりません)寺院を歩く歩数も経験値としてカウントされますので、ほどほどのところで手を打つケースがほとんどでしょう。

 稀に僧や他の住人(いずれも優れた戦士や術者)に攻撃されることがあります。戦うことも逃げることもできますが、戦って勝てるケースは奇跡的で、万一勝ったりするとそれだけで経験値が限界を超えます。実際のところ逃げるしかありません。

 首尾よく仲間の僧を見つけたら洞窟の探索に乗り出すわけですが、画面上には吸血鬼のいるおおまかな方角を示す矢印が表示されます。これは呪われた血の絆によるものなので、主人公が麻痺したりすると表示されません。また、大まかな方角だけなので枝分かれや回り道を見抜くほどの精度はありませんが、相手が大きく移動したりするとわかります。

 モンスターは先にゆくほど強くなるので、2人の仲間をある程度レベルアップさせなければなりません。仲間のレベルアップは主人公のような目的へのマイナス因子にはなりませんが、普通の人間ですから主人公に比べると強くなる度合いが低いので、戦いがあまり楽になることはないと思われます。


<ゲームの結果判定>

 主人公が死んだ場合はゲームオーバーです。

 主人公が吸血鬼にならないうちに仇敵の吸血鬼を倒せればハッピーエンドです。

 仇敵を倒す前に経験値が限界に達すると吸血鬼になったことになり、生き残った仲間がいれば仲間との戦闘画面に入ります。戦うことも逃げることもできますが、仲間は動揺しているので、逃げた場合失敗することはまずないでしょう(ただし確率がゼロというわけではありません)

 吸血鬼と化し一人になってしまった主人公には二度の誘惑が待ち受けています。最初は仇敵と出会ったときで、その吸血鬼は自分に従い地上に攻め上ろうと持ちかけます。断れば戦闘になり、相手を倒すことができれば二度目の誘惑が、絶望の陰からの悪魔のささやきとしてあらわれます。これをも退けた場合は神の奇跡により浄化された死を迎えるエンディングとなります。

 ゲームの中で誰か人を殺してしまったり二度の誘惑のどちらかに屈した場合は、主人公は魔性に心を染めた身となってわが身が滅ぼされるまで終わらない人間との戦いに臨むことになります。この場合は主人公が滅びない限りゲームは終わらず、果てしないレベルアップを繰り返しながら城塞都市を攻略することになります。主人公の前に立ちはだかる敵の中には洞窟の探索を生き延びた仲間の姿もあるでしょう。



 とまあ長々と書き連ねてきましたが、こんなゲームがあればなあといつも思っているのです。どなたか作ってはくれないものでしょうか(とうてい自分では作れそうにないので)


 それにしても、こうしてアイデアやシナリオをひねくりまわしているだけでも何ともいえぬ楽しさがあります。やはり物語作りには、どこかオモチャ遊びに通じるものがあるように思えてなりません。




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 ゲームのアイデアがこういうものだったので、お話の方は少々違う展開のものにしました。お話である以上、ゲームにできないものにならなければいけないだろうと考えていましたから。

 ですからお話のおおまかな流れというかイメージはかなり早い時点でできあがり、後にクライマックスになるいくつかのシーンも脳裏に浮かんだりしました。

 けれどいざ書き始めると、まだワープロも身につけておらずPDAどころか携帯PCさえまだ出ていなかった身では文章化するのが大変でした。ノートに鉛筆を持って電車の中で書いたりしてみましたが、ただでさえ悪筆なのに振動でとうてい判読に耐える字が書けず、冒頭の章のいくつかの断片はなんとか書いてみたものの、あまりの先行きの長さに根気が持たずに投げ出してしまいました。


 それから15年もすぎた去年の春にいつの間にか50近い身となった自分にふと気づき、このまま放置するのも惜しいと思ってもう順番に書くことにこだわらずにクライマックスシーンから書き始めたら、ワープロも触れるようになっていた上に持ち運びできるPDAも中古ノートPCもあり、当時の躓きの石がすっかり取り除かれていたため9月の終わりにはなんとか書き上げることができたのでした。もちろん形にするあてがなくても頭の中では折々に思い返していたものなので、イメージがかなり固まっていたのも大きかったのでしょう。

 諦めが早いような、けれど諦めが悪くもあるような、我ながら妙な性格をしていますが、結局ゲームにはできなかったけれどもお話の形では今後もひねくりまわすことになるようです。明日はどこへゆくのやら……。


 素人の愚行でしかないものですが、どうか今後ともほどほどにお付き合いいただければ幸いです。


 同人誌への執筆は92年末でしたが、ゲーム向きのシナリオとお話としてのシナリオは同時進行させていました。ゲームにはゲームに向いたシナリオ、お話にはお話に向いたシナリオであるべきだという意識が強かったからで、状況設定を似せておくことで互いの特性の違いを確認しながら作業を進めていたのでした。それはゲームにできないことはお話で、お話にできないことはゲームで表現しようと自分なりに考えた結果でした。

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― 新着の感想 ―
[一言]  レベルアップさせたらバッドエンドに近づくとは、このような設定を考えたのはたぶん、ふしじろさんだけだと私は思います。すごいところに目を付けましたね。
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