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31 償い

 麻衣のハエで食料を失ったシルフィード軍は城門から出てきてグノーム軍が立て籠もる陣地に突撃をかけるが、銃撃でバタバタと倒される。簡易な堀、土塁、柵に守られている上数に勝るグノーム軍を、シルフィード軍は撃破しなければならない。立場は全く逆転していた。


「みんな! 死ぬ気で行くわよ! 天使が勝てば私たちの勝ちだわ!」


 間宮は陣頭指揮を執って必死に兵士たちを鼓舞し、突撃を継続させるがどうにもならない。シルフィード軍は完全に詰んでいた。しかしラファエルにシンたちが負ければ意味はない。


「なるほど、あなたらしいくだらない計略ですね! ですが関係ないことです! 私があなたの首をとればね!」


 いくら人間同士の戦争に勝っても、即位すべき女王である麻衣を失えば意味はない。だが、負ける気はなかった。


 アスモデウスの変身が解かれ、シンは元の姿に戻る。葵は地中からひょっこり顔を出し、すぐさまシンは指輪の魔法を使う。


「火の力を風で増幅! 熱よ、俺の中で燃えろ!」


 体の芯から熱くなってきて力が湧いてくる。シンはラファエルに殴りかかった。ラファエルは高速移動で回避し、背後に回り込もうとする。どうにかシンは反応して後ろ回し蹴りを見舞う。ラファエルは蹴りを避けてさらに側面へ回り込み、剣を振り下ろした。シンは地面を転がって避け、水面蹴りを仕掛ける。ラファエルは飛び上がって避け、いったん距離をとった。


 熱の魔法で自分の身体能力を強化したのだった。この力を使用中は他の魔法は一切使えないが、ラファエルの高速移動にも対応できるだけの力が得られる。


「神代シン、あなたもしつこいですね……! ではこうしましょう!」


 ラファエルは指を鳴らす。ヤギの頭と翼を持った黒い悪魔が大量に出てきて、麻衣の方に向かう。麻衣の周囲にいた王国軍は発砲し、応戦するが相手の数が多すぎて混戦となる。そのうち、麻衣は悪魔の軍勢に囲まれてしまった。麻衣は自らも風の魔法を操って戦うが、多勢に無勢だ。


「こんな程度、なんでもありませんわ……! 〈和泉守兼定〉!」


 危ういところで羽流乃が前に飛び出して刀を抜き、一振りで三体ほどを両断してしまう。羽流乃の任務は麻衣の護衛だった。内心はわからないが明確に命令が出ているので、今回は日和らずきっちり働いてくれそうである。


 麻衣は頼もしい羽流乃の背中に守られながら、四方に突風を放って羽流乃を援護する。


「羽流乃ちゃんにも、ウチは不誠実やったな……。伝えなアカンかった。ウチの本当の気持ちを……」


「ハ、ハァ!? 何のことですか!?」


 羽流乃は覚えがないのに動揺しているといった風である。二人の間に何があるのかはシンのあずかり知らぬことであるが、きっと現世でのことだろう。麻衣は自分と向かい合って、着実に前へと進んでいる。


 しかしラファエルはそんな麻衣を嘲笑った。


「神代シンに気に入られるために、殊勝な態度を見せているつもりですか!? 天使である私の目はごまかせません! あなたの本質は何も変わっていない!」


「あんたはちょっと黙ってろよ!」


 シンは拳を振るうが、ラファエルはひょいと避けて小細工する。


「証明しましょう! あなたが今も罪を償う気のない薄汚い魔族であるということを!」


 ラファエルはまた、傷跡だらけの少女を呼び出す。麻衣が大阪でいじめていた少女、ミキチだ。


 思い返せば、絶命すれば転生するこの世界でミキチは麻衣に殺された後、何にも転生していなかった。ラファエルが再利用できるように回収していたのだろう。麻衣は顔をしかめる。


「ミキチちゃんを地獄に堕としておいて、よくいうわ」


 ミキチは自殺未遂を引き起こしていたが、死んではいなかった。それがこの世界に来ているということは、ミキチは現世で殺されたということである。犯人なんて、考えるまでもない。ラファエルが現世に使い魔でも送り込んで、わざわざ地獄に堕とさせたのだ。


「ハハハッ、自殺は神に背く重大な罪……! 裁きを受けて当然でしょう! 行きなさい、自分の望みを果たすために!」


「ガアアアアッ!」


 悪びれることなくラファエルは言い放ち、ミキチを麻衣にけしかける。ミキチはバフォメットタイプの悪魔と化し、麻衣に襲いかかる。羽流乃は迎撃しようとするが、制止して麻衣は自らミキチと対峙した。


「風よ、切り刻めやで!」


 鎌鼬が発生し、ミキチはバラバラに寸断されて地面に転がる。ラファエルはそら見たことかと勝ち誇る。


「やはりあなたは自分だけが大事なようですね! 罪を償う気など一切ない!」


「ふざけんな! 殺されるのが償うことじゃねーだろ!」


「他にどうやって償うというのですか! さっさと死になさい!」


 シンは頭に血を昇らせて再度殴りかかるが、飄々とラファエルは回避。しかし麻衣は落ち着いた様子で答える。


「ウチの罪は、他人を思いやらなかったことや。生き残るためには、そうするしかないと思い込んでいた……。あんたの言うとおりやで。ウチは自分のためにしか、力を使おうとせえへんかった……」


 麻衣はラファエルをまっすぐ見据え、宣言した。


「せやからウチは他の誰かのために力を使う。それがウチの償いや!」

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