1-6 協力
「どうしたの?固まってるわよ?」
倉木さなが自宅での話し合いを提案してから数秒間、僕の頭には様々な情景が流れた。今の思考速度は僕の人生史上最速であろう。
そして、僕のコンピュータは結論をだした。
「いやいや。さすがに倉木さんの自宅には行けないよ。どこか。『人はいないけど、人目に付く所』にしようよ」
矛盾しているようでしていない、と思う。
「そう?まあ、いいけど。いつもの公園にする?」
「うん。そうしよう」
彼女が先を歩き、後ろからついていく。歩き始めてすぐ彼女の声が聞こえた。
「紳士的ね」
単なるつぶやきか、僕に投げかけた言葉なのかは分からない。ただ、僕は良い判断をしたようだ。うん、きっとそうだ。そうに違いない。後悔はしない。多分。
「どうせだから、何か飲みながら話しましょ?珈琲は飲める?」
「うん」
公園に向かう途中、コーヒーショップでコーヒーをテイクアウトした。僕はカフェラテを頼んだ。彼女は「クリームとデコレーションたっぷりの何か」を注文していた。彼女がさらっと僕の分まで会計しようとしたので、僕は慌てた。強引に僕がまとめて支払うことにした。
「いいの?ありがとう」
彼女はすぐに引き下がってお礼を言ってくれた。頑張る子供を愛でるような眼差しで終始微笑んでいた。僕を立ててくれたんだろう。やはり、内面の年齢差を感じる。大人だ。
公園に着いて、ベンチに座った。やっと本題に入れる。
「それでなんだけど、どうして、花火大会中止とか『ZADA』の解散とか知ってたの?」
「これまで、何度も経験してきたもの。内部情報を知ってたわけじゃないわ」
「倉木さんは本当に自分がタイムリープしてるって言いたいの?」
「タイムリープ?そうね、タイムトラベルじゃなく、タイムリープね。私の記憶と経験だけがループしてるわ。信じてくれた?」
「信じたくはない。けど、信じそうになっているかもしれない」
倉木さなはとてもうれしそうに目を見開いた。
「そう!ありがとう。いいのよ、それで。ちょっとずつ確信していけばいいのよ。やっぱり三島君っていい思考力ね!」
微妙な気分だ。タイムリープを信じる人の思考力は「良い」のだろうか?ツッコミを入れたくなる。
彼女は続ける。
「それでね。もし良かったらだけど、三島君にタイムリープからの脱出手伝ってほしいの」
「うーん…。そもそも、完全に信じているわけじゃないからなあ…」
「お願い!私、本気で困っているのよ!協力者なんて今まで滅多になかったんだから!」
「そんな笑顔で言われても。全然困ってなさそうなんだけど」
「なんでよ!困ってるわよ!もちろん、この人生自体は楽しんでいるわ。そうじゃないともったいないでしょ?でも、いつまでもループしたままってのも嫌なのよ」
かなり彼女の言葉遣いが崩れてきている。本来はこういう話し方なのだろうか。まあ、それだけ本気だということかもしれない。
「わかった。わかったよ。協力するよ」
彼女は勢いよく僕の手を両手で握ってきた。
「ありがとう!」
こうして僕たちは、放課後や休日を使ってタイムリープの原因と解決策を探ることになった。