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29 王の資格

 定刻通りにシンは広間に戻った。ただし麻衣を連れて、である。広間はざわめき、麻衣が逃げないよう監視するためついてきた羽流乃はため息をついた。


 シンは麻衣を上座に連れて行き、葵の隣の王座に座らせる。集まっている貴族たちの胸中を代弁して、葵が訊いた。


「どういうつもりだい、シン?」


「どうもこうもねぇよ。麻衣を女王にするために、もう一回シルフィードに攻め込む。俺たちにはそれしかない」


 シンは堂々と言い放った。広間のざわめきはいっそう大きくなる。


「殿下、魔族を王として認めろというのですか!」


「さすがにそれは……」


 貴族たちは戸惑い、難色を示す。予想はしていたことだ。シンの熱意で押し通してやる。それでも無理なら、どうするかは麻衣と相談してすでに決めていた。できるだけやりやくはない。頼む、認めてくれ。


 シンは熱弁を振るう。


「魔族だろうがなんだろうが、麻衣は麻衣だ。シルフィード女王にふさわしいのは麻衣しかいない! もう一回戦おう! リベンジマッチだ!」


 シンのあまりに脳筋な直球勝負を見かねたのか、ここでロビンソンがフォローを入れる。


「……エルフ族の里にあった文献によると、シルフィード王家の始祖は魔王ベルゼバブで間違いありません。血統、魔力で王を決めるのなら麻衣様こそシルフィード国王にふさわしい存在です。幸い、麻衣様は人間を襲うタイプの魔族ではない……。麻衣様が王となるのに、何の差し支えもないのではないでしょうか?」


 ロビンソンの言葉を聞いて、貴族たちは派閥同士でひそひそ話を始める。どうやら真面目に考える気になってくれたようだ。実のところ、麻衣を認めるというのは開戦賛成派貴族やシルフィード貴族にとって都合がいい。残った戦力で再戦して勝てば敗戦責任など吹き飛ぶ。ただ問題は一点、勝てるかどうかということだ。


 当然、葵はその点を突っ込む。


「で、どうやってラファエルとシルフィード軍に勝つ気なの? 僕とシンじゃラファエルに勝てないっていうのはこの間、よくわかったよね? それに現状、グレート=ゾディアックを落とす見込みも立ってない。もう一回やっても、同じ結果になるだけだと思うけど?」


 正論である。普通にやればシンたちはまた負ける。しかし麻衣がここで発言した。


「ラファエルも、グレート=ゾディアックの城壁も気にすることはあらへん。だって、ウチは魔王ベルゼバブなんや。記憶は全部取り戻した。どっちも、ウチなら潰せる。絶対や」


 麻衣が言い切ったので、葵は黙った。緊張で声は震えているし、顔も青い。それでも、麻衣は訴え続ける。


「せやからみんな、言いたいことはあると思うけどウチを認めてほしい。ウチについてきてほしい。ウチが戦って、絶対みんなを勝たせたるから……!」


 広間はシ~ンと静まりかえる。麻衣の言葉を信じていいのだろうか。魔族を王と認めていいのだろうか。そんな貴族たちの声なき声が聞こえてくる。


 そんな中、静寂を破ったのはエルフ族族長クイントゥスだった。


「麻衣様、よく言ってくれました!」


 クイントゥスは前に出てきて言う。


「シルフィードは元々我々のような亜人族も住んでいる国……。人間が最も多いとはいえ、その国の王が人間である必要はないと私は考えます。古の魔王であれば、天使にも勝てるはずです。麻衣様が女王になられるというなら、私たちエルフ族は喜んで従いましょう」


「我らドワーフ族も同じだ!」


「ワーウルフ族も異存はない!」


 エルフ族の説得で従軍していた亜人族から、賛同の声が飛び出る。意を決した顔をしてカストルポルックの守将を努めていたがグノームに寝返ったシルフィード貴族、レオンも麻衣を認める。


「私も、クイントゥス殿の言うとおりだと思います。たとえ麻衣様が人間ではないとしても、この内乱を治めて平和を取り戻せば、民も納得するでしょう。……国に帰りましょう、麻衣様とともに!」


 国を裏切ってグノームについたシルフィード貴族たちに、選択肢はない。彼らは麻衣を認めないのであれば魔族を担いだ大罪人になってしまう。麻衣を女王として勝利する他に、彼らが国に帰る術はない。


「……レオン殿がそういわれるのであれば!」


「私も麻衣様を女王にすべきだと思いますぞ!」


 次々とシルフィード貴族たちがレオンの意見に同意する。その波はグノーム貴族にまで押し寄せた。


「う、うむ! 我らならきっと勝てるはずだ!」


「あの天使を名乗る不届き者の翼をもいで、地面に這いつくばらせましょう!」


「グノーム王国万歳! 麻衣女王万歳! シルフィード王国万歳!」


 グノーム貴族たちもその気になる。「悪魔に騙されるな!」と叫ぶ者もいたが、歓声にかき消された。最悪、シンが麻衣を人間に転生するまで何度も殺すという計画だったが、実行の必要はなさそうである。


「……シンちゃん!」


「ああ!」


 シンは麻衣の指にシルフィード王家の証である風の指輪をはめてやる。会場全体に、万歳三唱が広がっていく。


「やれやれ。結論は出たみたいだね。それじゃあ明日、出発だ。もう一度シルフィード王国に攻め込む!」


 葵は宣言し、再戦が決定した。

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