1-1 登校
教室のドアを開けると、朝の光と共に数人の生徒の視線が僕に注がれる。そして何もなかったように視線は僕から離れた。
友人はまだ来ていないようだ。
僕は静かな教室が好きなので比較的早くに登校しているのだ。
自分の席に座り、頬杖をついて窓の外をみる。
僕が高校2年生になって2か月ほどが経つ。外は既に初夏の香りを放っており、山々には緑があふれている。この季節は好きだ。生命力があふれていて、見ているだけで心がワクワクしてくるし、穏やかな気持ちも与えてくれる。
いつものように窓の外を見ながら時間が過ぎるのを楽しんでいると、数人の少女が談笑しながら教室に入ってきた。このクラスの生徒たちだ。
その中に、比較的背が高く細身の女性がいた。「倉木さな」だ。
昨日の晩の出来事が思い出される。
深夜の公園にいたのはクラスメイトの倉木さなだった。もちろん昨日出会った時点で本人であることは分かったのだが、その時は適当な挨拶で済ませた。動揺していたのもあって、すぐにランニングに戻ってしまったのだ。
今まで、彼女のことはあまり意識したことが無かった。「そういえばそんな子がいたな」程度である。
倉木さなはクラスメイトと談笑している。
ふと、倉木さなと目が合った。
僕はすぐに目をそらしてしまった。軽く挨拶することすら出来ない自分が情けない。
その後は窓の外に目を向けつつ視界の隅に彼女を置いていた。
ホームルーム開始のチャイムが鳴り始めた時、制服を着崩した男が隣の席に騒がしく滑り込んできた。
「なに女子のほうちらちら見てんだよ。きもちわるー」
「どこも見てねーわ。てか成幸、今日もぎりぎりかよ」
僕の友人、成幸のご登校である。
気持ち悪いって…。まあそうかもな…。
ちらちら見ちゃってるのは、よく分かりますね。自分以外は。