1-5 接近
アイドルグループ「ZADA」の解散発表があった次の日、僕はいつもより早く登校した。
まだ誰も来ていない。早く来すぎたか。ただ、僕は居ても立っても居られなかった。
倉木さなが述べた言葉、「高校生活を繰り返し過ごしている」といういわばタイムリープを示唆する言葉を何度も思い返す。それはありえない。ありえないはずだ。科学的に不可能だ。もちろん「現代科学の理解の範疇外にある」という意味でだ。
しかし、彼女の言葉が正しいと仮定すると、色々と辻褄が合う。
教室に入ってくるクラスメイトが少しづつ増えてきた。
まだ彼女は来ない。
数人のグループが談笑しながら教室に入ってきた。その中に倉木さながいた。
やっと来た。
僕はそのグループに近づき、彼女に声をかけた。
「倉木さん、ちょっといい?」
彼女は僕の顔を見るや、嬉しそうに微笑んだ。そしてすぐ、不思議そうな顔を作りこう返してきた。
「三島くん?うん。いいけど、もしかして、長くなるかな?」
「う、うん。でもとにかく話がしたい」
「わかった。じゃあ放課後でいい?校門で待ってるね?」
「ありがとう。じゃあ後で」
僕は席に戻った。
これで放課後にはこのもやもやを解決できるだろう。
ふと視線を感じる。倉木さながいた女子グループからだ。彼女たちは僕のほうをチラチラ見ながら、小さめの声で話し合っている。にやけた顔をしている少女もいる。倉木さなは何事もなかったように受け答えしているようだ。
周りを見回すと、幾人かがとっさに目をそらす。
僕は急激に顔が熱くなるのを感じた。
かなり衝動的な行動をとってしまったらしい。席を立った時の音も、掛けた声も相当大きかったのだろう。しかも、急に女子に声をかけ放課後呼び出すなんて。
急に、大きな破裂音とともに肩に衝撃が走った。僕の肩を後ろから思いっきり誰かが叩いたのだ。
「よう!ナンパ野郎くん!どうしたんだよ?!勇気あるじゃねえか!」
成幸だ。そして、大爆笑しながら自分の席に座った。
そして僕に顔を寄せ急に小声になる。
「おいおい。マジでどうしたんだよ。やっぱ好きだったのか?」
僕もつられて小声になる。
「なんで今日は早いんだよ。好きじゃないって。ただちょっと聴きたいことがあっただけだよ!」
「何を?」
「なんでもいいだろ!また今度話すから今日はほっといてくれ!」
僕はそれっきり、外部をシャットアウトした。
いや、シャットアウト出来るはずもなく、放課後までの長い間、僕の心は羞恥心のサンドバッグとなった。
放課後の校門で倉木さなを待つ。
彼女はひとりで来た。
「おまたせ。信じてくれたってことでいいのかな?」
「いや、まだ分からないけど、でももうちょっと詳しく聴きたい」
「ありがとう!うん、これもはじめてね!楽しいわ。すごく!」
「どこかでゆっくり話しましょう。そうね…。私の家にしましょう!」
なにをいっているんだろうか。
「ああ、大丈夫よ。ほかの人はいないのよ。誰にも聴かれないわ。私一人暮らしだから」
いやそういことじゃない。
それっぽい展開ですねえ。