間章3 暴食の魔王
穀物を一杯に積んだ船を奪った私は、叔父の住む都市に流れ着いていた。叔父は私がやったことを見て酷く驚いていたが、都市にも飢餓の波は押し寄せていて穀物価格は高騰していた。私と叔父は自分たちの分だけを確保した後穀物を売り払い、一躍大金持ちとなった。
都市内に広い屋敷を構え、私と叔父は商売をする。私の力と商売は相性がよかった。取引相手や商売敵の情報をハエで掴めば、商機は絶対に逃さない。何を取引しても、私たちは成功を収めた。
そのうち私たちは金貸し業を始める。一番安定して儲けられることに気付いたのだ。返済できるかできないかギリギリの額を貸し付け、裏から手を回して相手を破綻寸前に追い込んだところで身ぐるみ剥がしてケツの毛までむしり取る。十二分に利益があがる上、将来の商売敵を潰すことができて一石二鳥だった。
流行病で叔父が死んだ後も、昼も夜も問わず、私はハエを飛ばし続ける。一つの都市を制覇した後は、また次の都市。私は有力商人を次々と破産に追い込み、いつしか一国の王に比肩するほどの大富豪となっていた。田畑も、海も、街道も、工房も、全て私のものだ。もう私が飢える心配はない。
それでも、私は止まることができなかった。食うものもろくに得られなかった時代に戻るのが怖い。ただその一心だけで進み続ける。一国の経済を支配すれば、次の国へ。きっと私は全世界を支配しても、止まらない。
天井にぶつかるのは、早かった。虐げられていた民衆が武器を取って私の屋敷に押し寄せてきたのだ。あのとき領主を叩き殺した村人たちのように。民衆を先導して現れたのは騎士団であり、私は国家と教会の敵となっていた。
「暴食の魔女、大人しく神の御許に召されよ!」
騎士団の面々は炎上する私の屋敷に土足で踏み入る。私の体に剣を突き刺す。痛くもかゆくもなかった。力を使い続けるうちに私の体は変質していたのである。もはや私は、身も心も人間ではなくなっていた。
「フハハハハハハハハッ!」
私は高笑いしながら騎士をなぎ払う。一撃で騎士は屋敷の壁にめり込み、動かなくなった。
「ば、化け物め……!」
騎士たちはつぶやく。炎の中で、私は凄惨な笑みを浮かべた。




