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4,ホムンクルスと機械兵

 換気扇が鈍い音を鳴らしながら料理場で上がった美味そうな食べ物のにおいを煙と一緒に排出していく。

 差し込んだ朝日を灯りの代わりにしてアイは溶いた卵を小麦粉の中に混ぜて簡単なパンケーキもどきを3枚焼き上げると、すでに調理済みの腸詰肉と葉野菜がのった大皿に盛りつけていく。


「完成だな」


 料理の出来に自分で満足すると、そのうち一枚を後でドクにもっていく用として残して食卓に運んでいく。

 小さな四角い食卓は普段ならアイ一人だけなのだが今朝は違っていた。


「お腹すいたー、はーやーくーご飯もってきてよー」


 見た目17、8くらいで目に生える赤髪の女性が子供のようにどこからか見つけてきたナイフとフォークを叩きつけながら駄々をこねていた。

 昨晩、王城から盗み出してきた自称王女な彼女。

 アイはドクに任務の結果報告と彼女の対応を聞こうと考えて連れ帰ってきたのはよかったのだが、肝心のドクが部屋に籠ってしまっていたのだ。こうなってしまうと次に出てくるのは数日後と分かっているアイは早々に頼るのを諦めて彼女を保護という事にした。

 だが、客人にも関わらず高慢な彼女の態度にアイは色々と限界が来ていた。


「食べたいのなら少しは手伝うとかしたらどうですか。働かざる者食うべからず、ですけど」

「何言ってるの、私は王女よ! 食卓を一緒に囲めるのを喜ぶどころか、給仕の真似事をしろだなんて無礼よ。ほら早くそのパンケーキを渡しなさい、食べてあげるわ」

「いや、別に食べてもらわなくても結構何で」

「ちょっ、なんでよ! それをよこしなさいよ!」


 珍しく悪感情というものを抱いた結果の行為だったが彼女にはなかなかに効いた様で、今までの態度をメッキのように外して焦った様子で下げかけられた皿を奪い取る。

 アイが座るのも待たずにナイフを手にすると育ちの良さを感じられる丁寧さとそれに反する速度でみるみると胃に収めていき、呆れながらアイは自分のペースで食事を勧めていく。

 残念ながらすぐにお代わりによって中断されるのは目に見えているのだが。


 ――――――――――――


「ふうー。ご馳走様、とてもおいしかったわ」

「お粗末さまです。こっちはほとんど食べた気がしてないけど」


 計4枚半のパンケーキを完食して満足したのか口元を拭きながらにこやかにそう言った。アイの方は何度も追加注文を作っていた上に、気づいた時には減っている自分の分を守るのですでに疲労感が見え始めているようだ。


「それじゃあ改めて貴女について説明してもらえるか」

「そうねえ、美味しいご飯を食べたすぐ後にそんな話したくないわ。だから条件としてこの街を案内しながらだったら良いわよ。暗かったけど私の知っている国とは違ってるように見えて気になっているの」

「外か・・・」


 案内をするという条件に少しの考え込む。

 ドクに尋ねることのできない今勝手な行動をしていいのか。まして、王城から連れ去ってきた人物を外に連れて行ったときの危険性を考えるとそう簡単には頷くことができない。

 だが、情報を得たいのも事実。

 いくつかの可能性と自分の力量を考慮し、普段のアイならばあり得ない自分の脳内にあるシコリのような違和感の存在を何とかしたいという感情を優先した。


「近所の市場までで常に俺の目の届くところにいてくれるのなら、多分、大丈夫だ」

「なら早く準備しなさい、勝手に出ていくわよ!」


 きつい言葉を使うがその表情はピクニックに行こうとする子供のような満開の笑顔でアイもため息を吐きながらもどこか楽しそうに外出の準備をするのだった。


~~~~~~~~~~


 四等分されたアメディアの中で北に位置する区域は他の区域に比べればかなりましな暮らしを送っている。

 箱庭周辺3キロ以内にさえ立ち入らなければ四賢者お抱えの警備兵に狙われることもないため、他区域からも多くの食料品やジャンク類が運び込まる市場(アーケード)は連日賑わいを見せていた。

 無論、余裕のある暮らしが出来ている訳ではない。

 人間らしい暮らしが来ていると言うだけだ。

 一つの露店の前を通り過ぎようとしたときアイの姿を見た店主が声をかける。


「おっ、アイじゃねえか! ドクの新作でも持ってきてくれたのか、今なら言い値で買えるぞ!」

「てめえ、何抜け駆けしようとしてんだ!ドクの発明品は競売って決まってんだろうが。ちなみにアイ、俺なら4型の光発電機と機械兵フレーム出せるぞ」

「お前もじゃねえか! なら俺は取れたての野菜類を一山だ、今回は豊作だからどれも美味いぞ!」

「たく、何奴も此奴も自分勝手だなそれで新作はどんな物だよ」


 大きな声に気づいた他の店主達が店に来ている客も放って続々とアイの元に集まり来るが事の本人は少し口角を上げると一言。


「勘違いです」


 ピタリと熱くなっていた店主達声が止むと、最初に言いだした兵器屋の頭に一発ずつ拳を下ろして何も無かったかのように帰っていく。

 その間、自称王女は見た目が荒くれ者の男達に囲まれたせいでアイの後ろで小さくなっていた。


「イテテ、ひでえ目に遭ったぜ。所でアイ、そこの姉ちゃんは何だ、彼女か?」

「いえ、護衛対象です」

「となるとドク関連か、分かった。何も聞かなかったことにしてくれ、巻き込まれるのはゴメンだ」

「分かりました」


 それだけ言うとアイは彼女を連れて市場を後にした。


