表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は君をあと10秒だけ待つ  作者: 宇音
第1章 出会い
3/23

1-2 倉木さな

 「倉木さんなー。なんか独特の雰囲気あるよなー。まあ、顔は中の上だな。上の下ではない。目が細いのがマイナスだな。うん」


 失礼な奴だ。

 「成幸は下の中くらいだけどな」

 一応、倉木さんのために反撃しておく。


 「高校からこっちに引っ越してきたらしいな。都会から来たんだっけな」


 「で、なによ。謙は倉木さんが気になんのか?」

 「いや、そうじゃないって」


 「まあ、誰かと付き合ってるって話は聞かないな」

 「あっそ」

 「まあ、倉木さんコミュ力高いから、謙とはちょっと釣り合わないかもな」

 成幸がにやりと笑う。否定的なことを言いつつ、実際にはその瞳に暖かさがある。仮に僕が「付き合いたい」と言ったら手伝ってくれるのだろう。


 まあ、そういう奴なのだ。


 「そうかもな。いやだからそうじゃないって」

 だから僕の表情も少し柔らかくなっているだろう。




 いつも通り、退屈な授業を受ける。

 やはり倉木さなに目が向いてしまう。成幸が言うように、倉木さなはコミュニケーション能力が高い。色々な性格の人と仲良くしているように見える。しかも、心からそうした交友を楽しんでいるようだ。



 どうして、倉木さなが気になるのか。成幸が言うように恋情なのか。




 いや、違う。

 この感覚は、違和感だ。

 彼女を見ていると、なにか「ズレ」のようなものを感じる。そこが僕の気を引くのだ。





 昼休みも成幸と雑談しながら彼女を見る。

 改めて意識すると驚いたのだが、彼女のしぐさはとても上品で洗練されている。いや、洗練されすぎている。僕の祖母は茶道を習っていたが、それに近いものを感じる。ただ単に品のある動きを知っているのではなく、年月を掛け熟達したものなのだ。

 手や足の運び、目と口の動きなどが高校2年生のしぐさではない。そこに「ズレ」を感じるのだ。


 そういえば、関係ないだろうが、昨日の彼女の言葉にも違和感を覚えた。

 彼女は僕を見た時、「これは、はじめてね」と言った。「ここでは、はじめてね」とか「はじめまして」なら意味が通るのだが。洗練された彼女が間違った文法表現を用いるとも思えない。





 下校時間になった。



 成幸は部活に向かった。

 僕が一人で校門から帰ろうとすると、倉木さなに会ってしまった。ちょうどクラスメイトと別れて手を振っているところだ。もちろん、今までにもすれ違うことはあった。

 しかし、今日は目が合った。


 「ああ、三島くん。昨日ぶりだね。帰るところ?」

 「うん。ま、また明日ね」

 僕はすぐに帰りたかった。目を合わせづらい。

 彼女は少し笑いながら、

 「どうしたの?今日はずっと、なんだか、そわそわしているみたいだけど?」

 その言葉に僕はかなり動揺してしまった。目を見ることができない。彼女は、僕が今日ずっとちらちらと見ていたことに気付いていたのだ。顔が熱い。


 「い、いや、なんでもないよ。いや、なんて言うか、倉木さんて、な、何歳なのかなって」

 僕はどうかしている。何当たり前のことを聞いているのだ。一刻も早く立ち去りたい。


 すると、彼女から微笑みが無くなった。困惑しているのだろう。

 「え、三島君と同い年だよ」

 当たり前だ。

 「そうだよね。そうだよね。い、いや、知ってたけど、ほ、本当は、本当は何歳なのかなって」

 自分で何を言っているのか、もう分からない。





 しばらく経っても彼女からの返答がない。これはもはや会話ではない。


 僕はやっと自分の顔を上げることができた。




 倉木さなは、



 彼女は、今までに見せたことのない表情をしていた。



 目は見開き、口は笑っている。

 

 驚愕と不安、そして喜びが入り混じった、そんな表情だった。




混乱すると自分の思考を言葉にしちゃう系男子ですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