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27 自己防衛

「最近ミキチちゃん調子に乗ってへん?」


「せやな、キーホルダーじゃらじゃらぶら下げててうざいわ。麻衣ちゃんもそう思うやろ?」


 みんなで一緒に下校している最中、突然麻衣は有人たちに訊かれ、ほとんど反射的にうなずいた。


「え? ああ、そうやな」


「麻衣ちゃんもそう思うやろ! せやから明日の班分け、うちら三人で組まへん?」


 クラスの人数的に三人組を作れば一人は余るが、ミキチならどこかに入れてもらえるだろう。一拍置いて麻衣は答える。


「あ、うん、ええで」


 そして次の日、三人組を作るとどこの班もミキチを拒絶してミキチは呆然と立ち尽くした。




 結局、ミキチが麻衣の班に入れてくれと言ってきて、四人班になった。他の二人は露骨に嫌な顔をして、麻衣は戸惑う。


 授業が終わった後、麻衣は二人に呼び出された。


「麻衣ちゃん、どうしてミキチちゃん入れたん?」


「そうやで。ほんまに迷惑や」


 わけがわからない。理不尽だ。麻衣はそう思ったが、逆らうことはできない。自分がやられる。


「ご、ごめん。次はちゃんと断るから、許して……」


「ほんまやで」


「頼むで、麻衣ちゃん」


 そしてミキチへのいじめが本格的に始まった。無視、仲間はずれは当たり前で物を隠されたり、捨てられたりする。麻衣も悪いと思いながらミキチとつるむのをやめた。


 しかし皆は麻衣が消極的いじめに加わるだけでは許してくれなかった。ある日校舎裏に麻衣は呼び出され、火のついた煙草を渡された。こんなもの、どこから持ってきたのだ。まさか自分に吸えというのか。麻衣が困惑していると、呼び出した女子たちは苦笑いした。


「吸えっていうのとはちゃうで。だって煙いやん。こっちや」


 麻衣は校舎の壁際に案内される。そこにはミキチが不安そうに立っていた。


「この間のリレー大会、こいつのせいで負けたからな。こいつには根性が足らんからアカンねん。せやから、根性焼きや」


 女子たちの連携プレーは見事だった。麻衣やミキチが何か行動を起こす前にミキチを取り押さえ、麻衣も腕をとられる。


「いやっ、やめて! やめて~!」


 ミキチは泣き叫び、麻衣は顔面蒼白になる。こんな拷問まがいのことをやっているのか。麻衣は泣きそうになりながら訴えた。


「こ、これはアカンやろ……!」


 しかし逆に麻衣は女子たちににらまれる。


「なんや? 麻衣ちゃんもこの根性なしの仲間なんか?」


「せやったらまず麻衣ちゃんに焼き入れなアカンなあ」


 どんどん空気が悪くなっていく。後から思えば、このときに泣いて暴れるとか、先生に言うとか、何かしら反抗しなければならなかった。でも、麻衣にはできなかった。今にも麻衣の後ろに控える女子たちは、麻衣を取り押さえようと動き出しそうな雰囲気だ。


(やらなきゃ、ウチがやられる……! ごめん、ミキチちゃん……!)


 麻衣は震える手で、煙草の火をミキチの腕に押しつけた。


「ギャア~ッ!」


 ミキチは獣の叫び声のような悲鳴を上げる。女子たちは愉快そうに笑った。麻衣は身震いが止まらない。まるで地獄にいるような気分だった。


(絶対、こんな目には遭いたくない……!)


 だから麻衣は、率先してミキチをいじめることにした。みんながミキチのノートをハサミで切ろうとしたとき、麻衣はカッターを持ち出してミキチの制服をズタズタにしてやった。みんながいたずらで水を掛けようという話をしていたとき、麻衣はミキチを真冬のプールに突き落とした。


 いつもミキチは麻衣の前に這いつくばり、恨めしそうに麻衣を見上げる。麻衣がミキチに言うことは同じだ。内心反撃にビクビクしながら、麻衣はミキチを見下ろして言ってやる。


「何かあったらおまえの父ちゃん、会社にいられへんようになるからな。わかってるやろな?」


 ミキチは悔しげにうつむく。実際には麻衣の父が会社にいられなくなるのだが、このときの麻衣には知る由もなかった。

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