~~~~~~~~~~~


「で、今度は何処に連れて行くのよ。さっきみたいに訳の分からない場所はお断りよ」

「大丈夫。市場は新参者挨拶みたいな者だから行っただけ。今の国の現状を知るのに一番の場所に連れて行くつもりだから」


 二人が今いるのはビルの間の細い路地。

 既に両脇のビルからは生活音は消え、一般人なら立ち入る必要のない領域であることを感じさせる。


「そろそろ着くけど絶対に俺から離れるなよ」

「ちょっと待って、なに?危険な場所なの?」


 彼女の言葉を聞いていないかのようにビルの間から抜け出す。

 目の前に広がるのは先程までの乱雑としたコンクリートの町並みではない、遠くにある一つの建物を除けば文字通り草も何も無かった。

 言葉が出ない王女を置いてアイは勝手に喋りだす。


「あの建物が箱庭。今のこの国の実質的な支配者一族が住んでる場所だ。ドクが研究してた人造人間(ホムンクルス)を利用して、誰も逆らえない位の軍勢を手に入れた後は・・・この通りだ。そして俺がお前の正体を(うかが)ってる理由なんだが、記録に残っている王家の人間は42年前に流行り病とやらで全員死んでいる。大方、消されたんだろうな」

「その支配者って」

「四賢者達だ。どうやってかは知らないが、百を超えた今も現役らしいぞ。ちなみに北区の賢者は」

「第三賢者カルディナル・バルトール」

「・・・抜かりないことで」


 調べたのではないかと怪しむアイを睨み付けるが直ぐに目をそらした。


「こんなこと言っても信じないかも知れないけど、あの場所にいた記憶は残ってない。最後の記憶は多分賢者の雇った暗殺者に殺された所なのよね」

「殺された?」

「多分ね。部屋に入った瞬間背中と横腹を四回くらい刺されたはず。普段ならそんなことなかったんだけど、その日は丁度・・・」

「刺された回数覚えてんのにそこは覚えてないのかよ」

「丁度・・・何かあったのよね。無理ね、思い出せないわ」

「詰めが甘いなあ。そう言えば名前なんて言うんだよ、どの王女様を名乗るんだ?」

「どうして信じられないのかな? まあ良いは心して聞きなさい。私の名前は」


 二人のいた場所を突然影が横切った。

 それに対して王女は固まり、アイはその王女ごとすぐ後ろのビルの窓に飛び込む。

 一瞬の閃光、爆発。

 それによって生まれた熱と炎はビルの壁にさえぎられたが、二人の後を追うように窓から室内に流れ込んだ爆風は空中にいた二人を壁に叩きつける。

 アイの体をクッション代わりにして自称王女はほぼ無傷。

 クッションになった本人も特に目立った外傷はなく、すぐに呆然とする彼女の手を引いて起き上がらせる。


「ここまでの道を覚えているよな。俺が飛び出したのと同時に左にあるドアから逃げろ。家まで戻ればドクが何とかしてくれるはずだ」

「あ、あなたはどうするのよ」

「俺は」


 質問に答える時間を敵は与えてくれなかったようだ。コンクリートの壁を単純な体当たりで突き破りながらビルの中に入ってくる。

 形状は卵型。

 それに手足が生えたようなもの、両手の先端には大型の銃口、おそらくイオン砲であろう

 塗装をされていない銀色の金属の表面は先ほどの行為にかかわらず、傷の一つもついていない。

 対するアイの状態は最悪だ。

 昨日の戦闘で使用した分のエネルギーを補充していないうえ、戦闘許可もすでに終了している。


(あれを使うとしたら、手持ちの武器でなんとかするしかない、か)


