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25 背負う重み

 奥の控え室で、葵はシンに訊いた。


「麻衣を殺せば、現世に帰れるっていえば君はどうする?」


「ふざけんな、そんなんで帰っても仕方ないだろうが」


 シンは即答し、葵はやれやれと嘆息した。


「現実的な手段なんだけどね。事態を収拾するためには、彼女を殺すしかないっていうのもあるし」


 大昔に地獄に堕とされたアスモデウスが現世に戻るとき、使ったのは『命の剣』だ。王都アストレアの民を生贄に巨大なブラックホールを作って空間をねじ曲げ、地獄と現世をつないだのである。その際、他の魔王の魔力を奪ってブラックホールを制御した。


 しかし魔王の魂、つまり麻衣の魂を生贄に捧げれば、同じように巨大なブラックホールを作れる。指輪は揃っているので制御も可能だ。麻衣さえ犠牲にすれば、シンたちは今すぐ現世に帰れるのである。


「僕らが消えればミカエルやラファエルもこの世界には介入しないだろう? いい案じゃないかな」


 もう一人の魔王の魂の持ち主を見つけて、協力して現世への扉を開くより麻衣一人を犠牲にするのは現実的だ。頭ではシンもわかる。だが、認められない。


「……俺は絶対に麻衣を犠牲になんてしない」


「他にどうするの? 結局、勝てばいいんだけどさ、ラファエルには勝てないだろう? グレート=ゾディアックを落とすのだって厳しいし。そもそも、魔族の麻衣を認めさせるなんて無理なんじゃない? 生まれついて貼られたレッテルを剥がすことなんて、できはしないのさ」


「……どうにか方法を考えるさ」


 シンはそう答えるので精一杯だった。無論、方法なんて何も思いつかない。




 シンは広間の入り口に出た。少し外の空気を吸いたかったのだ。そうすれば、何かいい案を思いつくかもしれない。半ば現実逃避だった。


 シンは中庭で空を見上げる。どんよりしているシンとは対照的に、日差しが気持ちいい快晴だった。


「ハァ……。どうすりゃいいんだ……」


 シンがそのままぼんやりしていると、二次元三兄弟がやってきた。西村と井川は従軍していたのだが、無事だったらしい。よかった。


 しかし様子がおかしい。西村と井川が落合を止めようとしているように見える。落合は西村と井川を振り切り、肩をいからせてシンのところまでズンズンと歩いてくる。


「どうしたんだ?」


 シンが訊くと、落合はシンの胸ぐらを掴む。


「狭山が大怪我したそうだな! 何やってんだ、バカヤロー! だから戦争なんかやめろって言ったんだ!」


 落合はシンをぶん殴ろうと拳を振り上げる。


「やめなよ、落合君!」


「そうだ、落ち着け!」


 西村と井川は落合の腕に取り付き、必死に制止する。しかし大柄な落合を二人では止めきれない。


「……そうだな。全部俺の責任だ」


 シンは抵抗するのをやめ、甘んじて落合の拳を受け入れる。落合の拳はシンの頬にまともに突き刺さり、シンは膝をつく。


「すぐにでもシルフィードが攻めてくるって噂だ! どうするつもりだ! 今度は怪我じゃ済まないかもしれないんだぞ!」


 落合はシンの胸ぐらを掴んで立たせる。殴られた頬がやけに熱い。ラファエルの剣に貫かれたときより痛い。


(俺は……甘かった。ホイホイ乗せられて、いい気になってるだけだった……!)


 戦争なんだから仕方がない。そう言うのは簡単だが、戦争を始めたのはシンである。なら、何をやってでもシンが戦争を終わらせなければならない。シンにはその責任がある。プレッシャーで、気持ち悪くなりそうだ。


「おい! 殿下に何をやっているんだ!」


「不敬罪で処刑するぞ!」


 騒ぎを聞きつけて衛兵が駆けつけてくる。


「……俺の客だ。手出しするな」


 衛兵は落合を捕縛しようとするが、シンは衛兵を追い返した。そして、落合の腕を払って強く睨み返す。


「絶対俺がなんとかする。俺はそれだけしか言えない……! だから、待っていてくれ……!」


 これは、シンがやるべきことだ。他の誰にも渡さない。

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