「足止めしたら後を追うので心配なく」


 適当な言葉をかけた後、戦闘は始まった。

~~~~~~


 体内の冷却(クールダウン)中であった機関を徐々に戦闘態勢に変えていく。

 そして、それが終わる前に行動を始めた。

 上着の内側に隠し持っていた拳銃を抜くと同時に、反対の手から体一つ入る大きさの盾を出す。

 アイの動きに反応したのか、敵機は両の銃口からマシンガンのように弾を連射。

 それらは盾に当たり鈍い音をたてながら消えていく。

 この盾もいつまでもつかわからない。

 自称王女が逃げる方向とは反対の方向へとアイは盾の影から飛び出しながら拳銃を打つ。

 弾は銃口と足の関節部を狙って計四発。

 しかし、そのどれもが甲高い音をたてながら地面に落ちる。

 敵は無傷だ。

 だが、完全にこちらに注意を向けたよう。

 盾の方に集中していた砲撃が、そのまま背後に回り込もうとするアイの方に移っていく。その隙に盾の後ろから影が飛び出して、無事に反対方向のドアから外に出ていく様子を横目で確認した。

 これでアイにとっての気がかりはなくなった。

 緩急をつけて敵機の砲撃を回避し続けながら、拳銃で応戦するもこちらの体力が削られるだけのよう。

 すぐに拳銃が弾切れになってしまうが、替えの弾などあるわけがない。

 ある程度の距離を取った後、次の手を打つために先ほどと同じく盾を出す。

 その動作の隙に肩に一発受けてしまい、痛みが走る、がすぐにそれを遮断して手を動かす。

 用済みになった拳銃をもとの位置にしまった後、今度はこぶし大ほどの黒い塊を取ってタイマーをセット。そのまま銃撃を続ける後ろに投げ込みながら、自分はすぐ近くのビルの中に転がり込む。

 卵型の巨体はそれを手榴弾だと判断したのだろう。

 爆発に耐えられると計算して、アイの後を追ってビルに向かって突撃しようと足元に転がるそれを踏みつぶそうとしたとき、タイマーが切れた。

 手榴弾のように作られたそれは似て異なるもの。

 爆発と同時に内部に仕込まれた特殊な金属片が裏通りの一角、空気中に広がった。

 それはドクお手製の電磁チャフの上位互換のようなもので、電子系統で動いている機械はその機能を一定時間失う。

 その時間は15秒、作動の爆発音とともにアイは飛び込んだビルの階段を駆け上がった。

 屋上まで螺旋状に繋がっている階段を登り切った時にはすでにチャフの効果時間も終了。


(そろそろ再起動して屋上にいる俺を察知しているだろうな)


 目測、地上15メートル。

 屋上の端めがけて再び走りだしながら、武器の構造を構築していく。

 今の自分には昨夜使用した電磁極銃(リニアガン)だけでなく、武器の創造は許可されていない。

 というのは建前だ。

 体内のエネルギーを活性化、心臓が早鐘を打ち両腕の先に濃縮され、次第に形を変えていく。

 肌はオブラートのように溶けゆくが、その内側は肉ではない。現れるのは黒色の金属。

 元は掌であったその部分は手首から倍の長さの黒槍に変形する。

 

 本当はこれは槍ではない。

 武装を禁じられている今のアイに発動できるのは、攻撃力を持たない“第七番黒盾”のみ。

 重炭素からなる盾を槍の形として創り出したものだ。

 ちなみにドクには気づかれていない。


 アイは両手を槍と化し、走る勢いそのまま、屋上から飛び降りた。

 地上にて再起動した敵機もすぐに落下してくるアイに気づくと、背のブースターを展開してその巨体をぶつけようとする。

 加速しかしない両者が激突するのに時間など必要なかった。

 右の槍を突き出し狙いをその中心に定めたその直後、激突。


「ぐ」


 鈍い音が鳴り、衝撃が槍を伝ってくる前に自らの意志で崩壊させるも、わずかにその余波が体へと伝わり声が漏れてしまう。

 はじかれるようにビルの側面へと飛び、足を付ける。

 敵機の頭部は一か所だけへこんでいるが損傷というにはほど遠い。

 反対に急旋回しビルの側面に張り付いているアイめがけて再度突撃、それに対してアイは残された左の黒槍を構えて迎え撃つ。

 一瞬、拮抗したかのように見えた両者の姿はアイが足場にしていた外壁が壊れることによって消え去る。

 そのままビルの内部に入るも、地上に向かって突き進む機械兵のブースターは止まらない。

 アイにとっては単純に地面に叩きつけられることを繰り返されるような攻撃、だがその一撃一撃が強烈。

 故に、黒槍もそのたびに、機械兵の頭に深く、深く突き刺さっていく。

 そして最後の床を突きったと同時に決着がついた。

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